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「個人の野生アザラシの観察・撮影にドローンを使うことは控えるべし」という結論に達した話

最近の小型の無人航空機、いわゆるドローンの高性能化と普及具合には驚くものがありますし、野外のフィールドでも見かける機会もかなり多くなりました。

私も仕事の関係で他の人が操作しているのを目の当たりにしましたが、自分がいる半径300mくらいの円状の中を縦横無尽に飛んでリアルタイムでスマホで様子を見ながら撮影が可能していたので、「こりゃーすごいもんだなー」と思いました。

ドローンをアザラシ観察の活用という意味で考えれば、例えば離礁にいるアザラシや、近寄りがたい崖下の海に転がるアザラシ、氷の上に転がるアザラシを撮影できるだろうし、実際、学術研究や行政調査などでは、すでにそのような活用がなされていると思われます。

そんな事を考える一方で「北海道でアザラシの観察・撮影を主目的としてドローンを使うのは倫理的にはかなーり際どそうだな。。」という直感もありました。

その後、フィールドでもドローンを飛ばしている機会(おそらくアザラシとか動物の撮影目的ではないと思われましたが)を見ることも何度かあり、、また自分でも各種法制度による規制状況を調べたり、動物倫理的な面からも検討したりした結果、ひとまず自分のアザラシ観察・撮影で使うことは無い、という結論に達しております。

今回は、↑のような結論に至った経緯について紹介しつつ、アザラシとドローンによる観察・撮影についてどのような論点があるのか示してみたいと思います。

行政機関や学術研究機関等(からの発注を含む)の調査や公益的な目的のために海洋におけるドローンの使用、獣害対策のためのドローンの使用、その他野生動物の観察とは関係ない分野へのドローンの活用はもちろん許容されるべきものと考えています。今回はあくまで”(プロ・アマ問わず)個人の海獣観察や撮影を主目的としたドローンの使用”に関する話です。)

そもそも北海道のアザラシが生息する海域でドローンを飛ばすことは法律で規制されているのか?

まずは法制度的にそもそも北海道のアザラシが生息していそうな区域でドローンを飛ばして問題ないのか考えたいと思います。

北海道の沿岸部で野生のアザラシを撮影する前提の場合、おそらく航空法で飛行禁止されている区域はほぼないと思われる

ドローンの飛行を規制する法律は航空法。
航空法により飛行前に許可が必要な区域(空港等の周辺、150m以上の空域、人口集中地区の上空)とそもそも飛行が原則禁止区域(緊急用務空域)に分けられます。逆に言えばこれらに該当しない区域は許可なしでドローンを飛ばしてもOKということになります。詳しい解説は国土交通省の以下サイトをご覧ください。(今回はドローンの機体の登録や操縦者側は航空法をクリアしている前提で考えます。)

航空:無人航空機の飛行禁止空域と飛行の方法 - 国土交通省
国土交通省のウェブサイトです。政策、報道発表資料、統計情報、各種申請手続きに関する情報などを掲載しています。

結論から言うと、飛行高度150m以下は厳守する前提ならば、アザラシが住む北海道の沿岸が、この航空法の規制に引っ掛かることはほぼ無いだろうと思います。

アザラシがいるのは人口集中地区と対極な人間の生息が少ない海岸部ですし、北海道の空港位置×アザラシ生息地の視点で考えると、海近くにある空港は限られ、該当しうる空港は北から礼文・利尻・稚内・紋別くらいか。函館空港は海は近いけどアザラシ生息地からは離れていますし。これら4空港近辺でドローンを飛ばしてアザラシや海生動物を撮影しなければ問題ありません。実際に飛行禁止区域を表したこちらの地理院地図と私の経験からアザラシが生息していそうな海域を考えると被ることはほぼ無い、、、というか、あえてこれらの空港周辺でアザラシ撮影目的でドローンを飛ばす必要もないと思います。

