リスキリング

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岸田首相は27日の参院本会議の代表質問で、自民党の大家敏志参院議員から、産休・育休期間中の女性に対するリスキリングの支援を提案され「育児中など、さまざまな状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししていく」と答弁していた。

育児中の学び直し支援を批判 野党「できるわけない」:中日新聞Web

岸田総理は施政方針演説において、「構造的な賃上げ」政策の一環として、新たな分野で活躍するための能力・スキルを身につけること、いわゆるリスキリング支援を位置付けておられます。企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援中心に見直すことなど、意欲的に取り組んでいくことは極めて重要です。
岸田総理、ぜひともご検討いただきたい新しいリスキリング案を、私からお示しいたします。
子育てのための産休・育休を取りにくい理由の一つが、一定期間仕事を休むことで昇進・昇給で同期から遅れを取ることだと言われてきました。
しかし、この懸念を乗り越えるために、産休・育休の期間にリスキリングによって、一定のスキルを身につけたり、学位を取ったりする方々を支援できれば、子育てをしながらもキャリアの停滞を最小限にしたり、逆にキャリアアップが可能になることも考えられます。
大胆なこども政策を検討する中で、たとえば、このような方々への応援として、リスキリングと産休・育休を結び付けて、産休・育休中の親にリスキリング支援を行う企業に対して、国が一定の支援を行うなど、親が元気と勇気をもらい、子育てにも仕事にも前向きになるという、2重・3重にボトルネックを突破できる政策が考えられるのではないでしょうか。
この政策によって、結婚・育児期に女性の就業率が低下するいわゆる「M字カーブ」や、出産時に退職、または働き方を変えて、育児後は非正規で働くようになる、いわゆる「L字カーブ」の解消にも資するものだと考えます。
今ある仕事が、近い将来、AIに取って代わられることも予想され、私たちのキャリアにとって、リスキリングが「当たり前」になる時代が来る中、私が提案したような、リスキリング支援メニューの拡充が必要になるのではないかと思いますが、総理のお考えをお伺いいたします。

第211回国会における大家敏志政策審議会長代理 代表質問 | 政策 | ニュース | 自由民主党

今回のリスキリング云々の問題点、大きな部分は自民党の大家議員の期待と言うか、視点がずれているように見えるところではないでしょうか。

リスキリングすることで『この政策によって、結婚・育児期に女性の就業率が低下するいわゆる「M字カーブ」や、出産時に退職、または働き方を変えて、育児後は非正規で働くようになる、いわゆる「L字カーブ」の解消にも資するものだと考えます。』と言っているのですが、M字カーブやL字カーブって、「誰かが育児に専念する」問題だと思うのですが、それを解消するとストレートに言わずに「リスキリングを支援する」と言うのは、新たな負担の増加のようにしか見えず、むしろ脱落者を増やし「M字カーブやL字カーブ」がより深いものになりかねない、と言うように見えるのではないでしょうか。

個人的に、自民党と育休と言うと「3年間抱っこし放題」が思い出されてしまうのですが、これは良く言うと「一旦育児に専念して、また戻って来てね」という方針、悪く言うと「3年ちゃんと抱っこしろよ、子育ては親の責任だからな」という方針のように思えました。
なぜそう思えるかというと、自民党は保守等の右派に多く支持を受ける政党で、当時の総理大臣はその右派に支持されていた安倍晋三氏。そして、その右派の中に親学の「伝統的な子育て(実際に伝統的な子育てかは疑問だが)を行えば発達障害などは予防できる」のような、そこまでではなくても、様々なことが家庭に原因がある、家庭で解決すべきことであるとするような考え方が存在しているのが理由です。

その方針を示した政権から、与党が変わっていないと言うことは、「3年ちゃんと抱っこしろよ、子育ては親の責任だからな」という子育て負担の上に「リスキリング」を労働者としての負担として上乗せしているように見えてしまうのではないでしょうか。

安倍首相の「3年間抱っこし放題」は、本当に女性のキャリア支援になるのか
「3歳まで育児休暇を延長」「待機児童ゼロ」アベノミクスの3本目の矢、成長戦略の柱として打ち出された、女性のキャリア支援策。どんなデータを元に議論がなされたのか、このゴールデンウィークに改めて考えてみませんか。

とここまで書いたところで、当時の安倍氏の演説を改めて読んで、当時も「リスキリング」的なものに言及されていることがわかりました。

妊娠・出産を機に退職した方に、その理由を調査すると、「仕事との両立がむずかしい」ことよりも、「家事や育児に専念するため自発的にやめた」という人が、実は一番多いのです。

