世相の潮目  潮 観人

世相はうつろい易く、その底流は見極めにくい。世相の潮目を見つけて、その底流を発見したい。

迫る台湾危機に日本大手メディアは緊張感が乏しく報道しない

2024年04月05日 | 現代

戦火を交えている欧州と中東の戦争に人々の注目が集まり、それに日本大手メディアの報道が集中するのは仕方ありませんが、戦争勃発のマグマが溜まる台湾の危険を告げる報道には緊張感がないようです。

習近平は台湾統一に武力行使を排除しないと言い、バイデンの米国は台湾を守ると何回も言う、しかし両者ともその危機が差し迫ったものと考えているか疑わしいからです。しかし台湾の軍事衝突勃発のマグマは急速に高まっていると見ます。

その兆候は、軍事行動で見るよりも中国の国家経済が破綻する危機の度合いで見た方がよいのです。これが台湾危機の引き金になるかもしれませんから。

過去に途上国から中進国に発展した国が先進国入りに成功した例は意外に少ないのです。所謂中進国の罠に填まる国が多いのです。中国経済は、今その罠に填まっているのです。資本主義で成功するには政治的な自由、即ち民主主義体制に切り変える必要がありますが、共産党独裁では不可能だからです。

中国はそれに気づき、外資導入、技術搾取を試みますが、中国が共産主義体制を変えない限り資本主義国側ではそれを許しません。中国は今先進国のサプライチェーンからの排除、即ち世界の工場から隔離されつつあります。それは独裁政権による自由市場を無視した過剰投資が原因で、自由市場が攪乱されるからです。最近、イエレン米財務長官は訪中してそれを是正しようとしていますが成功しないでしょう。

先の中国全人代でGDP5%成長と軍事費7%増額を本年の目標に掲げましたが、これは民需での停滞を軍需でカバーする富国強兵策です。国民経済が停滞すれば、やがて軍事経済も行き詰まりして破綻に追い込まれること必定です。

国家経済の破綻で国内の不満が勃発するのを回避する手段は、対外進出するのが常套手段です。

習近平政権は台湾での親中政権の復権を図ろうと今年の台湾選挙に介入しましたが、不発に終わり、親米の頼清徳政権が勝利しました。これを警戒した米国は昨年から原子力空母をベトナムや、韓国に寄港させていましたが、更に今年は米大統領選挙まで一旦緩急に備えて米国空母のアジア派遣を増加して中国の軍事行動を牽制する方針です。

一方中国は最近、南・東シナ海で台湾とフィリピン船に強硬手段を乱用して軍事緊張を高めていますが、これも台湾新政権が米国依存を強めるのを牽制しているのです。今年初め、台湾副総統就任予定の蕭美琴が私的訪米したとき米中関係の緊張が高まりましたが、次の頼清徳次期総統の訪米時には、更に緊張が高まるでしょう。

最近、バイデン・習近平両首脳は電話会談を行いましたが、台湾問題では従来の立場を述べ合っただけでした。台湾を巡る米中対立は確実に高まっていますが、その背景と水面下の動きを日本の大手メディアの報道でみることは少ないのです。
以上

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世界システム変換の兆しが戦後初めて現れたと言うけれど

2024年03月02日 | Weblog

コロナ禍で世界の社会経済体制が大きく揺さぶられた後、ロシアがウクライナに戦争を仕掛け、それが長引いているとき中東でガザ紛争が勃発し、今、中国が台湾獲得に動くことか危惧されています。

この状況は、第二次世界大戦後に初めて世界システムを変える兆しが現れていると見るべきなのでしょうか。世界システムの変化とは、言うまでも無く世界覇権の変更です。具体的に言えば、中国・ロシアの専制国家が欧米の民主主義国家の造った世界秩序を変更することです。両陣営が覇権を争う場所を具体的に指摘すれば、それは金融での基軸通貨の支配競争であり、エネルギー資源の市場支配競争です。

確かに基軸通貨ドルを弱体化させる攻撃は既に始まっています。ウクライナ侵攻で西側は経済制裁を加えると、中国は石油・ガスを安値で買い増して決済は人民元でした。そのため中露貿易は95%がドル依存から離れました。

今のところ、SWIFT(国際金融送金する世界的な決済ネットワーク)から外されたロシアはCIPS(人民元決済システム)に依存してて事なきを得ています。しかし当面は凌いでも人民元の国際決済での利用増加は見込めないので長続きはしないでしょう。何故なら中国は社会主義の国ですから資本取引規制の壁は外せないので、人民元が広く普及することは困難だからです。

