ソ連がレーガン政権との軍拡冷戦に敗れて、ゴルバチョフがペレストロイカ改革で経済力を回復しようとし、その結果ソ連邦が崩壊したのが丁度30年前です。その後は、西欧が旧ソ連圏だった東欧諸国にEU加盟国を拡大し、強大だったソ連はロシア一国となりました。
その当時、プーチンはソ連国家保安委員会(KGB)の諜報活動のため東ドイツのドレスデンに駐在していて、ソ連崩壊の姿を痛恨の思いで見ていたと言います。その後、ロシアは軍事力と経済力を回復強化して、失地回復の機会を狙っていました。その手始めに旧ロシア領のクリミヤ半島を奪還し、次に隣国ウクライナの抱き込みを謀っているのです。プーチンは強大化した中国が米国と事を構えている今が失地回復の好機と見たのです。
昨年12月23日プーチンは年次記者会見でNATOが現在以上東方に進出しなければウクライナで西欧との衝突を避けたいと意向を示し、米国もロシアが示した懸念に留意して2022年1月にロシアと協議する用意ありと返答して、現在両国は交渉中です。
その交渉でロシアは1.NATOは東方に現在以上拡大しないこと、2.NATOの軍備を東欧とバルト三国が加盟する前の状態に戻すこと、3.ロシア領に近づけて攻撃兵器を配備しないこと、と言う三条件を西側に要求しています。他方ではロシア領内には大規模なロシア軍を集結配置して情報戦を展開していますが、それはクリミヤ奪取したときの状況に似てきました。
確かに、ロシアは米ソ冷戦に敗れた結果、第二次大戦で獲得した東欧諸国を失ったわけですが、プーチンが取り戻したい東欧圏の権益と言うのは第二次大集結直前のヤルタ秘密協定で獲得したものであり、その秘密協定の実態は、終戦直前の混乱の中でルーズベルトとチャーチルが全体主義のヒットラーから独裁主義のスターリンに自由な国々を売り渡した不当な闇取引だとの立場を自由主義陣営はとっているのです。
嘗て2006年にブッシュ・ジュニア大統領は、このことをラトビアの首都リガでヤルタ協定を次のように批判しています。「ヤルタ秘密協定は、戦後の安定のために自由とデモクラシーを犠牲にした邪悪な協定である」と。ですからEUの東欧拡大は邪悪な秘密協定の歴史を是正した行動とも言えるのです。
ロシアの論調に、欧米の仕打ちはロシアの「生存圏」を脅かすとものとの主張がありましたが、「生存圏」という言葉はナチスドイツが使った地政学的言葉で、はしなくもヤルタ秘密協定の地金が出たのです。従って現在米露間で交渉中のウクライナ問題は、ウクライナ国民が自由な國にとどまれるか、権威主義の國に組み込まれるかという観点から解決すべきなのです。
(以上)