北海道でアザラシが生息する海岸部は、自然公園法の規制対象区域が多い

航空法がクリアできたからと言って万事OKというわけではありません。気になるのは自然公園法。名前の通り環境保全系の法律で、自然公園法(+これに類する都道府県の自然公園条例)は自然の風景地の保護と利用を目的とした法律。自然公園法の規制区域は国立公園や国定公園となり、種々の行為が規制対象になります。

そして北海道でアザラシが多く生息するかなりの部分は自然公園法の規制対象地になりうるような気がしております。(「気がしている」と若干あいまいにしたのは私がすべてのアザラシ生息地を把握しているわけでもないので。。。)ちなみにこのサイトで載せているアザラシの写真を撮影した場所は、ほぼすべてが自然公園法、もしくは北海道の自然公園条例の規制がかかる区域と思われます。自然公園法(条例)の規制対象地かは、ざっくりと環境省が環境アセスメント用に公開しているデータベースで調べることができます。試しに積丹半島の積丹岬神威岬の辺りを表示させるとこんな具合で、積丹半島の海岸線が延々とニセコ積丹小樽海岸国定公園の区域内に指定されています。他地域では漁港の抜海港ですら利尻礼文サロベツ国立公園の区域内。逆に明確に自然公園区域外と確信できたのは紋別港くらい…?

色付きが規制対象となる国定公園区域。積丹岬~神威岬の辺りはニセコ積丹小樽海岸国定公園になっていることが分かります。

自然公園法では現在ドローン飛行は規制されていない、、、が、制度を所管する行政機関の見解は。。

自然公園法では直接的に公園区域内のドローン飛行を一律的に規制していることはありません。しかし、自然公園内での使用は歓迎されていない印象を受けたのもまた事実。

まずは国立公園を所管する環境省のサイトでも以下のような記載がありました。これは阿寒摩周国立公園の管理に関する文書ですが、北海道でアザラシやシャチなどの海生哺乳類の撮影の舞台となりうる知床も国立公園ですし、礼文島や利尻島、抜海港などは利尻礼文サロベツ国立公園内で、同じ環境省が管理しているので似たような見解になると推察します。少々長いのですが引用します。

阿寒摩周国立公園内における小型無人機(ドローン等)の使用について

 近年、国立公園内において小型無人機を使う方が増加していますが、誤操作による落下や機械音等により、公園利用者とのトラブルが起きたり、野生生物に影響が出たりするおそれがあります。
 阿寒摩周国立公園を利用するみなさまが快適に過ごせるように、小型無人機を使用する際には、以下の注意点についてご理解・ご協力をお願いいたします。

阿寒摩周国立公園における小型無人機使用上の注意点

1.利用者が集中する場所、時間帯での利用は避けてください
 利用者が集中する場所では、落下して下にいる利用者に衝突するなどの事故が発生するおそれがあります。また、上空から撮影されていることに不快感を覚える方もいますので、利用者の多い場所や時間帯を避ける等十分なご配慮をお願いいたします。

2.野生生物への接近は控えてください
 ドローンによる野生生物への接近は、ストレスや刺激を与えることになり、①その影響で野生生物の行動が変化してしまう可能性があるため控えてください。特に野鳥の場合には、繁殖期に巣に近づくことで営巣放棄などにつながるおそれがあります。


3.回収可能な場所で利用してください
 ドローンが、摩周湖、硫黄山、オンネトーなど立入りが制限されている区域または阿寒湖、屈斜路湖など立入りが困難な区域に落下した場合、回収ができません。②国立公園の貴重な自然環境に負荷を与えないよう、回収可能な場所であることを確認した上で利用してください。

4.事前に土地所有者に連絡をしてください
 トラブルを未然に防ぐために、利用する土地の所有者を調べた上で事前に連絡し、注意事項等をご確認ください。なお、国立公園は土地はすべて環境省が所有している訳ではありません。

