どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設19年目を疾走中。

ポエム334 『ムサビという男』

2022-12-01 01:55:55 | ポエム

ムサビとあだ名したあの男は

いつも絵の具で汚れたジーパン姿で

ぼくの部屋にふらりと現れた

 

最近画いたというルオーに似た絵を提げ

絵の具代でいいから買ってくれという

ぼくも同じような境遇だから気安く応じた

 

フランスに留学するのが夢だったが

ある日とうとう実現しそうだと告げに来た

同期のお嬢様が応援してくれるのだそうだ

 

いかにもムサビらしいと笑って祝福した

3年間フランスに行っていたが

帰って来たとき近々結婚するのだといった

 

山王育ちの同級生だった女性は

彼のどこにほれ込んだのだろう

彼の絵かそれとも人懐っこさか

 

突き抜けろ 突き抜けろ

雲の上まで突き抜けろ

出来なかったら天から墜落する覚悟で

 

口に出して言ったわけではない

ムサビの意気込みを共有していたから

内心そう励ましたかっただけだ

 

その後彼からの音信はなくなった

いいさ 子供でもできて

いいパパになったのなら それもいいさ

 

ムサビよ さらば

青春の余韻よ さらば

音叉のような想いよ さらば

 

 

 

 

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