他方中国はサウジなど中東産油国に接近して石油取引を人民元での決済するよう働きかけています。米国とサウジの間で成立しているペトロダラー取引の切り崩し作戦ですが、どこまで進展するかは不明です。サウジが人民元で購入する物資が世界市場に十分あるとは思えないからです。

むしろ逆に石油を巡る資源戦争は、長期的には米国のシェルガス開発が再開となると、原油価格の下落になり、劣勢になるのは中東、ロシアの石油輸出国側です。エネルギー資源の市場支配競争でも、世界システム変換を狙う中国・ロシアの専制国家が既存の世界体制を覆すことは難しいでしょう。

基軸通貨、エネルギー資源の支配競争を離れて、経済情勢の現実に目を向ければ、世界システム変換などと論じるまでも無く明瞭な現象が現れています。

コロナ後のインフレ抑制の高金利政策にも拘わらず米国経済は絶好調です。米国の金融引締の煽りで途上国経済の中には困難が発生していますが、日本経済はドル高円安の恩恵を受けて、長年の停滞から脱出する兆しです。ドル高で米国は輸入品は安くなり輸出品は高くなるので一石二鳥のメリットがあるのです。これが基軸通貨国の強みであり、ドル高は米国の経常収支も改善し、更にドル高は進む好循環が進むのです。

逆に中国は、一帯一路で海外に莫大な不良債権を積み上げたあげく、国内にも不要不動産投資の不良債権を蓄積し、そこへが米国の高金利政策で金利上昇が襲いますから益々解決困難に陥っています。更に中国はドル高による輸出価格の低下を余儀なくされ、中国の外貨準備は減少して人民元は下落に向かってます。米中両国の経済の好調・不調の対照的な現象は、中国経済の将来にボディブローのように効いてくるのは間違いありません。

ウクライナ戦争に端を発するエネルギー危機、食料危機、そして続けて始まったイスラエル・ハマス戦争は、確かに不幸で悲惨です。センセイショナルな話題を好み、地味だが重大な経済現象を報道しないのは大手メディアの通弊ですが、今、世界で進展している経済変動の大きい波は、世界システムの動向に決定的な影響を与えますので注目したいものです。
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イエメンのフーシ派軍事組織の海賊行為を日本は軽視すべきでない

2024年01月25日 | 政治

今年もウクライナ戦争とガザ紛争は続くでしょう。砲弾とミサイルが飛び交い空爆が止まないでしょう。世界の危機意識は両戦争に引きつけられて、その他の紛争、インド洋での海賊行為などは見過ごされるかもしれません。

しかしながら、アラビア半島に面するインド洋において繰り返されるイエメンの反政府勢力のフーシ派武装勢力が行う海賊行為は、二つの熱い戦争にも劣らず重大な影響を与える段階に至っています。

従来のフーシ派武装勢力の海賊行為は小舟で防護体制の手薄なタンカーなどを襲い、身代金を強請るレベルのものでしたが、最近のフーシ派海賊は、対艦ミサイルで脅迫し、ヘリコプターで空から急襲する武装ゲリラになりました。

スエズ運河を経由する船舶の多くが標的になるので、アジア欧州航路の船舶の多くは、スエズ運河を回避して南アフリカ経由に切り替えつつあるとのことです。そのため航路の延長で増加する時間と経費の増加は30%を越えると言います。

この国際貿易に与える重大な悪影響を憂えた米国と英国は、フーシ派のテロ行為は単なる海賊行為ではなく、疑似戦争行為に相当するとしてフーシ派のイエメン基地を空爆しています。その軍事作戦をオランダ、オーストラリア、カナダが支援しました。更に関係10ヶ国は共同声明で米英軍の行動を「航行の自由や不当な攻撃から船員の生命を守るという共通の決意を示した」と評価しましたが、その声明にドイツ、韓国などが加わっていますが、日本の名前はありませんでした。

イエメンの反政府勢力のフーシ派は、ガザで戦うハマスを応援するため海賊行為だと言っていますが、実はイランからの軍事支援を受けた、イランの中東政策の一環なのです。

ご存じのようにイランは、レバノンでのヒズボラ、ガザでのハマスのゲリラ組織に武器や資金を供与していますが、イエメンでのフーシ派にも軍事援助を行い、代理戦争を試みているのです。従って米英軍のフーシ派基地攻撃はイランのゲリラ支援行動への警告でもあります。