 子どもが生まれた後、ある程度の期間は子育てに専念したい、と希望する方がいらっしゃるのも、理解できることです。

 現在、育児・介護休業法によって認められている育児休業の期間は、原則として1年となっています。しかし、これもアンケートをとると、1年以上の休業をとりたいという方が、6割にものぼっています。子どもが3歳ぐらいになるまでは、育児に専念したいという人が、3割もいるのが現実です。

 「女性が働き続けられる社会」を目指すのであれば、男性の子育て参加が重要なことは当然のこととして、こうしたニーズにも応えていかねばなりません。3歳になるまでは男女が共に子育てに専念でき、その後に、しっかりと職場に復帰できるよう保証することです。

 そのため、本日、経済三団体の皆さんに、法的な義務という形ではなく、自主的に「3年育休」を推進してもらうようお願いしました。

 ただお願いするだけではありません。「3年育休」を積極的に認めて、子育て世帯の皆さんの活躍の可能性を大いに広げようとする企業に対しては、政府も、新たな助成金を創るなど応援していこうと思います。

 ブランクが長くなると、昔やっていた仕事であっても、ついていけるかどうか不安になることもあるでしょう。

 こうした皆さんが、仕事に本格復帰する前に、大学や専門学校などで「学び直し」できるよう、新たなプログラムも用意することで、「3年間抱っこし放題での職場復帰」を総合的に支援してまいります。

平成25年4月19日 安倍総理「成長戦略スピーチ」 | 平成25年 | 総理の演説・記者会見など | 記者会見 | 首相官邸ホームページ

この『仕事に本格復帰する前に、大学や専門学校などで「学び直し」できるよう、新たなプログラムも用意する』が、今回の「リスキリングを支援する」ということと近い話でしょう。

でも、これはあくまでも「仕事に本格復帰する前」の話であって、それを「育休中」としてしまうと、ちょっと枠が広がりすぎているように見えてしまいますし、そもそもM字カーブやL字カーブを労働者の努力で解消しようと言う方針にも見えてしまい、ちょっと労働者への負担が大きくない?と感じてしまう部分もありますし、そこで遅れた「昇進・昇給」を労働者自身のスキル向上で取り戻せるかと言うと、そんなことはないから育休取得しないという話になるのではないか?と思うのですが。

そもそも日本型雇用システムにおいては、リスキリングなどと称して会社のよそで一生懸命勉強しても会社は評価してくれず給料も上がらない(下手したら仕事をおろそかにして下らねえことしやがってと叱られる)。

それよりも会社の中で上司のみている前で、オンザジョブトレーニングよろしく、おぼつかなくても一生懸命仕事に取り組んでだんだんできるようになっていくのを評価してくれて給料も上がっていく。

日本の会社が評価するスキルアップというのは、会社のよそでやるリスキリングとやらではなく、会社の中でやる仕事そのものと二重に重ね合わされたOJTなのだ。

という構造の中で、育児休業なんぞをとってるというのは単に仕事をしていないというだけではなく(その分はノーワークノーペイでどこでも同じ)、OJTという形でスキルアップに一生懸命取り組むということをやっていないというマイナスにみられてしまう。

リスキリングとOJTと育児休業と: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)

残念ながら会社の昇進についての仕組みがそうなっている以上、人事制度そのものの改革を進めない限り、育児のために休職する人は出世できない。仮に出世できたとしても数年単位で遅れてしまう。そして数年の遅れは、より高いポジションへの昇進可能性を低くしてしまう。

現状の出世ロジックを前提とする限り、どんな事情であったとしても休職期間は短い方がよい。これは仮に多くの会社が自立型になっていたとしてもそうだ。

育児休暇をとるか(どのぐらい長く取得するか)|NIKKEIリスキリング

またそもそもの大家氏の問題意識が(リスキリングと育休を結びつけることが先にあったのか、後から思いついたのかはわかりませんが)『子育てのための産休・育休を取りにくい理由の一つが、一定期間仕事を休むことで昇進・昇給で同期から遅れを取ることだと言われてきました』と部分に重点を置いたものなのも今回の反発が生まれるようなやり取りになる大きな理由であるように思います。

