テレワークの「労働」に国が画期的な判断

 身を守るための新たな手段とは?

(今野晴貴) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 

 

写真はイメージです。(写真:アフロ)

 

 テレワークはコロナ禍で急速に拡大していき、感染予防だけでなく、満員電車での長時間通勤の必要もなく労働者が働く場所を選べるといった観点から好意的に捉えられてきた。

 

 その一方で、自宅などオフィス以外で業務を行うことで、定時を超えて仕事をしていても残業代が支払われないケースや、ハラスメントや長時間労働が見過ごされる可能性も懸念されていた。

 

 今年4月3日、まさにそのようなテレワーク中に、月100時間という過労死ラインを超えた残業の結果、精神疾患を発症した女性に対して3月に労災が認定されていたことが明らかになった。女性の代理人弁護士は「テレワークによる過重労働での労災認定は初めてではないか」と話しており、極めて画期的だといえる。

 

 本記事では、この事件の当事者と弁護士による記者会見の情報から、テレワーク中の過労による病気や残業代未払いへの対処法について考えていきたい。

 

テレワーク中に過労死ラインを超える過重労働で精神疾患に

 今回、テレワーク中の過重労働が原因で精神疾患を発症した関東在住の女性(50歳代)は、横浜市にオフィスを構えるスターキージャパン株式会社に2019年に正社員として採用された。この会社は、世界100カ国以上に展開する補聴器専業メーカーでアメリカに本社を置くスターキー社の日本法人であり、管理部に勤務する女性の仕事内容は、経理や人事から総務までと非常に多岐にわたっていたという。そのなかで、社員が頻繁に入れ替わったり、新規システムの導入など業務が集中した2021年の下半期から仕事の負担が大きくなっていた。

 

 もともとこの会社ではコロナをきっかけにテレワークが導入されており、女性も2020年からテレワークを行っていた。テレワーク中、女性は上司からチャットやメールで業務の指示を受けており、必要に応じて電話でのやり取りやオンライン会議も開かれていた。所定労働時間は8時30分から17時30分(休憩1時間)の8時間であったが、ひっきりなしに寄せられる業務指示によって慢性的な残業が続いていたという。

 

 女性の代理人弁護士によれば、上司からの業務指示が酷いときには数分単位で、少なくとも1時間に数回は届いており、レスポンスが遅くなると返信するよう催促の連絡が来ていたようだ。また、金曜日の深夜に月曜日までにこの仕事をやってほしいというメールが届いたり、18時以降に翌朝までにある業務を完成させてほしいという指示が送られてきたりと、定時を遥かに超えて働いていたという。

 

 一ヶ月間の残業時間は労働基準監督署が認定しただけでも最大112時間と、過労死ラインを遥かに上回っているような過重労働を強いられた結果、女性は2022年3月に精神疾患を発症し、現在まで休職中を余儀なくされている。

 

 その後、女性は精神疾患の発症は労災であると主張して労災申請を行ったところ、今年3月に横浜北労働基準監督署は長時間労働があったことを認めて労災だと認定している。

 

 

ほとんどの事業場外みなし労働時間制は不適切に適用されている可能性が高い

 このケースで特徴的なのは、テレワーク中の過労に加えて、女性に対しては事業場外みなし労働時間制を会社が適用していたことである。この制度では何時間働いても残業とならないため、女性に対してはあらかじめ決められていた固定残業代35時間分以外は支払われていなかった。この事業場外みなし労働時間制が長時間労働の温床になっていたと考えられる。

 

 そもそも事業場外みなし労働時間制とは、オフィスや工場といった会社の事業所以外で働いている労働者で、会社から具体的な業務指示がなされていないために労働時間を算定することが難しいとされる場合において、何時間働いていても、あらかじめ決められた時間数働いていたと「みなす」制度である。仮に、そのときに1日20時間働いたとしても、あるいは1時間しか働かなかったとしても、8時間とみなすと決められていれば8時間分の給料が支払われる。

 

 労働基準法第38条の2に定められているこの制度だが、ポイントは労働時間の算定が難しい場合にのみ適用可能という点だ。例えば、厚生労働省「事業場外労働に関する「事業場外みなし労働時間制」の適正な運用のために」によれば、「無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合」は、会社の指揮監督が及んでおり労働時間が算定可能であるため、適用できないとされている。

 

 いまでは、ポケベルどころか位置情報を確認できるスマホがあるため、事業場外みなしが合法的に適用されるのはかなり特殊な事例、それこそスマホを持っていたとしても、会社からの指示や連絡を一切受けずに外回り営業や自宅作業している場合のみだといえる。

 

 そう考えると、いま「みなし」で働きながら残業代が支払われていないほとんどの労働者には、残業代不払いが発生しているといえるだろう。 

 

参考:外回りの営業社員にも残業代が払われる!?

