古代ミトラス教と天空 | ランニングとフライトシミュと・・・♌スフィンクスのホロスコープ☄

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前回の記事では、歳差運動による星の天球上の移動について、
「しし座のヘリアカル・ライジング」をテーマにお伝えしました。

 

「しし座のヘリアカル・ライジング」は、紀元前10500年の春分の日
の夜明けに起こりました。つまり、春分点の星座がしし座だった頃
です。

 

このときに、大スフィンクスが、太陽を引っ張り上げて昇る自分の
天空上の姿であるしし座を眺めていたかもしれません。(その時
に大スフィンクスがあればの話ですが・・・・。)

 

春分点の星座は、歳差運動によって2160年ごとに入れ替わりま
す。

 

MITの科学史の教授だったサンティラーナは、「遠い昔に真剣で
知的な人々が、高度な天文学の技術用語を神話の言葉の裏に
隠す方法を編み出していた」と考え、

 

「春分に太陽がどの星座のところにあるかは、歳差運動の周期の
中で【今何時か?】を示す指標になっていた。」

 

と述べていました。

 

では、その「真剣で知的な人々」とは一体誰のことなのでしょうか?

答えはありません。有史以前のことになるからです。

 

現代の事典には、歳差運動を発見したのは、紀元前1世紀のギリ
シアの天文学者ヒッパルコスとしか出てきません。

 

古代オリエント文明が栄えたのは、約紀元前3000年からです。

しかし、なぜかその時期の天空に合わせて神話が作られたような
感じがするのは何故でしょうか?

 

今回は、’牡牛’をキーワードとして考察していきたいと思います。
なぜなら、オリエント文明が栄えた頃に春分点にあった星座が
’牡牛座’だからです。

 

サンティラーナ教授の考えが正しければ、春分の日にヘリアカル
・ライジングが牡牛座であったなら、かなり牡牛は古代人にとって
重要なシンボルとなったことでしょう。

 

しかしながら、牡牛は古代神話に多く登場しますが、だいたい脇
役といいますか、神々の変身した姿(化身)や生け贄(犠牲)を表
すもの、あるいは、太陽に対する月の象徴としてなど、あまり目立
たない存在として描かれています。(ヒンドゥー教では今もシヴァ
神の聖なる乗り物として大切にされている。)


●「牡牛を殺すミトラス像」の謎
この図像の存在については、このテーマの記事を書く前までは
全く知りませんでした。

 

’牡牛’に関する記事を調べるうちに、興味深い研究論文に行き
あたったのです。

 

現在早稲田大学教授である井上文則氏が、京都大学で研究さ
れたときに書かれた研究ノートです。

 

この図像に’天空の時’が刻み込まれていると感じたのです。

 

   from https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%88%E3%83%A9%E6%95%99#/media/ファイル:Fiano_Romano_mithraic_relief.jpg


この図像は、多くの古代ミトラス教の神殿の中に安置されて見つ
かっているものの例ですが、だいたいそれぞれに同じようなモチ
ーフ(動物など)が見られるとのことです。

 

上の図では、牡牛を殺すミトラス神と二人の人物のほか、カラス、
犬、ヘビ、さそりの姿がありますが、他にも、ライオンやカップ、
カニが描かれているものもあります。牡牛の尻尾の先はなぜか
麦の穂になっています。

 

 

しかし、この図像が何を表現しているのかは、ミトラス教が古代
ローマで流行った後に消滅したため、わからないのだそうです。

以下より、井上教授の研究ノートの内容を噛み砕いてお伝えし
ます。

 

文献史料が残っていない状況の中、最初にこの図像の体系的
解釈を試みたのが、ベルギーのフランツ・キュモンという学者で、
ミトラス教が古代インド・イランで信仰されたミスラ神崇拝が、西方
に変容しながら形成されたという前提で、中世ペルシアの宗教
文献「ブンダヒシュン(創造の書)}を手がかりにして解釈を行い
ました。

 

それによると、「原初のときに善神アフラ・マズダーは牡牛を創
造するが、悪神アーリマンはそれを害し殺してしまう、するとそ
こから、あらゆる草木が生じたと」いうものです。


つまり、悪神アーリマンがミトラスに置き換えられたというのです。

この図像は、牡牛を殺すことで、創造者としてのミトラス神が大
地に生命力をもたらしているものだと。

 

でも、これはややこしい解釈です。悪神アーリマンは「害する
者」で、これにさそりやヘビが加担します。一方置き換えられた
ミトラスは結果論的に「創造者」となり、これに犬が応援している
というのです。

 

このキュモンの説は、半世紀以上に渡って通説とされました。

 

しかし、1970年以降この説に反論する解釈が多く出されました。

そもそも、ミトラス教=インド・イラン起源ということ自体が証明さ
れていないため、決定打には欠けるのです。

 

やがて、天文学的解釈を唱える学者が何名か現れました。

その中でも私の推しは、ウーランジィという学者の説です。


それは、

この図像には、春分点がおうし座にあった時(BC4000~2000
年)に、天の赤道上に並んでいた星座などが描かれていると
いうものです。

 

つまり、

 

鳥=カラス座
さそり=さそり座
犬=こいぬ座

ヘビ=うみへび座

 

そして、

夏至点=しし座=しし(ライオン)
冬至点=水瓶座(カップ)
春分点=牡牛座=麦の穂(豊穣のシンボル)


という図式です。(下図)

 

         紀元前3000年頃の天球図

   ※メルカトル図法世界地図の全天版、右側から赤経 0度~360°

 

さらにウーランジィは、次の3点により、ミトラスに当たる星座が
ペルセウス座であると主張しています。

 

・ペルセウス座は牡牛座の上に位置し、図像と似た位置
・ペルセウスはミトラスと同じフィリギア帽をかぶる(神話上の
 類似)
・ゴルゴンを殺すペルセウスと同じく目を対象からそらしている

 

 

それからさらに、「牡牛の死」の意味については、歳差運動に

より春分点が牡牛座からおひつじ座に移ったこと、つまり牡牛

座の時代の終焉を意味するものであると。

 

そして、ヒッパルコスによって発見された歳差運動がタルソス
のストア派知識人たちに衝撃的インパクトを与えたことが、ミトラ
ス教を発生させる原動力になったのでは、という考察を行って
います。

 

当時はもちろん、「天動説」の時代であったので、恒星全体が
強力な力を持った宇宙的存在によって時代と共に動かされる
=「新しい神の発見」として捉えられたとの見方です。

 

しかし、ヒッパルコスの時代は春分点がおひつじ座から既に魚
座に移っていたので、単純に考えると殺されるのは牡牛でなく、
おひつじということになるのでは?という疑問符がつきます。

 

この点について言及がなされていないのが残念です。

 

私の考えでは、古代オリエント文明が栄えた頃の天空図が物
語ってきた神話が、この時代でも人々に受け継がれていたの
ではないか?という気がします。だから、おひつじではなく、牡
牛ということになると思います。

 

今回は謎の図像「牡牛を殺すミトラス」について考察しました。


今後も天文に関連する題材がありましたら、記事にしていきた
いと思います。

 


※このテーマの記事は、都合により
 「です・ます調」で投稿しております。

 

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