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「コロナウイルスに初心な中国はこれから大変なことになる」~(付)江沢民(こうたくみん)が死んだ。倖田來未じゃなくて

 国民の大規模なデモによって、中国政府はゼロコロナ政策を見直すらしい。
 しかし緩和は、この国に莫大な災厄をもたらすかもしれない。
 しかも国民は、デモによって政治が変わることを覚えてしまったのだ。
 そんな時期に、江沢民元総書記の死亡も伝えられた。
 という話。(写真:フォトAC)

【中国はゼロコロナを見直すのか】

 相次ぐゼロコロナ反対のデモに押されて、ようやく中国政府もこれまでの政策を改め、地方では都市丸ごと、あるいは1区画丸ごとの封鎖ではなく、感染者の出た建物一棟程度の封鎖で収めるように変化してきたみたいです。
 一時期、中国国民を歓喜させたゼロコロナ政策が、これほどの重荷になるとは誰も思っていなかったのでしょう。

 しかしこれを機に大幅な見直しが行われるのかというとそうでもないようで、国連事務総長報道官が人々の集会と結社・デモの権利を保障するよう求めた発言に対して、中国の国連大使Twitter上で、「あなたはもっと自由をと言うかもしれないが、それなら(感染で)死を覚悟しなければならない」(2022.11.29 毎日新聞)と突っぱねたそうです。
 そう簡単に変わる国ではありません。しかし中国国連大使の言うことにはもっともな側面もあります。

【ウイルスに初心な中国はこれから大変なことになる】

 今回のパンデミックに対して、中国は発生源であるにも関わらず現状ではとても初心な国になってしまっています。何しろ感染者の数が昨日までの発表でわずか160万人。2500万人も感染している日本と比べると実数で6.4%、単位人口ではたったの0.58%しかないのです。
 国民全体に対する感染者の割合、いわば感染率は日本の19.7%に対して中国は0.11%。およそ99.9%の人たちが非感染のまま残っている計算になります。
 
 ちなみにコロナ禍初期の被害が大きかった国々の感染率はイタリアで40%、フランス59%、イギリス36%、ドイツ40%ほどです。大きく報道された合衆国やインド・ブラジルは実数こそ巨大でしたが人口も多いので、それぞれの感染率は30%、3%、18%ほどということになります。
 驚くべきはかつての優等生国たちで、台湾が34%、シンガポール38%、ニュージーランド40%、オーストラリア42%、K防疫の韓国が53%、日本も先に書いたとおり20%近く。


日本経済新聞「新型コロナウイルス感染 世界マップ」から自作。人口の多い国はともかく、一部の国々(特に地中海沿岸と南ア共和国を除くアフリカ諸国)の感染率の低さには首を傾げます。事情をご存知の方はお教えください)

 つまりどんなにがんばってもコロナの感染をゼロに抑えるのはかなり難しく、ある程度の被害は受容せざるを得ないらしいのです。
(ただしかつての優等生国は別の言い方をすれば「感染拡大を遅らせるのに成功した国々」で、治療法やワクチン接種が進んでからの拡大なので死者は極端に少なく済んでいます)

 そのことを踏まえて、今後中国がゼロコロナを見直して日本並みの感染率を受け入れるとしたら、これから感染する人は14億人の20%でざっと2億8000万人。感染者に対する死亡の割合も日本並みの0.18%で計算すると50万4000人。インドで今日までに亡くなった人とほぼ同じ人数ということになります。
 おまけに中国で使われている国産ワクチンは「水ワクチン」と呼ばれる代物で、死者を日本並みに抑えられるかは分かりません。逆に今から死亡率の高いベータ株やデルタ株にかかる可能性は低いですから、オミクロン株のおかげで死亡者が低く抑えられるという見方もできます。
 いずれにしてもこれから覚悟する50万人はいかに独裁国の中国とはいえ、軽く見逃がせる数ではないでしょう。中国国連大使の言うことももっともです。

江沢民(こうたくみん)が死んだ。倖田來未じゃなくて】

 中国で反政府デモが起こったと聞くと私たち以上の世代が思い出すのが天安門事件、これだけネットが発達した時代にいまも中国国内では極秘にされている歴史的大事件です。この事件以降、香港・ウイグルといった辺境を除けば、中国で大規模な反政府運動が起こったという話は報道されたことがありません。

 その天安門事件をきっかけとして政治の中心に躍り出て、中国を世界第二位の経済大国に押し上げた江沢民国家主席が、11月30日、96歳で亡くなりました。江は天安門事件を振り返ってマルクス主義階級闘争社会主義といったイデオロギーで国を統治する限界を感じて、代わりに反日を主軸に置いた政治家です。
 江の時代になってから日中戦争の中国側の被害者は2100万人から3500万人に水増しされ、小中学校の教科書の記述も大幅に増やされて反日教育が徹底されたと言われます。最近は話題になりませんが、ほとんどお笑いレベルの荒唐無稽な反日戦争映画が乱造されるようになったのもこのころからです。いまも日本国内に残る反中感情は、江沢民時代の日本側の反応から続いているものです。

 日本が必死に国際社会の非難から中国を守ろうとしていた時期に反日発言を繰り返し、日本の宮中晩さん会でも平然と日本の軍国主義を非難するような無礼な男ですから日本人として惜しむ気にもなれないのですが、中国では今よりずっと開放的な雰囲気の時代の指導者として人気があるようです。そんなところから、天安門事件が人気のあった胡耀邦総書記の死をきっかけとして起こったように、現在の反政府運動に力を与えるのではないかという見方もあったようですが、すでに過去の人、それほどの影響はないだろうという見方の方が有力です。

 私の個人的な思い出としては、江沢民の引退した2004年からしばらくたって、とつぜん当時の教え子たちが江沢民のことを話題にし始め、首を傾げたことがあげられます。中学生が中国現代政治に興味を持つとは思えないのでよく聞いたら、江沢民ではなく、当時彗星のごとく現れた歌姫・倖田來未のことでした。
 ですから倖田來未は、私には珍しく、その初期からよく知っている歌手のひとりになりました。

【中国の市民はどこに行くのか】

 話を少し戻しますが、今回、大規模広範なデモをすれば政治は動くと知った中国国民は、今後の政治に対してどんな姿勢を取るようになるのでしょう? しかもこの人たちは、政府がその気になれば天安門事件のように、軍隊を使って市民を殺す可能性についてほとんど学んでいないのです。
 注目しましょう。

《2022.12.15追記》

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