 

テレワークでもみなし労働時間制が違法になるケースが少なくない

 さらに、今回問題になっているテレワークを行う労働者に対して事業場外みなし労働時間制を適用するにあたっては、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」が参考になる。これは上で見た要件を、テレワークを想定した形で整理しているが、このガイドラインによれば以下の2点が要件となるという。

 

第一に、「情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」だ。例えば、「勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合」や、通信機器を切断できなくても「労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合」がこれに該当するという。

第二に、「随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」だ。これは「使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、一日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合」とされている。
(強調:引用者)

 

 スターキージャパンで働いていた女性の場合、業務指示がひっきりなしにチャットなどで業務指示が送られていただけでなく、それに対してレスポンスを返すことが求められていたようだ。そのため通信回線を自分の判断で切断することなどできるはずもなく、また自分の意思でパソコンから離れることも困難であることから、第一の要件を満たしているとは考えにくい。また、「翌朝までに」「月曜日までに」と、いつまでに作業を終えられるかなど作業時間に対しての指示があったため第二の要件も満たさないと考えられ、事業場外みなし労働時間制の適用は認められないと労基署が判断したのだろう。

 

 この2つの要件に加えて、スターキージャパンでの事業場外みなし労働時間制に対する労働基準監督署の対応をみると、いま全国で行われているテレワーク労働者に対する事業場外みなし労働時間制の多くが違法の可能性が高いと考えられる。その日の具体的な業務スケジュールが決まっている場合や、スラックやチームス、その他のアプリで業務指示がなされる状況であれば会社は労働時間を把握することができるため、もしそのような状況で働いているものの事業場外みなし労働時間制のために残業しても不払いになっていれば、賃金未払いとして会社に請求することが可能になると考えられる。

 

重要なのは証拠集め パソコンのログやメール、チャットを保存しよう

 今日においてはほとんど適用が困難な事業場外みなし労働時間制を、なぜ会社が導入するのか疑問に思う読者もいるかもしれない。スターキージャパン社の導入経緯は不明だが、一般論としては、事業場外みなし労働時間制は就業規則の改定を行えば導入できるという容易さに加えて、「あなたは事業場外みなし労働時間制なので、残業代はでない」と労働者に伝えれば、あたかも残業代の不払いが正当であるかのように思わせることもできるからだろう。

 

 なお、今回のケースでいえば、女性が使用していた社用パソコンのログに基づいて残業時間を割り出すと、一ヶ月で最大160時間ほどになると女性の弁護士は話している。しかし労働基準監督署の判断は最長で112時間、最も少ない時期は月わずか12時間と判断しており、女性側の主張とは乖離があるという。

 

 これはおそらく、労基署がパソコンのログではなく、チャットやメールなどの記録から具体的な業務指示があった時間のみを採用した結果だと考えられる。女性の場合はチャットやメールの記録があったことで最低限の労働時間の主張ができ認定されたようだ。

 

 つまり、テレワークなどを行っている人にとっては、労災申請や残業代請求にあたって証拠集めが極めて重要となる。業務指示がなされるアプリやメッセージはすべてスクリーンショットを残したり、メールを削除せずに残しておくことが大切だ。特に社内の業務アプリやグループワークシステムは、会社からメンバーとして退出させられると後から証拠を取ることが難しくなるため、今のうちに記録を残しておいてほしい。

 

 今回のケースでも、労働時間が過小評価されているもののチャットなどの記録があったことを踏まえて労働基準監督署は今年1月12日付けで会社に対して是正勧告を行っている。それを受けて会社は約90万円の未払い残業代を2月末に女性に対して支払っている。

 

 女性は「窓のない独房で常に監視され、追い込まれているような状況に陥ったら、わずかな睡眠時間ですら眠れなくなったら、上司は無視して、残りの力を振り絞って病院や労働の専門家の元に駆け込んでください」と話しているが、女性がコメントするように、おかしいと思ったらすぐに専門家に相談してほしい。

 

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阿部 治正

 

プログレッシブ・インターナショナルのサイトが、ドイツに入国を拒否された医師でグラスゴー大学の学長であるガッサン・アブ=シッタ博士の演説を掲載しています。良い演説ですので、前半の一部だけですが、ご紹介します。全文は、下のURLでお読みください。

www.asahi-net.or.jp/~th4h-yko/speach.pdf

■ガッサン・アブ=シッタ博士の演説 「明日はパレスチナの日」

グラスゴー大学学長に大勝利した英国系パレスチナ人外科医ガッサン・アブ=シッタのスピーチ

「各世代は、相対的に不透明な中で、自らの使命を発見し、それを果たし、あるいは裏切らなければならない」。- フランツ・ファノン『惨めな大地』

グラスゴー大学の学生たちは、殺害された52,000人のパレスチナ人を追悼して投票することを決めた。殺された14,000人の子どもたちを偲んで。孤児となった17,000人のパレスチナの子どもたち、負傷した70,000人(そのうちの50%は子どもたち)、手足を切断された4~5,000人の子どもたちとの連帯のために投票した。

