第37章 その四 蝦夷の時代の鬼

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 1

悪路王「来たな…ファイテン」

ファイテン「悪路王さん…それに、校長先生も…」

吉備校長「うむ…四国から帰ったばかりですまぬが、オヌシに、ちと話があってな」

ファイテン「話…新たなあやかし、でしょうか?」

吉備校長「あやかし…か。そう呼ぶのは忍びないのじゃが…」

悪路王「吾から話そう」

ファイテン(悪路王さん、いつもと様子が違う…)

悪路王「昔、北の大地を守る為、その身を滅ぼすことを厭わず、戦った男がいた」

悪路王「その地を狙う中央政府に抗い、北の民と自然に忠義を尽くし、最後まで戦い続けた男だ」

悪路王「…吾と共に」

ファイテン「悪路王さんと一緒に、戦った人…?」

悪路王「その名を、大滝丸、という」

吉備校長「座学で習ったと思うが、数百年前、北の地で起こった戦じゃ」

吉備校長「まあ座学ゆえ…オヌシは覚えておらぬか」

ファイテン(…図星だから何も言えない)

ファイテン「その…大滝丸さんの話を、どうして私に?」

吉備校長「実は、あやかしとなって現れた、という情報があってな」

吉備校長「学園で調査したが、どうやら大滝丸で間違いなさそうじゃ」

悪路王「大滝丸は、元々は吾と同じ、【鬼】であったはず」

悪路王「【鬼】として、静かに北の地を守っていたはずだ」

吉備校長「…あやかしと化したのは、四国の件と関連しておるかもしれぬ」

ファイテン「四国…というと、もしかして…」

吉備校長「うむ。逆打ちの結果、現世と幽世が結びつきが強まった」

吉備校長「おそらく幽世の影響を受けて…その存在をあやかしにまで引き下ろされてしまったのじゃ」

悪路王「………」

悪路王「おそらくは、吾も昔のままだったなら、同じ道を辿っていただろう」

悪路王「今となれば、阿弖流為の企みに感謝せねばならぬな」

悪路王「結果として受肉し、大滝丸のようになることを免れたのだから」

吉備校長「悪、オヌシも素直でないのう。ファイテンのおかげじゃと何故言えん」

ファイテン「えっ?」

吉備校長「オヌシに話というのはそのことじゃ」

悪路王「大滝丸を…救ってほしいのだ」

悪路王「吾はお前と出会ったことで、身を落とすことを免れた」

悪路王「そのファイテンなれば、あやかしとなった大滝丸と戦い、倒し、あやかしと化した身の枷から解き放つことができるかもしれん」

ファイテン「…わかりました」

ファイテン(だから、悪路王さんの様子が違ったんだ。昔の仲間が…そんなことになったから)

吉備校長「頼まれてくれるか?」

ファイテン「もちろんです!悪路王さんの友達なんですから!」

悪路王「…礼を言う」

吉備校長「ファイテン、自信があるとはいえ、出発を焦ってはならんぞ」

吉備校長「大滝丸は陸奥から動けぬ上、今は被害もないのじゃからな」

吉備校長「何より、すぐに行っても返り討ちに遭う危険さえある」

悪路王「ああ、大滝丸は、強い。あやかしとなって更に強さを増しているだろう」

吉備校長「ファイテン、オヌシは強くなったが、上にはまだまだ強い者がおる」

吉備校長「一人で勝てるとは思うな。もし、大滝丸のもとへ行くのならば他の陰陽師の協力を得、討伐隊で挑むことじゃ」

吉備校長「慢心は身を滅ぼすでな」

悪路王「それから、吾からも一つ。奴は癖のある構えをする。だから強いのだが…挑むときには、構えに気をつけることだ。そうしないと、痛い目に遭うぞ」

ファイテン「わかりました!構え…ですね。じゃあ早々手筈を整えて、向かいますね!」

悪路王「ファイテン…」

ファイテン「はい!」

悪路王「大滝丸のこと、頼んだぞ」

ファイテン「任せてください!」


« 前のページ / 次のページ»