実際に「昇進・昇給で同期から遅れを取ること」というキャリア問題は存在してはいるでしょうが、『異次元の少子化対策』となんか煽った上で気にするのがそこ?という疑問が浮かんでいるような気がします。
実際「三年抱っこし放題」の時に学び直しが必要とされた理由はキャリア云々ではなく「ブランクが長くなると、昔やっていた仕事であっても、ついていけるかどうか不安になることもある」からであって、昇進・昇給以前の場所に問題が起きていることが前提のように思いますし、現在もそれは変わってないのではないでしょうか。

しかし別の女性は、こんな話をしてくれました。「顔ぶれは変わらないし、以前から通っていた職場。安心して復帰できたはずなのに、自分自身が変わってしまっていて、結果的に慣れないし、元には戻れないということを痛感しています」とのこと。子供ができた、そのためにすべての時間を仕事に費やすことができない、という「以前とは違う状況」に、自分自身が戸惑っているというのです。働ける時間も短くなってしまった(=長い時間働くことが良いことだとは思っていませんが、日本での職場環境の現実や、労働時間や環境に対して融通が利くことが高い評価を得る場合もあるという事実は否定できないと考えています)ので、できることも限られるし、与えられる仕事も限定されてしまう。同期がバリバリ働いているのを横目で見ながら、保育園のお迎えに急がなければならない自分に「戸惑って」しまうと言うのです。

 周囲の人たちも戸惑っています。このコラムを書くために取材をしているうちに「働ける時間が限られている人」に対して、職場が仕事をアサインする難しさが改めて浮き彫りになってきました。

 まとまった仕事を振ろうとしても、子供が病気になってしまったなどの理由で突発的に休まれて、期日までに仕事が終わらないということが起きる。リカバリーする人員も割けないので、そういうリスクを避けようと思うとそれなりの仕事しか与えられない。しかし、休む以前よりも(適切でない言い方かもしれませんが)「レベルの低い仕事」にしてもらった途端、育児休暇明けの本人のプライドが傷ついた様子が見て取れることに「じゃあ、どうしたらいいのだ?」と一緒に働くメンバーたちも困惑しているといいます。

 この話に「これがベスト」という処方箋はないと思います。働く人、雇う人、周囲で支える人、それぞれの思惑を適切に調整していくほかない。そんな取材を続けている中で「3年間抱っこし放題」なるキャッチフレーズでの、女性のキャリア支援策が登場したのです。

安倍首相の「3年間抱っこし放題」は、本当に女性のキャリア支援になるのか:サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/5 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン

ここで労働者が新しいスキルを身に着けやすくしたとして『女性の就業率が低下するいわゆる「M字カーブ」や、出産時に退職、または働き方を変えて、育児後は非正規で働くようになる、いわゆる「L字カーブ」の解消にも資する』のか?という疑問も私には強く存在します。(男性は勉強しながら育休取得をして、育休取得率は向上したものの、女性への育児負担の軽減は大きくは減らず、どのみち女性は専念する道を選んでカーブは解消されなかった、的なことになるのでは?とか考えたり)

今回の質問をした大家議員は地元放送局に質問されて以下のように答えたようです。

大家敏志参議院議員(30日)「(Q子育てをわかっていない、おっさん政権という批判もあるが)僕は父親でもある、そういう批判とか声があるのは確かだけれども、よく考えていただきたい。望む皆さん、やりたいという皆さんへの支援策ができないか、政府としての後押しができないかということを申し上げている」

「育児わかっていない」産休・育休中のリスキリングの国会答弁 質問の福岡県選出議員に聞く  | RKBオンライン

あくまでもやりたい人向けだから・・・という話なのだろうが、やはり少子化対策に注目を集めた中で、特定の話をしたら、そこに政府のなんらかの意思を読み取ってしまうのは避けられないのではないかと思います。

ちなみに質問に答えただけだから総理は・・・という意見に対してはこれが与党の代表質問であることを念頭に置くとそうは言ってられないという可能性が出てくると思います。

(Q.岸田政権の看板政策で批判を受ける形となりました。さすがに、ここまで予想していなかったのではないでしょうか) その通りです。岸田総理の答弁を用意した秘書官も含めて、今回のリスキリングについて、批判の対象となるのは想定外だったようです。今回のリスキリングの質疑は、自民党議員の質問に総理が答えたものです。自民党のチェック、官邸のチェックも通っている。総理答弁は、前日や当日に秘書官たちと入念に、総理も含めてチェックします。そのチェックをスリ抜けた。誰もアラートを出さなかったと思います。感度が低かったと言われても仕方ないと思います。

【報ステ解説】「育休中は学びの時間ではない」総理発言に反発も…問われる“本気度”

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