彼らは、破壊された360の学校と完全に平らにされた12の大学の生徒と教師との連帯に投票した。グラスゴー大学の卒業生で、赤ん坊と一緒に殺害されたディマ・アルハジの家族と、彼女の家族全員の記憶に連帯した。

20世紀初頭、レーニンは、西欧における真の革命的変革は、帝国主義や奴隷植民地に対する解放運動との緊密な接触にかかっていると予言した。グラスゴー大学の学生たちは、政治が非人間的なものになることを許せば、私たちが何を失うことになるかを理解していた。彼らはまた、ガザについて重要でかつ異っているのは、グローバル資本が余剰人口の管理を検討している実験室であることも理解している。

彼らがガザの隣に立ち、ガザの人々と連帯したのは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が今日使う武器は、インドのナレンドラ・モディ首相が明日使う武器であることを理解していたからだ。狙撃銃を装備したクアッドコプターやドローンは、ガザで非常に巧妙かつ効率的に使用され、ある夜、アル・アハリ病院では、これらの発明品によって30人以上の負傷した市民が病院の外で撃たれた。いずれは、イスラエルが開発した顔認識ソフトのように、イースターハウスやスプリングバーンにも導入されるだろう。

では実際、学生たちは誰に投票したのだろうか? 私の名前はガッサン・ソリエマン・フサイン・ダハシャン・サカー・ダハシャン・アーメド・マフムード・アブ・シッタ。私を除いて、私の父と先祖は全員、グラスゴー大学の前学長の一人が手放したパレスチナで生まれた。彼の46文字の宣言が、イギリス政府によるパレスチナ入植者の植民地化支援を発表する30年前、アーサー・バルフォアはグラスゴー大学の学長に任命されていた。「世界を調査してみると......膨大な数の未開人社会が存在することがわかるが、それは明らかに、有史以前の人間の間に広まっていたものと大差ない文化段階にある」と、バルフォアは1891年の学長就任演説で述べた。

 

その16年後、この反ユダヤ主義者は、東ヨーロッパのポグロムから逃れてきたユダヤ人が英国で安全に過ごせるようにするため、1905年の外国人法を巧みに立案した。1920年、私の祖父シェイク・フセインは、私の家族が住んでいた小さな村に私財を投じて学校を建てた。そこで彼は、教育を私の家族の生活の中心に据える関係の礎を築いた。1948年5月15日、ハガナ軍はその村を民族浄化し、何世代にもわたってその土地に住んでいた私の家族を、今ではガザ地区の廃墟と化したハン・ユニスの難民キャンプへと追いやった。祖父の家に侵入したハガナ将校の手記を叔父が見つけた。その手記の中で、その将校は、家が本であふれ、祖父のものであるカイロ大学の法学部の学位証明書があったことを信じられない思いで記している。

ナクバの翌年、父はカイロ大学の医学部を卒業し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の新設クリニックで働くためにガザに戻った。しかし、同世代の多くの人々と同じように、父も湾岸諸国へ移り住み、それらの国々の保健システムの構築に貢献した。1963年、小児科の卒後研修を受けるためにグラスゴーに来た彼は、この街と人々に恋をした。

そして1988年、私はグラスゴー大学で医学を学ぶことになった。ここで私は、医学には何ができるのか、医学のキャリアがいかに人々の生活に冷たい視線を向けることになるのか、また、正しい政治的、社会学的、経済的なレンズを身につければ、人々の生活がいかに自分たちの力ではどうにもならない政治的な力によって形作られ、何度も歪められているのかを理解することができるのかを知った。

そしてグラスゴーで、私は初めて国際連帯の意味を知った。当時のグラスゴーには、エルサルバドル、ニカラグア、パレスチナとの連帯を組織するグループがあふれていた。グラスゴー市議会は、ヨルダン川西岸地区の都市と連帯した最初の都市のひとつであり、グラスゴー大学は、サブラとシャティーラの虐殺の犠牲者のために最初の奨学金を設立した。私の戦争外科医としての旅が始まったのは、本当にグラスゴーでの数年間のことだった。最初は学生として、1991年のアメリカによる最初のイラク戦争に行き、1993年にはマイク・ホームズと南レバノンに行き、第2次インティファーダの最中に妻とガザに行き、2009年、2012年、2014年、そして2021年にイスラエルがガザで起こした戦争に行き、イラク北部のモスルでの戦争に行き、シリア戦争の最中にダマスカスに行き、イエメン戦争に行った。しかし、私がガザに行き、大虐殺が繰り広げられるのを見たのは、10月9日のことだった。