なお、以下に例示する行為を行った場合には自然公園法等の規定により、罰則が適用される場合や必要な措置を命じる場合があります。 
ドローンの落下・衝突により故意に野生動植物を損傷させた場合
落下したドローンを回収せずに放置した場合

https://www.env.go.jp/park/akan/topics/post_1.htmlから引用。一部、丸数字の挿入、赤字化・太字化等の構成変化は当サイトが実施。

次は北海道庁で、国定公園や道立自然公園を所管する自然環境局のサイトに「国定公園及び道立自然公園におけるドローンの使用について」という、タイトルがそのものずばりのコーナーがありました。私が感じていたドローンを海獣撮影に使ってどうなのよ?と思った点も含めて、極めて簡潔に、わかりやすく記載されているので、こちらも引用しましょう。

国定公園及び道立自然公園においてドローンを使用される皆様へ

 北海道内の国定公園及び道立自然公園(以下、「公園」)の区域内でのドローンの飛行や離着陸は、自然公園法及び道立自然公園条例における許可申請や届出が必要な行為ではありませんが、以下の点について留意してください。

1.他の公園利用者や野生動植物への影響
(1)自然景観及び野生生物への影響
 公園区域内でドローンが飛行し騒音を発生させることは、自然景観に悪影響を与え、他の公園利用者へ不快の念を抱かせるおそれがあるほか、①野生生物の本来の行動や生態を変えてしまうおそれがあります。
 また、②ドローンが落下した場合、野生生物を損傷したり、回収できずに残置されれば自然景観に悪影響を与えたりするおそれがあります。

(2)他の公園利用者への影響
 公園利用者の多い場所で飛行させた場合、ドローンと衝突した場合、他の公園利用者へ怪我を負わせるおそれがあります。

https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/kouen/drone.htmlから一部引用。丸数字の挿入・赤字や太字化は当サイトが実施。

環境省も北海道庁も公園利用者(他の人間)への影響と野生生物への影響について懸念を示しています。

環境省も北海道庁も法制度に基づいて、所管する区域に対する見解というものなので、国立公園や国定公園などの区域内とは書いていますが、公園区域外でも倫理的には同様の懸念はある思われます。

私が動くドローンを間近で見たときに、”アザラシ・海生哺乳類撮影に学術研究や公益性がない使用目的で、アザラシ愛好家や野生生物写真家がドローンを使うべきではないよな、、”と感じた理由が、上の環境省・道庁の見解中の丸数字の2つの観点と共通するものでした。文書に起こすと以下のような懸念・問題があるかなと思ったのです。

①通常の飛行時でも野生動物に影響を与える可能性があること。特に撮影対象・目的はアザラシだとしても、鳥など目的以外の動植物にも影響の懸念があること。
②落下などの事故時にドローンの回収は陸域に比しても困難であり、その結果、環境への負荷が通常の撮影に比べて大きくなる可能性があること。

以下少し詳しめに懸念を書いていこうと思います。

海洋におけるドローン撮影の懸念① 撮影時に野生動物への影響を与える可能性をゼロにはできない

ドローンは飛行時に相応の音が出ますし、アザラシなどの海獣たちにとっては見慣れない怪しい物体。また特にアザラシの生息する海岸に近い岩礁帯は、海鳥の営巣地だったり、猛禽類の採餌場だったりすることが多く、これらへの影響も考慮する必要があります。仮にアザラシをドローンで撮影したとして、その撮影した画像・動画に写っていないアザラシ以外への動物への影響は大丈夫なの?と感じます。撮影データでは「アザラシが影響を受けている様子はない」からといって「万事OKとはいえない」のです。

陸域の動物の話ですが、2018年頃にロシアでドローンによってヒグマの親子を撮影した動画が著しいバッシングを受けました。ドローンが親子のヒグマを怯えさせているのではないかということで(詳しくは以下のナショジオのサイトをご覧ください。)

【動画】ドローン撮影の功罪 野生動物への影響懸念
ネットで話題になった斜面を登るヒグマの母子の動画など、小型ドローンで野生動物を近くから撮影する動画が増えている。専門家は慎重な利用を呼びかける。

