IGA腎症の疑いで扁桃腺を摘出。
その後、湯気の出る食べ物を口にすると、やたらと涙が出るようになった。扁摘する前はのどちんこに当たって対流していた蒸気が、扁摘後はダイレクトに副鼻腔に抜けるようになって、おそらく粘膜を刺激するのと、単純に水蒸気が副鼻腔内で水に変化するからなんだと思う。
最近は、タンパク質制限の観点からうどんを食べる機会が多くなり、かつまた塩分も控えめにしたいので「ざるうどん」は避け、暖かいうどんをすするようになった。
すると
涙が出る・・・。いかにも感動をこらえているみたいにジワーッと瞳の奥からあふれ出るように涙が出る。ついでに鼻も出る。お通夜の時に泣くのをこらえているみたいにツツツーッと鼻が出る。
あわててティッシュを取り出してチョンチョンと涙を拭く。鼻をすする。視線を感じる。ふと見上げると、厨房のオヤジがぽかんと口を開けてうどんを茹でながら俺を見ている。うわまたかと思って視線を落として涙を拭くと、オヤジは妙に納得したようにウンウンとうなずく。しみじみとうなずく。
いや、違うって、出所後初めての飯じゃないって。美味くて感動してるんじゃないんだって。後頭部からも視線を感じたので振り向くと、空きどんぶりをお盆に乗せたおばちゃんが俺の顔を見てコクコクとあごを上下させる。「何も言うな、おばちゃんにはわかってるんだよ、黙って食いな」
「うどん食って感動で泣いてるおっさん初めて見たぜ!」「そうか兄ちゃん、俺のうどんは泣くほど美味いか」「ママ、あのおじさん死ぬほどお腹すいてたんだね。食べられて良かったね」俺に注がれる視線。頭の中を色々な声が交叉する・・・
お会計。「兄ちゃん、がんばんなよ」「また食いに来てくれよな」はたまた、黙って握手されたり。背中を叩かれたり。ありがとうございました、の声がやけに力強く俺の背中を押すのです。
うどんの湯気の中には人情劇場があります。