負荷の分散と、【色】のイメージ 〜身体操法研究会(前編) | 馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

ご意見ご要望、御質問など、コメント大歓迎です。

 
 

  先日、甲野善紀先生

  参加者の方は皆さん常連さんのようでしたが、とてもフレンドリーに受け入れて下さり、
また、甲野先生やその門下で活躍されている講師の方々とも面識がお有りの様子で、
(感染対策には配慮しつつ)各々の最近の技の進展ぶりなど興味深いお話をたくさん聞かせて頂き、久しぶりに「話の通る」方々との豊かな時間を過ごさせていただきました。

   備忘録かたがた、内容をここに書き留めておきたいと思います。


・緊張度を【色】でイメージする

  興味深かったのが、「色」についてのお話。
 
  私たちの身体の状態を、

強い力を出そうと力んで、局所あるいは全身の筋肉が必要以上に力んで硬くなり、スムーズに身体を動かせなくなっているような状態を『緊張』、

逆に、局所麻酔をかけた後のように、筋肉が緩みきって全く力が発揮出来ないような状態を『弛緩』という風に定義し、

その両極のちょうど中間あたりの、
最もスムーズに動きやすくて質の高いパフォーマンスを発揮しやすい「丁度良い」状態を
『中庸「ちゅうよう)』というように定義して、



  さまざまな動作を行う際、「中庸」の状態がキープ出来ているかどうかを常に意識しながら行うことが、質の高い動きのためにはとても大切である、というわけなのですが、

 動いている瞬間瞬間に、身体が今どのような状態にあるのかを感覚として捉え判断し続けるのは、なかなか難しいものです。

  そこで、もっと直観的に、かつ瞬時に判断、調整を行いやすくするための方法として、
身体各部の緊張度を『色』としてイメージしてみよう、というのが、今回のテーマでした。


 TVの情報番組などでよく、「サーモグラフィ」と呼ばれる、様々な対象物の部分的な温度の違いを色の違いとして表すことが出来る装置を使った映像を見たことがある方も多いと思います。



サーモグラフィでは、温度の高い部分は白や黄、赤、低い部分は青や紫、というような感じで表示されるわけですが、

それと同じように、様々な動作を行う際、自分の身体の中で特に力が入って緊張度が高くなっている部分は赤やオレンジ、逆に全く力の入っていない部分は青、
そして、『中庸」状態で適度な力感で使えている部分は緑色に光っているというイメージを頭の中で思い描きながら、

なるべく局所に赤やオレンジ色が点灯しないように、全身を「グリーン」状態で協調させるように動作を行うことが、質の高い動きのために有効であるだけでなく、
腰痛や肉離れといった故障を防ぐためにも非常に大切である、ということなのです。


  例えば、私たちが何か重いものを持って動かそうとして肩や腰を傷めたり、急に走りだそうとして肉離れを起こしたりといった時には、
その部分の一点だけに負荷が集中して過緊張した「赤色」点灯状態になっている、という風に考えることができるわけです。



 さらに、そうした意識を持つことによって、自分の身体だけでなく、手を合わせている相手の身体のどこが緊張しているか、といったことまでわかるようになってきます。



 例えば写真のように、片方の人が相手の腕を掴んで押さえ、もう片方の人がそれに耐えるような場合、
触れている手の感覚から、掴まれた人が押さえられる力に抵抗しようとして上腕や肩の筋肉に力を入れているのか、あるいは背中や腰が緊張しているのか、足を踏ん張って床を蹴るようにして持ち上げようとしているのか、といったことが、

「今ここが力んで赤色で、逆にここは使われていないから青」というように、なんとなく察知出来るようになります。

( 因みに、押さえられている部分を意識して押し返そうとすると、どこの筋肉が緊張しているかが相手に察知されやすくなり、動きを制されたり、躱したりされやすくなってしまいますが、
逆に、相手の手を意識せず普通に自分の顔を掻くような感じで手を上げるようにすると、
全身を「グリーン」状態で協調させた【自然な動き】になって、相手にとっては力の出所が分からず、押さえられにくくなります。)



実は、同様のことは私たちが馬に乗って運動するような場合にも、自然にやっていることではないかと思います。

いわゆる「フラットワーク」では、手綱を通して伝わる、馬のハミに対する抵抗度や抗力の方向、頭や首の動きの波動といったことから、
馬がうなじや首を緊張させて固くしているのか、背中に力が入っているのか、あるいは腰の動きや後肢の踏み込みが良くないのか、というようなことを察知しながら、
馬の緊張を解し、あるいは励ましながら身体各部を独立的にかつ協調させて使いながら運動することができるように導いていくわけです。


ですから、そうした場面でも【色】のイメージを意識しながら乗るようにしていくことで、
だんだんと思考を介さず、直感的な判断によって無理なく馬の動きを改善していくようなことが出来るようになってくるかもしれません。
 



【色】のイメージ、ご興味あれば是非お試し頂ければと思います。
 (人からの働きかけを全く気にしない「傍若無人」な天然タイプの馬には通用しないかもしれませんが…^ ^)


人は「真っ赤」で汗ビッショリなのに、
馬はやる気なく「真っ青」のまま、
なんていうことになりませんように。(^^)



後編へつづく