ドローンによる野生動物撮影はこのような社会的な批判を負うリスクもあります。

また「ドローン 野生動物」でGoogle検索すると鳥獣害対策のためドローンで野生動物を追い払うといった内容が主流で、そのようなものをアザラシを含む野生動物の観察・撮影道具にするのはどうなのよ?と思います。

海獣ドローン撮影の懸念②落下事故時の海洋環境に与える影響が通常の撮影に比して大きい

上で引用した北海道庁や環境省の文章でも落下事故時の影響懸念の記載があります。全く同感ですし、海域における落下事故の影響は陸域に比して深刻です。

海上でドローンが落下させてしまった場合、回収できない可能性が高いでしょうから、そうなると落下事故によりプラスチックや金属でできた部品、バッテリーなどに含まれる重金属類が海中に投棄されることになり、アザラシが好きな人や動物写真を撮ろうとする人が、アザラシが生息する海域でそのようなものが投棄される可能性背負ってまで撮影をするのはちょっとね、、、と思います。

また上に引用した環境省の文書のうち以下の2点目にも該当する可能性もあり怖いです。海に落ちたら回収はまず無理だと思いますので、放置になってしまうはず。。。

なお、以下に例示する行為を行った場合には自然公園法等の規定により、罰則が適用される場合や必要な措置を命じる場合があります。 
・ドローンの落下・衝突により故意に野生動植物を損傷させた場合
落下したドローンを回収せずに放置した場合

https://www.env.go.jp/park/akan/topics/post_1.htmlから一部引用。赤字化・太字化は当サイトが実施。

(結論)ドローンは便利だけど、動物と人間の適正距離の内側に入り込みすぎる可能性がある。よって、私は自分の目で観察・撮影をしていこうと思います

今回ご紹介したとおり、北海道の大部分の海岸で、ドローンを飛行させる行為は現段階では規制対象にはなっていません。が、特に希少な自然の保全地域にてドローン使用は歓迎されておらず、そもそも野生の動物観察・撮影にdローンを使うのは倫理的には微妙という側面があります。

沿岸に住むアザラシたちは、海岸から直接地続きではない岩礁だったり、高い崖下の岩礁だったり、人間があまり近づけない距離の場所に転がって、その暮らしぶりを我々に見せてくれています。きっとそのくらいの距離が彼らにとって人間との適切な良い距離感なんじゃないかなー、と思います。

アザラシの自然な姿を撮影したい

この距離感を一気に飛び越えられるのがドローン技術の凄いところですし、技術があるとそれを飛ばして海獣たちの生活を近距離で覗いてみたくなりますが、海獣たちや海鳥などの野生動物にとって、ドローンが飛んでくることによる益は無いどころか、音もうるさく、事故があった日には生息域の海に変なゴミが放置され、迷惑にしかならない話。そのような人間のエゴをドローンで押し付けるのは、アザラシや海洋生物が好きな人が私的目的の観察や撮影では無いよね、、、と思います。

ということで、私個人はドローンを使って野生動物を観察したり撮影しようとすることはありませんし、今後も双眼鏡やカメラのファインダーの視野でアザラシを捉えて、蒸し暑い眼差しを注ぐ観察・撮影スタイルを貫きつつ、そのため重いカメラとレンズをガチャガチャ担いで岩礁や海岸などのフィールドをウロウロして撮影していくのだろうな、と思います。

なお、前半部分に書いた内容の繰り返しになりますが、
行政機関や学術研究機関等(からの発注を含む)の調査や公益的な目的のために海洋におけるドローンの使用、獣害対策のためのドローンの使用、その他野生動物の観察や撮影とは関係ない分野へのドローンの活用はもちろん許容されるべきものと考えています。

今回はあくまで”(プロ・アマ問わず)個人の海獣観察や撮影といった私的目的のためのドローンの使用はどうなのかな”ということでございます。また法規制がかからない部分に関しては、あくまで一個人の見解ということで、よろしくお願いいたします。

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