私が戦争について知っていたことのすべてが、これまで見たことのない10月9日の事態と比較された。それは洪水と津波の違いだった。私は43日間、殺戮マシーンがガザ地区のパレスチナ人の命と身体を引き裂くのを見た。カミングアウト後、グラスゴー大学の学生たちは私に学長選挙に立候補するよう声をかけてくれた。その直後、バルフォアの野蛮人の一人が当選した。

では、この6ヵ月間、私たちはジェノサイドから、そしてジェノサイドについて、何を学んだのだろうか? 私たちは、インフラも人材も含めた教育機関全体の抹殺である学徒虐殺が、民族の大量虐殺的抹殺の重要な要素であることを学んだ。ガザでは12の大学が完全に破壊された。400の学校。6,000人の学生が殺された。230人の教師が殺された。100人の教授と学部長、2人の大学学長が殺された。

また、これは私がガザを離れたときに知ったことだが、大量虐殺計画は氷山のようなもので、イスラエルはその一角にすぎない。氷山の残りの部分は、ジェノサイドの枢軸で構成されている。この大量虐殺の枢軸とは、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリア、カナダ、フランス......イスラエルを武器で支援し、大量虐殺を武器で支援し続け、大量虐殺プロジェクトを継続させるために政治的支援を維持してきた国々である。大量虐殺を人道化しようとするアメリカの企てに騙されてはならない:彼らは パラシュートで食糧援助を投下しながら人々を殺すのだ。

…後略…

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資本主義への挑戦 バーニー・サンダース
2024年4月6日発行

ミケーレ・カロッツァ著

Sfidare il capitalismo. Bernie Sanders – Marx21

 



400ページ近くもあるサンダースの本(Sfidare il capitalismo, Fazi Editore)で最も印象的なのは、アメリカの民主主義のあり方についてこれほど広範囲に考察しているにもかかわらず、戦争や国際政治というテーマがないことだ。しかし、アメリカでは2023年2月に出版されている(原題は『It's ok to be angry about capitalism』)。

著者の推論の根底にあるテーマが、資本主義に脅かされる自由民主主義の危機における階級左派の復活の問題であることを付け加えれば、左派や他国の現実との比較はほとんどない; 同じ問題に取り組んでいる西側諸国の似たような国との比較も、スカンジナビアの民主主義諸国への関心も、アメリカのシステムの改革・発展計画を練るためのケーススタディとして、教育、医療、情報システムの公的融資に限定されている。

ベルティノッティは序文で、これはアメリカの本だと書いている。アメリカ的であり、アメリカの現実に "閉ざされ"、世界の他の地域には無関心であり、国境外に何が存在し、何が起こっているのかに対するアメリカ人の無知が、単なる低俗なステレオタイプ以上のものであるのではないかという疑念を抱かせる。イタリア人(あるいはヨーロッパ人)の読者がこのような「アメリカ的」な本から学ばなければならないのは、ベルティノッティが書いているように、階級闘争や社会的対立の回復や労働者階級への新たな関心ではない。大西洋の両岸における階級左派の政治的軌跡の類似点や共通点を把握することは難しくないし、サンダースの提示する経験が、さまざまな衰退を遂げたリベラル・デモクラシー政党の抱擁によって息苦しくなったヨーロッパの左派の経験を、アメリカの地で再現していないだろうか、と考えることも難しくない。

サンダースの著書の出発点は、この高齢の「無所属」上院議員(民主社会主義者)がホワイトハウスを目指し、民主党のバイデン候補に党代表選で挑んだ2020年の選挙戦の記録である。2016年にはすでに、クリントン候補の指導力を脅かしていた。クリントン候補はその後、大統領選挙でトランプ候補に敗れ、指名を断念した。
 

議論の中心であると同時に、この制度と選挙資金の問題は本文中に何度も登場する。「現在のアメリカの選挙資金制度は災難であり、民主主義を真剣に信じる者にとって恥辱である。もし明日、誰かが上院議員に、ある法案に賛成票を投じるか反対票を投じるか、100ドルを差し出すとしたら、これはどんな裁判所でも『賄賂』とみなすだろう。この賄賂を受け取れば、賄賂を提供した人、そして受け取った議員は刑務所に入ることになる。しかし、同じ人物がその上院議員のためのスーパーPAC(政治活動委員会、候補者、住民投票、立法構想の支持または反対のための資金調達委員会)に1億ドルをつぎ込んだとしたら、この支出は完全に合法とみなされるだろう。