イエメンのフーシ派の海賊行為を、日本が遠い中東での事件と軽く見るのは過ちです。台湾有事にはシナ海のシーレーンを中国の対艦ミサイル攻撃に曝されることを想定すれば、日本がイランに配慮して10ヶ国共同声明には参加しなかったのは間違いであり、林官房長官談話で批判することにとどめているのは、危機意識の欠如と言えます。
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中国経済が今後も先進国入りして成長を続けると期待するのはやめた方がよい

2023年12月05日 | 現代

戦後、途上国から先進国に仲間入りした国には韓国、台湾、シンガポール、香港がありました。アジアの4小竜と言われ、経済発展の好例として賞賛されました。これらの国は、発展の当初は独裁政権の強権で経済発展を指導しましたが、成長するにつれて政治体制を民主主義体制に変換して先進国入りに成功したのです。

続いて経済発展を企てた中国は、1978年鄧小平の改革開放で市場経済を取り入れて成長・発展を開始して、未だ途上国経済の段階でしたが2001年世界貿易機関(WTO)への加盟を許されて、「世界の工場」として目覚ましい高度成長を続けました。この中国の成功には所謂米国の「関与政策」に助けられたところが大きかったのです。

米国の「関与政策」とは1972年ニクソン元大統領が始めた政策であり、世界政治のパワーバランスをとるため冷戦の敵であるソ連に厳しく、ソ連に対抗する中国を優しく育てる政策でしたから、米国の関与政策は中国共産党の真の長期的目標までを理解しておらず、中国に甘い政策でした。

例えば米国は未だ中国経済は途上国段階なのに早めにWTO加盟を認めたり、ルール違反しても途上国だからと目を瞑ってきたのです。しかし2014年毛沢東主義の習近平が主席に就任してからは、中国は政治的に本性を表して権威主義を強化し、太平洋を米中で2分割支配するなどの構想を打ち出したりして米国との対決姿勢を示したので、米国は世界政治のパワーバランスをとる関与政策が誤りだったと気付いたのです。

しかし中国は既に経済規模で世界第二位の大国になり、中進国の水準に達しています。但し政治体制は共産党独裁を維持したままで、国民による自由選挙を行わず、企業にも国家統制を強化し続けています。他方、一人当たりGDPは未だ1万ドル未満で先進国入りは果たしていません(中国政府は一人当たり国内総生産(GDP)は1万ドルを超えたと主張していますが、中国発表の統計に信憑性がありません)。

そこで中国政府は先進国経済に這い上がろうと、著作権、特許権などの盗用、政治的理由での輸出入禁止・制限など、WTOに加盟しながら自由主義経済の基本ルールを無視した行動に出ているのです。慌てた米国は、米中は対決ではない競争だ言葉を濁していますが、これに対処するには「関与政策」は辞めて、所謂decoupkingとかderiskingという言葉で語られる戦略的封じ込め政策に転じました。

これまで豊富な労働力と低賃金をバネとして発展してきた中国経済でしたが、関与政策の支援が無くなれば世界の工場も終わりになり、戦略的封じ込め政策によって今後の中国経済の発展は見込めないでしょう。

それなのに習近平訪米時には米国産業界とのパーティに高額会費にも拘わらず300人も財界人が集まったと言いますから、米国産業界の対中関心は高いままのようです。しかしながら日本の産業界は、独裁国家・中国が今後も先進国入りに成功して成長を続けると期待するのは辞めた方がよいようです。
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ガザ紛争の早期停戦に働けるのは先進国では日本だけかも知れない

2023年11月07日 | Weblog

ハマスのテロ事件でイスラエルの自衛権行使を支持して、バイデン大統領は真っ先にイスラエルに飛び、ネタニヤフ首相と会談しました。続いて米、英、仏、独、伊の5ヶ国首脳は共同声明を発表してイスラエルに対する揺るぎなき支持を表明しました。

その中で日本の岸田首相は、早速X(旧ツイッター)で双方に自重を求めると発言し、G7の議長国なのにテロ事件批判の認識が足らないと内外から批判されました。

しかしながら、かねてより日本は、エネルギー資源の依存度が極端に高い中東諸国に対しては全方位外交を進めており、また植民地支配の経験の無い唯一の先進国として中東諸国と友好関係を維持してきましたので、当該地の紛争についても緊張緩和に貢献する姿勢を示したものとして、岸田首相の発言は批判されるものではありません。

