Ⅰ 長野県15年連続1

地方への移住を検討する人向けの雑誌「田舎暮らしの本」(宝島社)の「愛読者はがき」(ネット回答含む)には、「移住したい都道府県」の記入欄がある。1月号から12月号の集計したのがこのランキングだ。コロナ禍に翻弄された2020年もその大きな影響は順位変動からは読み取れない。

 

 長野県が15年連続で本誌読者の移住したい都道府県1位を獲得した。三大都市圏からのアクセスのよさ、信州ブランドの人気、三大アルプスの景観美、そして官民の熱心な定住促進活動がその原動力だろう。今回のベストランキングにも多くの市町村が上位にランクインしていることからも、そのことがわかる。村ランキングでは4部門の1位を長野県の2村が占めた。長野県は、市町村や民間団体と連携しながら移住者を呼び込んできた。新型コロナウイルスの影響が広がった昨年からは、オンラインを活用して移住セミナーを開催したり、県内企業の担当者が仕事を紹介したりする取り組みも進めている。

 阿部長野県知事は「リゾートテレワークやワーケーションという言葉も世の中に広がってきた。(コロナ禍で)地方回帰の動きが出てきているので、こういった動きを生かしていきたい」とした。

 ・resort(リゾート地・行楽地)+tele (離れた所)work(仕事)=リゾートテレワーク

 ・work(仕事)+vacation(休暇)=ワーケーション

 

 静岡県の2位は5年連続で、ここ15年で28回。特に首都圏の読者に人気の高い東伊豆がその大きな要因と見ている。

 3位以下には少し動きがあった。千葉県がやや順位を下げて、山梨県と入れ替わったようなかたちになった。山梨県は都心からアクセスのよい別荘地が多い。コロナ禍の影響がゼロとは言えない。

 本ランキングは、以前から東京に近い県が上位に入っている。またコロナ禍の都心で暮らす読者には、他の地域はどこもリスクが低く見えるだろう。そうしたことが順位に大きな変動が出なかった理由かもしれない。

 

コロナ禍と地方移住

 20~30代の若手社会人を対象とした「働き方」に関する調査を実施。調査は、12月2~7日にインターネット上で実施。20代・30代の若手社会人5633人を対象に行い、821人から回答を得た。コロナ禍を機に在宅勤務が一般化しつつあるなか、3人に1人が地方・郊外への移住に興味を持っていることが分かった。

  

 

 

     

  

※ 情報通信技術=ICT(Information and Communication Technology)の発達により、場所にとらわれない働き方として急速に広がってきたリモートワーク。国は「テレワーク」という言葉で普及を図っているが、「働き方改革」のもと、柔軟な働き方によって生産性の向上や、子育て・介護と仕事の両立が図れることで、多様な人材の能力発揮を拡大することが目的にある。別の側面でテレワークが期待されているのが、地方創生としての役割です。総務省は、地方のサテライトオフィスなどにおいてテレワークにより都市部の仕事を行う「ふるさとテレワーク」に力を入れている。
 

Ⅱ 長野県が移住先として人気な理由とは?

1 長野県は、大都市圏からのアクセスが優れている

 長野県は北信・東信・中信・南信と4つのエリアに大きく区分される。どのエリアも東京や名古屋などの大都市圏からのアクセスがすぐれている。

  

  1. 長野駅(北信)や軽井沢駅(東信)は、東京駅から北陸新幹線で約1時間だ。

  2. 松本駅(中信)は、新宿駅から特急あずさ(2時間30分)や名古屋駅から特急しなの(2時間20分)1本で行ける。車のアクセスは中央道で、八王子ジャンクション~松本インターまで約2時間20分、名古屋インター~松本インターまで約2時間30分。

  3. 南信の伊那や飯田は名古屋からのアクセス良好。2027年開業を目指すリニア中央新幹線にも期待(飯田市に長野県駅)伊那市~名古屋市までは中央自動車道で約2時間、飯田市からは約1時間40分。

2 町村数は都府県の中でトップ、村の割合は全国1

長野県は19市、23町、35村と平成の大合併後、北海道を除いて最も多くの市町村が残っている。市町村数に占める村の割合が45.5%と全国で最も多いのも特徴。理由としては、山が多く文化や歴史が異なること、同じく山が多く閉鎖性が高いこと、農業主体の産業構造で独立心が個々に強くまとまりが強いことなどが挙げられる。

これらの理由から、市町村合併によって地域の魅力が消えてしまったり、見捨てられたりする地域が生まれることなく市町村ごとに生き残るため知恵を絞りアイデンティティを確立しようとしている。結果として個性豊かな地域が昔のままその姿や文化をとどめている。

 

3 長野県は仕事の選択肢は少ないが多様な働き方ができる

長野県では「リゾート地で働きながら休暇を楽しむ『ワーケーション』」が2019年から推進されている。また、観光地に起業の拠点をおいたり、都市から少し離れた自然豊かな場所にワーケーションのための施設ができるなど環境が整備されてきた。さらに、2010年代に一気に増加したコワーキングスペースが、早い段階から人口規模が多い市町村にできてきた。

 長野県も、他の都道府県と同様に少子高齢化に悩まされている。市町村数が多く中小企業が多いため、多くの地域の多くの業界が働き手の不足で働き手は大歓迎だ。

 

4 長野県は移住促進のための補助金・支援金・助成金が充実している

長野県には、IT人材に移住して来てもらうために約半年間、コワーキングスペースの利用料や交通費、その間の住居費を補助する「おためしナガノ」という制度がある。

市町村にもそれぞれ特色をいかした補助金・支援金がたくさんある。新居住宅補助や中古住宅購入・回収補助、医療費無料、給食費無料、子どもの数に応じた補助、企業補助などがある。

 

各種ランキングでは県単位で順位付けされることも多いが、移住地を検討するには、市町村単位、もしくは旧市町村単位で調べてみるとより各地域の魅力がわかると思う。