 

2010年のシチズンズ・ユナイテッド判決で、最高裁は企業や組合の献金を制限することは言論の自由の侵害にあたるという判決を下した。それ以来、選挙運動費用は爆発的に増加し、今日、議員に当選するためには、億万長者になるか、政権を握った後に恩返しをする億万長者のスポンサーを見つける必要がある。選挙資金のシステムを変革することが、サンダースにとって優先事項となる。大きな利益からの独立性と自律性を維持するためには、労働者階級からのみ資金を得ることが必要なのだ。2020年の大統領選挙に向けて、サンダースは220万件の小口献金から4500万円を集めており、並外れた動員力を評価してもいいだろう。しかし、その背景を考えると、民主党予備選の主な競争相手の一人で、当時世界第8位の富豪だったブルームバーグは、自身の立候補に9億ドル以上を投資している。

 

質問リスト、プログラム・ポイントのリスト、原則のセットと意思表明、活動家や支持者のためのバデメックを思わせる問題点と解決策の列挙、あるいは数え切れないほどの市民集会での市民とのやりとりを通して、サンダースの提案と、アメリカのシステムと資本主義に対する彼の考えを知ることができる。ヘルスケア、教育、メディアと情報のコントロールは、特定の章で深く分析されたトピックであり、一読をお勧めする。これらの各分野では、公的資金を増やし、大財閥の力を制限することが問われている。経済的権利は人権にならなければならない。サンダースの提案は、労働者の(再)組合化と意思決定プロセスへの参加に基づく経済民主主義を実現することであり、エコロジーの再転換と気候変動との闘いによって推進されるが、同時に経済システムを安全で効率的なものにすることでもある。

サンダースが挑戦しようとしている資本主義とは、彼が超資本主義と呼ぶ現在の形態のものであり、プラットフォーム、極端な柔軟性、企業や大金融資本の圧倒的な力の前ではますます弱く無力になるフリーランス労働者「自身の起業家」のものである。よく見ると、サンダースの批判は、システムとしての資本主義ではなく、「奔放な」資本主義とその行き過ぎ、制約や制限が取り払われることによって生じる影響、政治によって行使される民主的な対抗力の不在に向けられている。あたかも、彼が非難する権力の巨大な集中と巨大な社会的不平等が、そうでなければ健全なシステムの異常と退化の結果であるかのように。ニューディール時代の古き良き時代、あるいは彼の子供時代、一介の事務員の収入で4人家族がまともに暮らせた時代を、ノスタルジックと思えるほど想起させる文章も少なくない。ある章のタイトルは『盗まれた繁栄の約束』である。資本家たちの行き過ぎた貪欲さを緩和し、バランスをとる必要があると語るときでさえ、サンダースは、新自由主義者の箴言のように、反社会的本能が有害でなくなり、経済的・社会的発展の不可欠な原動力となるような公正な方策を暗示せずにはいられない。

そこから浮かび上がってくる国のイメージは、何百万もの労働者にとっての悪夢であり、何百万もの家族が毎日生存のために闘うことを余儀なくされ、しばしば屈服する地獄であり、民主主義という最低限の概念からさえかけ離れた場所である。サンダースはこれを利用して、急進的な解決策が必要であることをアメリカの読者に説得している。私たちは、この上院議員が、どう見ても達成された寡頭政治であるシステムを擁護するために国民を動員することがなぜ可能だったのか、不思議でならない。2016年と2020年の予備選挙は、トランプ右派が民主主義にもたらした脅威に直面したサンダースの選挙戦からの撤退と民主党への支持で幕を閉じた。サンダースのビジョンでは、階級闘争と労働者の利益は、民主主義--アメリカの民主主義という特殊で、ほとんど神話的な形態--の擁護に従属したままである。自由で公正な選挙の結果を覆す」というトランプの脅しに直面し、「アメリカ史上初めて」、サンダースは突然、彼があれほど明確に非難したアメリカ民主主義の寡頭政治的堕落について忘れてしまう。民主主義の防衛と存続のために」行動を起こさなければならず、「党派性やイデオロギーの狭い枠を超えた存亡の危機が存在する」、「アメリカ民主主義の基盤である権力の平和的移転が脅かされている」。

 

もし今日、予備選のかなり前に、4年前と同じバイデンとトランプの対決が再現され、アメリカの有権者と労働者階級の膠着状態--サンダースが分析に用いる進歩的な基準によれば、後進性ではないにせよ--が写真に収められたとしたら、サンダースのキャンペーンには何が残るのだろうか?もしサンダースが提唱する、急進的で進歩的な--「変革的な」--左翼が下から成長し、文化的・選挙的に民主党をヘゲモニー化するというモデルが妥当だとしたら、アメリカの労働者の状況の後進性(現代において顕著な加速が見られる)をどう説明するのだろうか?