ハマス絶滅を宣言するイスラエルの地上作戦が始まると、危惧したとおり世界各地でアラブ世界からイスラエルの戦闘行為を中止せよとの声が上がり、恰も当初のハマスのテロ行為を正当化するが如き動きまでの勢いとなっています。

真っ先にイスラエルの自衛権を認めた米国は、イスラエルの地上作戦を抑制させる努力をしたにも拘わらず、地上戦闘はガザの南北分断と、北部のハマス空爆激化で、多数の民間人の犠牲が出ており、事態収拾に困惑している状態です。

早期停戦が叫ばれている今、東京でG7外相会議が開かれています。批判だけで行動しない国連に代わって、紛争当事者の仲裁のイニシアチヴをとれるのは先進国では中立的立場の日本だけではないでしょうか。
以上

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台湾危機は遠のいたとの風説に惑わされてはいけない

2023年10月08日 | Weblog

昨年2月にロシアがウクライナに戦争を仕掛けましたが、簡単に勝てると考えたロシアが苦戦を強いられて苦境に立たされています。その原因はロシアの戦争が明らかに国際法違反だとして欧米諸国が結束してウクライナを支援しているからで、中国が台湾へ軍事侵攻した場合も欧米は一致して台湾を支援するから台湾併合も簡単には成功しないと習近平は考えるだろう、だから台湾危機は遠のいたとの意見が出ています。

ところが中国は台湾は中国の一部だからウクライナとは事情が違う、国際法違反にはならないと言ってます。米国も上海コミュニケで「一つの中国」を認めているではないか、中国が軍事侵攻しても内政問題だから米国を始めとして西欧諸国は介入すべきでないのだ、台湾侵攻はロシアの外国侵略戦争とは違うのだ、と主張しています。中国は台湾統一を合法的と考えているので、依然として台湾危機は去らないのです。

しかし「一つの中国」という表現は、米中国交回復交渉のとき中国と台湾が互いに「一つの中国」を主張したので、米国はその事実を上海コミュニケで認めた言葉で、一義的に台湾が中国の一部だと認めた言葉ではないのです。言うなれば「一つの中国」は両論併記であり、中国だけの主張ではないのです。

台湾は歴史的に大中華圏に属していたのだから自由主義圏に留まるべきでなく、中国大陸に併合すべきだと言うのが中国の台湾所有の論拠ですが、これはウクライナはもともと大ロシア勢力圏の一部だったのだから、ウクライナはEU圏にはいるべきでなく、ロシアの勢力圏に留まるべきだという考え方と同じ論法で、現代の世界では時代遅れの帝国主義的考えです。第一次世界大戦後のベルサイユ会議で各民族はその政治体制を自らの意志で決定する権利を持ち、他の国家による干渉を認めないとする民族自決主義が認められているのです。

戦後にその民族自決主義が実現した実例に2002年にインドネシアから東チモールの独立があります。東チモールは人口は約60万人で経済的自立はできない小国でしたが、世界中の国が独立を承認し、インドネシアもこれを認めました。それに比べて台湾は人口は約2000万人で中進国経済を実現し、半導体では先進国と肩を並べ、自由選挙で政権交代する立派な民主主義国です。

それなのに何故台湾の独立を世界各国が認めないのでしょうか?
今日まで中国と台湾は互いに自国が中国なのだと主張しているので、中国と台湾は「一つの中国」実現に向けてそれぞれが自国の独立承認国を増やす外交努力を展開しています。このような事態を招いた原因は米国が国交回復に際して米中で交わした上海コミュニケにありますから、米国は台湾の独立を認めて「一つの中国」に終止符を打つ責任があります。

上海コミュニケでは、台湾問題についてアメリカは平和的解決の重要性を主張し、中国は究極的な統一の必要性を主張していますから、武力統一を公言する中国に対抗するため米国は台湾への軍事支援を強化して中国の武力統一を防ぐ責任があり、そのための台湾関係法を既に制定しています。

NATO拡大を危機と受け止めたプーチンは愚かにもウクライナに手を出しましたが、国内経済が崩壊の危機に陥っている今、その危機打開のために習近平が予想より早く台湾に手を出さないとは限らないと、現在のバイデン政権は台湾軍事衝突を危惧している様子がうかがえます。

