日本が誇る超一流ホテルの信じられない激安セール、、、デフレが止まらない日本。
帝国ホテルの激安プラン
日本を代表する超一流ホテルである「帝国ホテル 東京」がこの度、「サービスアパートメント」プランの取り扱いを始めました。
要は中長期滞在用の格安プランであり、2021年2月1日予約開始で2021年3月15日から利用可能となっています。
このプランが巷では騒ぎになっているわけですが、その理由は何と言ってもあまりにも安い「価格設定」です。部屋タイプに依るものの、一番安い31平方メートルの「STUDIO」であれば何と「30泊36万円」(サービス料・消費税込)で利用可能なのです。1泊あたり12,000円ということで、コロナ禍の前なら都心のビジネスホテルでも1泊1万円くらいはしたことを考えれば破格という言葉では足りないくらいの安さです。
さらに特筆すべきは、付帯の無料サービス及び有料のオプションサービスです。
なんと、以下のサービスは全て無料!
- 専属サービスアテンダント
- 駐車場
- フィットネスセンター・プール・サウナ
- ロビーラウンジでのコーヒー・紅茶サービス
- ミーティングルーム(1日2時間まで)
そして以下のサービスは有料で追加することができます。
- ランドリーサービス(月額3万円)
- ルームサービス(11:00~22:00、専用メニュー、月額6万円)
私が思うに、部屋代以上にこの有料オプションがエグいです。高級ホテルを利用した経験のある方ならわかるかと思いますが、このクラスのホテルだとコーヒー1杯で1,500円くらいは普通にします。ルームサービスでパスタ1品頼んだだけでもサービス料込みで4,000円くらいは普通にかかります。ランドリーサービスだって普通に頼めばワイシャツ1枚で1,000円くらいはしますから、この価格設定はあまりにも安過ぎます。
当たり前と言えば当たり前ですが、現在予約が殺到しているそうで、電話をかけても全く繋がらない状態なのだとか。
ブランドイメージの毀損
私が本件を知った時の第一印象は「うわぁ〜帝国ホテルやっちゃったな、、、」でした。
ホテルに限らず、高級ブランドのブランディングにおいて最も重要なのは「ブランドイメージの維持」なわけで、要は「イメージ戦略により長期的になるべく同じ価格で売り続ける」、もっと言えば「イメージ戦略により真の価値よりも高い値で売る」ことこそが重要なのです。
個人的に最もわかりやすい例はシャンパンの「モエ・エ・シャンドン」(Moët & Chandon)です。普段あまりシャンパンを飲まない方でも名前は知っているという人は多いのではないでしょうか。最も一般的な「ブリュット アンペリアル」はネットで買えば5,000~6,000円ほどですが、シャンパンが本当に好きな人ならまずあれは買わないでしょう。コスパが悪いからです。もちろん普通に美味しいとは思いますが、価格と釣り合っていません。そのくらいの金額を出すのであれば私なら迷わず「ペリエ ジュエ」(Perrier-Jouët)の「グラン ブリュット」を買います。「モエ・エ・シャンドン」はLVMH(LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン、LVMH Moët Hennessy ‐ Louis Vuitton SE)グループに属しているわけですが、単にLVMHグループのブランディングが秀逸なだけなのです。「芸能人格付けチェック」を見ていればわかるように、世の中には真の価値がわかる人ばかりではありません。というかわからない人の方が明らかに多いです。なので価格なんて「イメージ」次第で何とでも吊り上げられるのです。なお、つい最近LVMHグループによる「ティファニー」(Tiffany & Co.)の買収が完了しましたが、LVMHグループ側は「これからはもっと高く売る!」と言っています。おそらくそれは実現するでしょう。
そういった観点から言えば、今回の帝国ホテルの「超激安売り」は最低なやり方だと言わざるを得ません。ブランドイメージの著しい毀損は不可避です。せめて1泊あたり2万円で30泊60万円くらいなら十分に理解できる話だったのですが。
帝国ホテルは言うまでもなく日本の(日系)ホテル「御三家」(帝国ホテル東京、ホテルオークラ東京、ホテルニューオータニ東京)の一つであり、紛うことなき日本が誇る最高のホテルです。