労働者階級は、職場で非民主的な依存と従属の関係を強いられており、その要求に無関心で現状を守るために構築された民主主義の名の下に、敵に協力し、対立や反対を放棄することによって、政治の舞台でそれを再現するよう求められることはありえない。突然地球に降りてきた悪名高き火星人が、巨大な不平等や不公正が存在するにもかかわらず、抗議、衝突、反乱、革命が起こらないのはなぜかと問うとき、その答えのなかにサンダースのような民主主義左派を見出さないほうがよいだろう。
 

延期されたイスラエルのイラン攻撃
ギルバート・アハカー
2024年4月25日

 

初出はアラビア語でアル・クッズ・アル・アラビ。ギルバート・アハカーのブログより翻訳。
The postponed Israeli attack on Iran | Links

 


先週金曜日(4月19日)、イスラエル政府はイラン領内への極めて限定的な攻撃で満足した。テヘランは、この攻撃はイラン国内から発射された小型無人機によるものだと主張し、アメリカの情報筋は、レーダーを飽和させるために発射された無人機に加え、イラン領空に接近した航空機から発射された1発から3発のミサイルも含まれていたと主張した。厚いコンクリートと砂の層に埋もれ、イランに核兵器を供給する準備が進められている場所と考えられている。言い換えれば、イスラエルはイランの防空網を突破し、戦略的に重要な原子炉を攻撃できるというメッセージをイラン政権に伝えたかったのだ。

イランによるシオニスト国家への大規模な攻撃は限定的な影響にとどまったが、イスラエルによるイランへの「外科的攻撃」との対比は明らかだった。テヘランは少なくとも320機の無人機、巡航ミサイル、弾道ミサイルを発射したが、イスラエルは当初、自国領土を攻撃した弾道ミサイルは4発だけで、防衛の成功率は99%だと主張していた。しかし、米国の情報筋は後に、イスラエルの防空網を貫通したミサイルは4発ではなく、9発だったと報告している。このため、イスラエル紙『マーリブ』(2024年4月17日付)のインタビューに応じたイスラエルの研究者は、実際の迎撃率は84%であると述べている。これは、真の危険源である弾道ミサイルだけで測定すべきであり、同専門家が総数110発と推定するイランが発射したミサイルの半分は、イラク、シリア、ヨルダンに落下したためである(したがって、同専門家の推定によれば、イスラエル領空に侵入した55発のミサイルのうち、9発は16%にあたる)。

同専門家がイスラエル紙とのインタビューの最後に、イランが攻撃に使用したミサイルは、イスラエル領内に到達可能なミサイルの10~15%だと推定したことは注目に値する。彼は、これらのミサイルは精度に欠け、故障率も高いと断言し、核弾頭を搭載しない限り、シオニスト国家にとって存立の脅威にはならないと結論づけた。戦略的論理は、テヘランが核兵器の保有を加速させ、保有が完了したらそれを公表するよう促している。実際、イスラエルによる攻撃の前日である先週木曜日、イラン革命防衛隊の核施設保護警備隊司令官であるアーメド・ハク・タラブ少将は初めて、「イスラエルがイランに圧力をかけるために核施設攻撃の脅威を利用しようとするならば、核ドクトリンの見直しと、以前に発表した考慮事項からの逸脱があり得る」と宣言した。(イランのタスニム通信)。

テヘランは、核領域における意図はあくまで平和的なものであり、核兵器は宗教的に違法なものであるとさえ考えていると長年強調してきたが、これは実に初めて、核兵器取得の意思を明言したことになる。イラン原子力機関のモハンマド・エスラミ長官は、この少将の発言に先立つ今年の初め、「抑止力は神の助けによって達成された」と述べていた。エスラミは、公式見解を再確認した後、次のように付け加えた。彼は翌月、イランは核兵器の構成要素を保有しており、必要であれば組み立てるだけだと述べた。アメリカの情報筋は、テヘランが現在、少なくとも核爆弾3発分の兵器級燃料を数日以内に製造できるほどの濃縮ウランを保有していることを認めているが、イランが核爆弾を製造するには数カ月、核弾頭を搭載したミサイルを管理するには2年程度が必要であるとの見解を付け加えている。

 

田中龍作ジャーナル | が神田に集った「小池を許すな」「木を切るな」の人々

(tanakaryusaku.jp)