最近発生した米国下院議長解任劇はウクライナ支援よりも対中戦争への準備を重視せよとの意見の現れでありますし、日米両国の防衛相がトマホークの日本への供与を前倒しにしたのは台湾危機への備えです。また年初来の多数の米国政府高官の中国訪問や最近の上院議員団の中国訪問発表は、近づく台湾戦争への米国の危機意識の現れなのです。

他方、中国側では改正スパイ防止法強化しているのは台湾攻撃前の態勢作りですし、最近の中国防衛相解任は軍部の台湾攻撃慎重派への制裁と言う見方があり、これらの動きは習近平主席が台湾軍事侵攻の準備を進めているシグナルと受け取るべきでず。ですから台湾危機が遠のいたという風説に惑わされてはいけないのです。
以上

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国内に難問を抱えたとき外の世界が見えなくなる大国、中国

2023年09月17日 | Weblog

今年2月中国スパイ気球が米国上空で撃墜されてから米中対決が厳しくなりましたが、その後は米国はブリンケン国務長官の訪中を始め、多数の政府高官、実業家トップが相次いだ訪中して対中関係の改善を働きかけています。

しかしながら中国側はシャングリラ会議での国防大臣の会談を拒否したり、米国の訪中会談への返答としての中国政府高官の米国派遣も全く無く、米中折衝を避けている状況です。更に、インドでのG20会議にはバイデン大統領は出席しましたが習近平主席は欠席しましたし、習主席は今秋の国連総会にも欠席予定ですし、その後米国で開催のAPEC会議への出席も未定とのことで、米中首脳会談の予定は立っていません。

中国は2049年までに米国のGDPと同じになり、2027年までに軍事力で米国に追いつくと豪語しており、習近平政権は世界覇権を握ることを究極の目標としています。しかしながら今年はゼロコロナ政策の失敗で国内経済は停滞し、折しも不動産バブル崩壊が始まる時期に遭遇し、国家経済は破産の危機にあります。

中国経済が破産の危機を乗り越えるには、米国を始めとした資本主義国との経済交流を盛んにするしか道はありませんが、習近平政権は逆の道を歩んでいるのです。毛沢東信奉者の習近平は鄧小平路線を否定して、国有企業優先し民間企業を圧迫しています。進出した外国企業も共産党の監視下置き、最近施行された改訂反スパイ法では企業に対して国家の安全と利益にかかわる情報提供収集の強化とスパイ行為発見の通報義務を課しました。これでは外資の誘致は難しく、自らチャイナリスクがあると喧伝しているようなものです。

中国の長い歴史を見ると、大国なのに国内に難問があるときには中国は内向きになり、外の世界を客観的に見ることが出来なくなるようです。高度成長期に始めた一帯一路の覇権拡大政策も世界各地で数多くの敵対国を作り陰りをみせていますが、周辺国と領土・領海で衝突して緊張が高まっているのも内向き大国の所為でしょう。中国政府は領土・領海を主張するシナ海に十段線を引いた新地図を、この時期に発表しましたが、折しも開催されていたインドネシアでのASEAN首脳会議では強い反発を受けましたし、領土紛争を抱えるインドでのG20首脳会議には習近平主席は出席出来ませんでした。

国際戦略学者エドワード・ルトワックは、大国でありながら「自分たちに都合の良い外の世界を発明」して行動する中国を、自閉症の内向き国家と述べています。
以上

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アメリカの対中包囲網政策は始動している

2023年08月21日 | 政治

欧州でウクライナの熱い戦いが世界の注目をひいているなか、アジアではアメリカが着々と対中包囲網を構築しています。

バイデン政権は8月18日にキャンプデービッドに日韓首脳を招いてアジア安全保障会議を開きました。その狙いは、1992年鄧小平が日韓関係に楔を打ち込むため、北朝鮮の反対を押し切って、韓国と国交開始したことに対する米国の反撃なのです。

韓国が中国と国交を開始した以後、鄧小平の狙い通り韓国経済は対中依存を深めます。その結果、2015年中国主催の抗日戦勝70周年記念式典には、自由主義陣営からただ一人朴槿恵大統領が出席するまでに韓国を取り込みました。以降、北朝鮮寄りの文政権まで中国は反日韓国育成に成功したのです。

