黒い羊ー夕暮れの影ー9 | じゅりれなよ永遠に

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深夜、静寂が井上家を包み込む。

 

月明かりがカーテンの隙間から差し込み、

寝室をぼんやりと照らしていた。

 

和はすやすやと眠り、

規則正しい寝息が

静かな部屋に微かに響いている。

 

その隣で、友梨奈は目を閉じたまま、

静かに呼吸をしていた。

 

しばらくして、友梨奈はゆっくりと目を開けた。

 

その瞳には、先程までの優しい恋人の面影はなく、

冷徹な光が宿っている。

 

友梨奈は静かに体を起こし、

和を起こさないよう慎重にベッドから抜け出した。

 

足音を忍ばせ、寝室を出て廊下へと進む。

 

友梨奈が向かったのは、和の母親、

知子の部屋だった。

 

ドアの前で一度立ち止まり、

周囲に人の気配がないことを確認する。

 

そして、静かにドアノブを回し、部屋の中へと入った。

 

知子の部屋は、娘の和の部屋とは異なり、

落ち着いた色調でまとめられていた。

 

机の上には、

書類や写真立てなどが整然と並んでいる。

 

友梨奈は迷うことなく、机に向かい、

置かれたノートパソコンに手を伸ばした。

 

パソコンを開き、電源を入れる。

起動音が静かな部屋に微かに響いた。

 

友梨奈は手慣れた様子でキーボードを操作し、

パスワードを入力してログインする。

 

デスクトップ画面が現れると、

友梨奈はすぐに目的のファイルを探し始めた。

 

友梨奈の指がキーボードの上を滑るように動き、

フォルダを次々と開いていく。

 

その表情は真剣そのもので、

まるで獲物を狙う 鷹のようだ。

 

部屋には、パソコンの操作音と、

友梨奈の静かな呼吸音だけが響いていた。

 

しばらくの 探索の後、

友梨奈は目的のファイルを見つけたようだ。

 

画面に表示されたファイル名を確認し、小さく頷いた。

 

そして、USBメモリを取り出し、パソコンに接続する。

 

ファイルのコピーが始まり

、画面にはプログレスバーが表示された。

 

データのコピーが終わるまで、

友梨奈は画面から目を離さずにいた。

 

その間も、

彼女の表情は一切変わらず、冷静さを保っている。

 

まるで、感情を置き去りにして

任務を遂行する機械のようだ。

 

コピーが完了すると、

友梨奈はUSBメモリを抜き取り、

パソコンをシャットダウンした。

 

そして、部屋を見渡し、

 自分が侵入した痕跡がないか確認する。

 

机の上の物を元に戻し、ドアを静かに閉めた。

 

廊下を足音を忍ばせて寝室へと戻る。

 

ベッドに戻ると、

何事もなかったかのように再び和の隣に横たわった。

 

そして、閉じた瞼の裏で、

盗み出したデータの内容を反芻する。

 

友梨奈の胸には、

任務遂行の 冷たい満足感 だけがあった。

 

先程まで恋人と甘い時間を過ごしていたことなど、

まるでなかったかのように。

 

月明かりだけが、

友梨奈の もう一つの 顔 を静かに照らしていた。