樋口区長(左)と小池知事の師弟コンビが緑を破壊する。=20日夜、神田警察署前 撮影:田中龍作=

 

 学歴詐称と開発が奇しくも一体化してきた。人間の悪辣さがなせる業なのか。

 

 善良な市民はそれに異を唱える。21日投開票の目黒区長選に立候補している都民ファースト候補の応援に小池知事が駆け付けたところ、「学歴詐称」と「都ファ候補」を批判するプラカードが翻った。

 目黒区では図書館や福祉施設などが入る区民センターを解体して、高層マンションを建てようという計画がある。

 区民センターの解体に伴い多くの樹木が現在の場所から姿を消す。行政は移植と呼ぶ。安倍晋三が嘯(うそぶ)いた「サンゴの移植」と同じである。できはしないのだ。

 都ファの伊藤悠候補は千代田区の樋口区長と同じく小池氏の弟子だった。3人とも開発推進派だ。緑は二の次・三の次である。

目黒区の女性はこのプラカード持参で都ファの街宣に行ったら排除された。=20日夜、神田警察署前 撮影:田中龍作=

 きょう20日、東横線の学芸大学駅前であった伊藤陣営の街宣で「学歴詐称を許すな」「外苑の木を切るな」と呼び掛けた女性たちが、その足で神田警察署通りに駆け付けた。

 学芸大学駅前であった都ファの街宣には、神宮外苑の緑を守る運動を展開している新宿都民も参加して「反小池」「外苑の木を切るな」と訴えた。

 開発大好きの政治家たちが全国各地で樹木を伐採しようとしている。伐採に反対する全国の人々が横につながれば緑を守ることができる。

 今夜はその第一歩だった。

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米名門校、卒業生代表のスピーチを中止。

パレスチナ支持を批判されていた

 | ハフポスト WORLD (huffingtonpost.jp)

タバサムさんは学長発表と同日の15日に「米イスラム関係評議会(CAIR)」に声明を掲載した。

その中で「大学に、具体的な脅威の根拠を提供するよう求めたものの拒否された」と説明。「安全のみを根拠に、スピーチを中止したかどうかについて重大な疑念が残る」としている。

 

 

米名門大学でデモ拡大、コロンビア大とエール大の厳しい対応で拍車 

- Bloomberg同大学ではキャンパスの芝生で行われた親パレスチナのデモを排除するため警察が呼ばれ、不法侵入容疑で100人余りの学生が18日に逮捕された。デモ参加者は「イスラエルのアパルトヘイト(人種隔離)政策やジェノサイド(大量虐殺)、パレスチナ占領から利益を得る 」投資から撤退するよう大学側に求めている。

 

米名門大学でデモ拡大、コロンビア大とエール大の厳しい対応で拍車 

- Bloomberg

コロンビア大学でのデモ(4月22日)

コロンビア大学でのデモ(4月22日) Photographer: Stephanie Keith/Bloomberg

米名門校コロンビア大学の学生たちにとって、それは究極の裏切りだった。学生たちはパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルに対するキャンパス内での正当な抗議活動だと考えていたが、大学側は警察を呼んで彼らを逮捕させたのだ。

  コロンビア大首脳による先週の衝撃的行動の狙いは、イスラエル政府に利益をもたらす全ての投資からの撤退を大学側に求める親パレスチナ派デモ隊を排除することだった。しかし、今回の取り締まりはキャンパスの一部を占拠し続けている学生らをさらにたきつけ、エール大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)など、他の一流大学での同様の抗議活動を誘発している。

 

ワーカーズの直のブログ (ameblo.jp)より転載

「麻布米軍ヘリ基地」撤去集会開かれる ヘリ騒音の中80人が気勢

高橋清隆の文書館 (livedoor.jp)

 東京都港区の青山公園で18日、隣接する「麻布米軍ヘリ基地」の撤去を求める集会が開かれ、約80人が都心の基地の危険性と不法性を訴え、「六本木にも米軍基地はいらないぞ!」などとシュプレヒコールを上げた。主催したのは「麻布米軍ヘリ基地撤去実行委員会」(共同代表筆頭・川崎悟)。57年目の集会で、コロナ騒動による活動自粛期間を経て5年ぶりの実地開催となった。
 

写真①

六本木に向けデモ行進する参加者(2024.4.18筆者撮影)

首都中心の米軍の不法占拠に抗議続ける

 同施設は「赤坂プレスセンター」と公称されているが、主催団体はその実態的機能から「麻布米軍ヘリ基地」と呼ぶ。敷地内には約1万平方キロメートルのヘリポートや米軍準機関誌『星条旗新聞』極東支社、宿舎、第500軍事情報旅団はじめ陸海空3軍の諜報(ちょうほう)機関が置かれている。日米合同委員会に出席する米軍高官将校や米国諜報機関員などは横田・厚木・横須賀の各基地からヘリでここに降り立ち、送迎車に乗り換えてニューサンノー米軍センターや米大使館、外務省などに向かう。
 