それに対して、今回米国は尹錫悦保守政権樹立の好機を捉えて、日韓関係の修復を図りながら韓国への中国の影響力を排除する作戦を開始したのです。これまで韓国は自由主義陣営にありながら、QUAD,TPPに未加盟ですので、先ず日米韓の三国同盟の強化を図ったのです。

これより先に、2023年5月にバイデン政権はフィリピンのマルコス大統領を米国に招いて米比首脳会談を行い、「南シナ海を含むフィリピンの防衛に対し、米国は鉄壁のコミットメントを維持している」と明言しました。それは南シナ海でフィリピン軍への武力攻撃があれば、米国とフィリピンの防衛義務を定めた1951年の米比相互防衛条約の取り決めが発動されるとしたことです。

何故これほどまでに米国がアジア諸国との対中包囲網構築に力を入れ始めたかと言うと、中国の最近の好戦的な態度に米国は危機意識を高めているからです。2023年6月ブリンケン国務長官は習近平主席と会談したときに中国が米国との軍事衝突の危機回避を拒否したと判断したからです。

習近平の台湾侵攻はあるかどうかではなく、何時あるのかの問題と言われていますが、最近は中国は国内経済危機で対外侵攻どころではない、危機は遠のいたとの観測が出ています。しかし改革開放で外国依存体質となった中国経済は、第一列島戦の洋上封鎖を防ぐために台湾獲得は至上命題の筈です。いま中国経済が危機にあるからと言って、台湾侵攻をあきらめることはありません。

中国は、近年地域覇権国として周辺の弱小国に軍事上、貿易上の圧力を加えています。フィリピンも韓国も中国の台頭を懸念している弱小国ですので、米国はそれら弱小国をバックアップして中国包囲網を構築しようとしているのです。

米国の戦略家ジョン・J・ミアシャイマーは、これを米国のオフショア・バランシング同盟と称していますが、冷戦時代に米国がソ連に仕掛けた国際戦略でした。米国はこのオフショア・バランシング同盟の結成を、今後インドネシア、ヴェトナム、マレーシアなど東南アジア諸国に広げていく筈です。勿論、日本は既にオフショア・バランシング同盟の有力な一国であります。
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ウクライナ戦争は冷戦構造の回帰をグローバル化した

2023年07月16日 | 現代

ウクライナ戦争は、プーチン大統領が大ロシア連邦の実現を達成しようと始めた特別軍事作戦で開始されましたが、ウクライナ軍の抵抗でプーチンの特別軍事作戦は頓挫し、その後の戦争は、西欧諸国の支援で反撃に出たウクライナ軍と占領地を確保しようとするロシア軍が対峙する膠着状態に陥入っています。

7月11日12日にリトアニアで開催されたNATO会議ではこの膠着状態を打開するためG7各国からウクライナへの長期軍事支援が約束されましたが、NATOへの早期加盟を求めるウクライナの要望は退けられました。ロシアと戦争中のウクライナをNATOに加盟させることは、NATOとロシアの戦争となり、核戦争の危険が増大するとの懸念からでした。

しかしながら、他方ではこのNATO会議では中立国だったスエーデン、フィンランドのNATO加盟が認められ、その結果バルト海は完全にNATOの海になったので、ロシアの海洋進出の出口は塞がれてしまいました。

プーチン大統領としては、ソ連崩壊後にNATOが次々と東欧諸国を加盟させてロシアに迫るのを阻止しようとして、ウクライナだけはロシア圏に留めようとしたのですが、逆にNATOの結束を強める結果になり、西欧ではこれでロシアとは冷戦構造へ回帰したと見ています。

しかし西欧の冷戦構造への回帰を一番恐れているのは,実は中国なのです。と言いますのは旧ソ連圏だったウクライナを勢力圏に取り込もうとしたロシアと同じく、中国は台湾は嘗て中国の支配下にあったと主張し、軍事力で台湾を併合しようとしているからです。しかもウクライナ戦争を始めたロシアと中国は緊密な協力関係にあるので、中国は覇権主義の国として西欧諸国からも警戒されるようになっているからです。

いま台湾を巡り米国と激しく対立している中国はこれをアジアでの冷戦の始まりと言われるのを恐れていますが、中露が緊密な関係なので、ロシアとの冷戦復活に苦しむ欧州諸国は、ロシアと協力関係にある中国の台湾侵攻をアジア版冷戦の開始とみるのは必定です。

