どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設19年目を疾走中。

自薦ポエム㊶ 『鉄瓶のテツ』

2020-09-19 07:43:11 | ポエム

おいらは百年も前に岩手南部で生まれたのだが

めぐりめぐってお茶好きのご隠居の家にいる

刀と同じ砂鉄をもとに鍛えられ 

無口な職人に手作りされたのだ

 

色が黒いのは炭火で金気止めをされたから

透明漆で重ね塗りをする流儀も江戸の昔から

おいらを作った南部鉄職人の名は鉄瓶のテツ

夜更けの屋敷でシュンシュンと昔話が語られる

 

鉄急須で淹れた茶はまろやかだ

焼入れした伝統の技に水が応えるのだ

おいらは鉄瓶のテツとちがってお喋りだ

湯垢も茶渋も おいらの話に旨みを足してくれるのだ

 

ご隠居よ おいらのことを気に入ったかい

鉄瓶のテツ一世一代の銘品だぜ

武士の心の梅花を小鬢にあしらい

生き様を後の世に伝えようというのだ

 

やがて炭火が衰えるころ

火鉢のまわりに静寂が忍び寄る

そろそろご隠居に睡魔のお誘い

夢見の駕篭に乗ってゆうらゆら

 

朝の目覚めは催促なし

客なしアポなし当てもなし

手持ち無沙汰の鉄急須が大あくび

末期の水も おいらからの口移しかい

 

ご隠居ご隠居 脅かしはごめんだぜ

だあれも訪ねてこない屋敷の一角で

ふたり揃って体の芯まで冷えきっていくなんて

悪い冗談はごめん被りますよ、ほんとに・・・・

 

(『鉄瓶のテツ』2015/02/12 より再掲)

  

   


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