リフレイン 朧月 77 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

77

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「櫻井さん。」

 

病院の会計窓口で、

入院費を支払っていたら

後ろから声をかけられた。

 

「櫻井さん、久しぶりです。」

「ああ、井上さん。」

 

振り返ると

紀子さんが白衣姿で立っていた。

 

「少し時間ありますか?」

「ええ、大丈夫です。」

 

俺たちは病院の最上階にある

カフェに向かった。

 

 

 

「大野さん

治療を再開したそうですね。

仕事と看病、

大変じゃないですか?」

 

彼女はティカップを

そっと口に運んだ。

珈琲じゃないんだ。

財前教授も紅茶派だったな。

 

「仕事は休職しています。

智の治療が終わるまで

休むつもりです。

だから、時間はあるんですよ。

そちらはいかがですか?」

 

俺がそう答えると

何故か彼女は、

ほっとした顔になった。

 

「大野さんが、

大変な時に申し訳ないのですが・・。」

 

そこで、少し息を止めてから、

また続けた。

 

「財前先生のことなのですが・・」

「財前教授?」

「財前先生の大学葬や、

密葬などは

すでに全部終わったのですが・」

「それはよかったです。

井上さん、ご苦労さまでした。」

 

彼女がすべての担当者だったのだろう。

少し痩せたようだ。

 

「先生を櫻井國比呂さんと

一緒にさせてあげたいのです。

櫻井さんは國比呂さんの甥、

どうか協力していただけませんか?」

 

彼女の目は真剣だった。

そうか・・二人が恋人だったということは

俺たちくらいしか知らない。

伯父の遺骨は、

まだ、伯父の暮らした山荘にある。

きっと櫻井家の墓に入るはず。

財前教授だって

財前家の跡取りだったのだから当然・・

 

「やっと再会できたのに、

こんなに短い時間で

別れなくちゃならないなんて

先生が悲しすぎます。」

 

目に涙を溜めて

俺を見つめる紀子さん。

カップを持つ手が震えている。

 

俺たちだって同じ運命をたどる羽目に

なったかもしれないんだ。

他人事とは思えない・・

意固地な伯父のせいでもあるが、

哀しいよな。

 

「わかりました。協力します

幸い俺には今時間もある。

二人が一緒に居られる場所を

探しましょう。」

「ありがとうございます。

櫻井さん。」

 

俺はテーブルの上で硬く握られた紀子さんの手に

そっと自分の手を重ねた。

 

 

 

「翔、遅かったね。

何か問題でもあった?

まさか入院費が凄く高くて払えなかったとか?

相葉先生がとってもいいんだよって、

今回から使っている薬が高いの?

だったら、僕はいいから、

やめてって先生に言うよ。」

 

会計に行っただけの俺が

なかなか帰ってこないから

智は心配していたらしい。

 

そういう方向になるんだな・・・

 

入院して5日

相葉医師が今回使うのは

新たに承認された新薬。

 

「大野君は

副作用が強く出るようだから、

最初は使用量を少なく

徐々に増やすからね」

 

それでも、智は毎日

気持ち悪そうにしている。

食事もあまり進まないようで、

俺は毎日

智が食べられそうなものを

持参していた。

 

「違う、違う・・・

井上さんに会ったんだよ。

カフェでお茶飲んできた。」

 

俺は手を振って

お金の事じゃないからと否定した。

 

「紀子さん元気だった?

会いたいなぁ」

「智が具合悪いだろうって

遠慮してたよ。

退院する時にでもいけばいいよ。

実はさぁ、頼み事されたんだよ。」

 

俺は紀子さんに頼まれたことを

智に話した。

 

「紀子さん凄いね。

そこまで・・・考えてあげるなんて・・

國比呂さん、きっと喜ぶね」

 

智はなぜか伯父の名前を口に出すと

何度も小さくうなずいていた。