西欧諸国のアジアへの関心、さらには懸念が強まっていることは次のような事実に現れています。
今年5月21日閉幕した広島G7サミットでは、ウクライナ支援の共同歩調、中国覇権主義への警戒共有、核軍縮・核不使用確認の3点で合意しました。
7月12日に日本とNATOは、安全保障16分野での協力文書「国別適合パートナーシップ計画」に合意しました。その中で覇権主義的行動を強める中国をにらみ、インド太平洋地域での連携拡大を打ち出しています。
7月13日に行われた第29回日EU定期首脳協議では安全保障協力拡大で合意し、その中で、マクロン仏大統領の台湾不介入の発言にも拘わらず、EUは台湾海峡の平和と安定の重要性を指摘し、台湾問題の平和的解決を求めると述べています。

ウクライナ戦争は未だ解決の目処は立ちませんが、その影響は日本とNATO、日本とEUとの安全保障に関する協力関係の強化に現れています。冷戦構造の回帰はグローバル化したのです。
以上

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中国の対米強硬姿勢は広島G7会議決定に対する焦りの現れ

2023年06月22日 | 現代

最近米中関係が険しくなっていると報道されますが、その始まりは2018年10月に当時のペンス米国副大統領が新冷戦を予感させる強い対中批判演説を行ったときから始まっていたのです。特に去る5月に開催された広島G7会議の後、中国の攻撃的な行動が顕著になっています。

米本土上空を横断したスパイ気球の撃墜が原因で遅れていたブリンケン国務長官の訪中が6月にようやく実現しましたが、米国が緊急を要すると求めた米中軍事衝突の回避方策について合意がなされなかった模様です。

広島G7会議で先進7ヶ国が台湾海峡の秩序維持を宣言したことに対し、中国は台湾問題は中国内政問題だとして反発しており、その現れが南シナ海の海空で米軍に異常接近する妨害行為でして、不測の事故を危惧する米国は早期に米中軍事ホットラインの樹立を求めたのですが中国は突き放しました。

また、広島G7会議で先進7ヶ国は経済的に中国経済に依存する危険を軽減するDeRISK政策を決めましたが、中国はこれを中国包囲網ととらえて反発しています。最近マイクロソフト、JPモルガン、アップル、スタバ、イーロンマスクなどの米大企業のトップを中国政府首脳が北京で歓迎しているのは、その対抗策なのでしょうし、他方で李強首相を欧州諸国へ派遣して関係強化を企てているのも、その対抗策なのです。

嘗て権威主義国家の途上国が輸出主導で高度成長を遂げ先進国入りした例に韓国、台湾等があり、彼らは途中で政治制度を民主化に切り替えて、見事先進国入りを果たしました。いま中国は途上国経済から先進国経済へジャンプする段階に達しているのですが、政治的に一党独裁の権威主義体制を維持したままなので、中進国の壁を突き抜けることが難しいのです。

最近まで中国経済は8%成長を続け今は5%成長になり更に低下が見込まれていますが、これは従来の低賃金による高度成長方式が行き詰まり、所謂中進国の罠に陥る寸前にあることを示しています。世界市場に融合して発展するには政治体制を権威主義独裁体制から民主主義体制に切り替える必要があるのですが、それは共産党の現体制の否定になるので出来ないのです。

これを打開するため習近平主席は2020年に中国独自の道として国内大循環を達成するため国内外の双循環を促進すると発表しました。そして中国市場は十分大きいので、たとえ外国との接触を断たれても中国独自の発展は可能だと豪語しました。だが果たして世界市場との交流を狭めたままで先進国経済への道は開けるでしょうか?

現在の中国経済を見ると、コロナ後の経済回復は低迷を続けており、不動産市場には莫大な不良債権を積み上がり、一帯一路で投資した海外プロジェクトは膨大な焦げ付き事業となり、これまで世界の工場として拡大した外国輸出は最近は伸び悩み、その結果、外貨不足で中国通貨の元レートは下落し、外貨準備は底を突きつつあると言います。

いま対米交渉で中国が強気の姿勢を示しているのは、このような経済的弱みを抱えた中国が、広島G7会議で先進国から経済的圧力をうけたことへの焦りの現れです。従って、反発する中国が暴発しないよう現状の圧力をかけ続けることが肝要でしょう。
以上

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