そんな帝国ホテルが1泊あたり12,000円のプランを出すとは、、、まさか都心にあるビジネスホテルの「ドーミーイン」よりも安いとは、、、ホテルステイ好きとしてはただただ残念としか言いようがありません。
低価格帯のホテルはこういう思い切ったことをやっても利があります。各種メディアに取り上げられ大きな宣伝効果がありますから。
でもイメージが大切な最高級ホテルがこれをやってはいけません。ありとあらゆるメディアが報道し、私の様なブロガーが一斉に記事を書いてインターネット上にアップした「黒歴史」は未来永劫残るわけですから。件の「30泊36万円」プランの対象となっている31平方メートルの部屋は、本来素泊まりでも1泊3万円はします。帝国ホテルならそりゃ最も狭い部屋でも3万円くらいはするでしょう。ホテルステイ好きなら「特別高い」とは思わないはずです。ただ、今回それを30泊縛りがあるとは言え、1泊あたり12,000円で売ってしまったわけです。これは「12,000円でも黒字になります」と言っているのと同じです。コロナ禍が収束してまた普通に旅行ができるようになったとして、同じ部屋に3万円出して泊まろうと思いますか? 私は絶対に無理です。16,000円とか18,000円なら妥当だと考えるでしょうが、もう3万円は出せません。これが「ブランドイメージ」というものなのです。一度毀損してしまうと回復は本当に困難なのです。
デフレが止まらない日本
コロナ禍により、日本では特に旅行業界や飲食業界でデフレが止まりません。
ホテルに関して言えば、1泊4,000~6,000円くらいで泊まれるビジネスホテルが現在びっくりするほど多いです。そんな金額であんなにまで清潔な部屋に泊まれる先進国が他にあるでしょうか?
飲食業界も酷いですね。お客さんが激減したからと言って、格安ランチを提供するお店がすごく増えていますが、先日テレビを見ていて驚きました。600~800円くらいで美味しそうなランチやテイクアウトメニューを提供するお店の多いこと多いこと。私もそれなりに色んな国を訪れてきましたが、先進国の大都市において1,000円未満で食べられるものなんてマクドナルドくらいですよ。ざっくり言えば、外食の価格で言うと東京は発展途上国である中国の北京と似たり寄ったりです。
「安くしないと全然売れないんだから仕方ないだろ!」という話なのだとは思います。ただそれにしても、日本のデフレっぷりはさすがに酷いです。「Go To トラベルキャンペーン」を利用した旅行に関しても言えることですが、コロナ禍が収束して「本来の価格」に戻った時に、皆さんは同じホテルや飲食店を利用する気になれるのでしょうか?
「値下げ」というのは恐ろしいものです。我々の中の「コスパ」の基準に大きな影響を与えますから。
コロナ禍が収束したとして、日本が他の先進国のように経済成長して我々の給料が徐々に上がっていくのならまだしも、日本の給与水準なんてコロナ禍が始まる前から減少傾向を示していたわけで、上がるはずがないんですよね。まあそうであることが明白だから二階さんや菅さんは「外国人によるインバウンド需要に頼るしかない」と考えているのでしょうが、本当に日本の弱体化は進むばかりだなと。
緊急事態宣言の延長が決まりましたが、4月から新年度が始まるわけで、1か月後にはさすがに解除されるでしょう。となればゴールデンウィークが意識されるわけで、遠くないうちにGo Toトラベルキャンペーンも再開されることになります。帝国ホテルはもうちょっとだけ我慢できなかったのでしょうかね、、、
私自身の経済力は下の上か、良くて中の下です。年収は平均より低いです。ただ趣味が旅行なので、国内の高級ホテルに関しては、素泊まりで1泊35,000円を個人的な上限として設定しています。勝手な想像ですが、似たような方は今の日本には少なくないのではないでしょうか? 要は、「パークハイアットやリッツカールトンは絶対に無理だけど日系御三家なら何とか手が届く」というホテルステイ好きの人たちです。富裕層は多分今の東京なら外資系ホテルを選ぶと思うんですよね。いいところがすごく増えましたから。ということで、帝国ホテルは私みたいな普通の人も大事にした方が良い気がするのですが、私たちみたいなのは決して裕福ではないのでやっぱり「コスパ」を気にするんですよね。そういう意味でも今回の安売りはやはりマズかったかなと、私にはそう思えてなりません。