黄落とは木の葉や果実が黄色に色づいて落ちること。秋の季語。「黄落期」《季 秋》
まだ介護保険が始まる前の時代に年老いた親の介護をする話。発行された1995年にも読んだので二度目の読み直しだったが新鮮だった。
間もなく還暦を迎える夫婦が老親二人の世話し、先に母親が亡くってまた父親の介護を続ける。当時のベストセラー小説だったそうだ。
懸命に毎日毎日朝から晩まで義理の親を世話をする妻のなにげない言葉や動作が、じょじょに夫の心の中をかき混ぜていく。
そしてついに苛立ちと怒りが溜りにたまり、ある日夫は妻に離婚話を切り出す。
またもや傷つく妻。三人の子供たちや夫の姉と妹、親族との介護のやりとりなども。
読んでいくと 時に夫に、時に妻に感情移入していく。二人は感情を態度に表したり言葉にしてぶつけたりしながらも介護を続けていく。
母親のおむつを替える夫の心理、妻に対する感謝の数々・・。どうしてここまで精密に描けたのだろう。
言葉として言い表せないことを、小説家は豊かに正確に言葉として紡いでいく。
母はやがて絶食し自ら命を絶つ。なぜ母は自ら死期を迎えた頃、なんども父の首を絞めたのか。
母親の生涯の父への恨みかと思わせて、実はあとの面倒をみるしかなくなる夫婦への思いやりかと思わせる箇所では思わず本をいったん閉じた。
余談ながら女優の沢村貞子さんは、自らの意志で日々の食べ物を摂る事をやめて 静かにこの世の舞台から姿を消した。
気になって沢村さんの亡くなった年を調べたらこの本が出版された翌年の1996年だった。
読書好きだった沢村さんは間違いなくこの小説「黄落」を読まれたなと思った。
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雑誌「かまくら春秋」2022年8月号から引用↓
- 単行本: 283ページ
- 出版社: 新潮社 (1995/05)
出版社のサイトから:還暦間近の夫婦に、92歳の父と87歳の母を介護する日がやってきた。
母の介護は息子夫婦の苛立ちを募らせ、夫は妻に離婚を申し出るが、それは夫婦間の溝を深めるだけだった。
やがて母は痴呆を発症し、父に対して殺意に近い攻撃性を見せつつも、絶食し自ら命を絶つ。
そして、夫婦には父の介護が残された……。自らの体験から老親介護の実態を抉り出した、凄絶ながらも静謐な佐江文学の結実点。
2019年8月6日掲載エントリーに追加して再録