写真②

 六本木ヒルズから麻布米軍ヘリ基地を望む(小冊子『六本木に米軍基地はいらない』裏表紙より)

 もともと旧日本陸軍第1師団歩兵第3連隊(麻布第3連隊)があった場所で、敗戦後連合軍が接収し、「ハーディ・バラックス」と名付けた。サンフランシスコ講和条約締結後の1957年、日米首脳会談で「ハーディ・バラックス」を含む都内の旧軍用施設は全面返還されることで合意している。

 「麻布米軍ヘリ基地」撤去を求める運動が始まったのは1967年。当時隣接していた東京大学の生産技術研究所と物性研究所の職員組合が、春闘の要求項目の一つに同基地の撤去を掲げた。4月18日はその記念日に当たる。同年7月には港区議会に請願し、全会一致で「米軍ヘリポート撤去に関する意見書」が採択されている。

 70年には東京都議会でも基地撤去の請願が全会一致で採択された。港区は毎年、防衛省や米国大使館、東京都に基地撤去の要望を繰り返している。「麻布米軍ヘリ基地撤去実行委員会」は1996年に発足。港区に住民へのアンケートと騒音調査を実施させている。
 

写真③

「六本木トンネル」の真上は米軍ヘリポート(2024.4.18筆者撮影)

 1983年の都道環状3号線の「六本木トンネル」建設に際し、米軍は青山公園の一部を盛り土して「臨時ヘリポート」を造った。東京都・東京防衛施設局(当時)・在日米陸軍司令部の3者協定で完成後は返還される約束だったが、米軍はこれを占拠し続ける。同委員会は「臨時ヘリポート」の返還を求め、東京都への監査請求と裁判の提起も行っている。


違法な低空飛行、米軍守る日本の行政と警察

 集会は冷たい雨が降る中、トランペットの演奏で始まった。童謡『さくら さくら』など花のメドレーが一帯に響き渡る。川崎悟共同代表が「基地撤去の運動が始まってから今日で満57年。八重桜が満開の下、集会が開けることを喜び合いたい」とあいさつした。
 

写真④

あいさつする川崎悟共同代表筆頭(2024.4.18筆者撮影)

 「国連憲章により戦争が違法であり、武力行使と武力による威嚇を禁止する流れが進んだ」と概観し、ロシアによるウクライナ侵攻とイスラエルによるパレスチナへの攻撃を非難。「日本がなすべきは、両国に即時撤退と即時停戦を求めること。日本政府には、憲法9条を生かした平和外交を展開してもらいたい」と訴えた。

 その上で、昨年11月の鹿児島県・屋久島沖での米軍輸送機オスプレイ墜落事故に言及。「米軍は原因が特定されないまま、3月に飛行停止措置を解除した。日本側もこれを追認し、自衛隊オスプレイが飛行を再開している。米軍と日本政府に抗議する」と表明した。

 首都圏で米軍ヘリが低空飛行している問題について、「総理は国会で『ルールに基づいて飛行するのは当然だ。事実関係に基づいて防衛省などにしっかり対応させる』と答弁してから3年がたつ。しかし、依然として東京では低空飛行が続けられている」と告発した。

 在日米軍は1999年1月の日米合同委員会で、低空飛行訓練に関して「日本の航空法が定める最低安全高度を用いることで合意した」として、その内容を公表している。わが国の航空法令は、最も高い障害物の上端から300メートル以下での飛行を禁じている。ところが、100メートル台の低空飛行が何度も目撃されている。

 川崎氏は「米軍側に合意をきちんと守らせるのは当然のこと。その姿勢もなく米軍の勝手な運用に任せるとしたら、日本政府にも責任の半分はあると言わざるを得ない。対等な日米関係をつくっていく上で、米軍の特権を許しているのは、日本政府のスタンスが全くだらしないから」と糾弾した。

 共同代表の板倉博氏は、この1年間に実行委員会4人で東京都や防衛省、外務省を回って同ヘリ基地の撤去や当面の安全策・騒音対策を要請したことや、同基地の「フィールドワーク」(現地調査)を8回実施し、計百数十人が参加したことなどを報告。「米軍ヘリウォッチング」を呼び掛けた。
 

写真⑤

演説する板倉博共同代表(2024.4.18筆者撮影)

 「米軍ヘリウォッチング」は、米軍ヘリの飛行状況をリアルタイムで報告し合い、情報共有する活動。これを踏まえ、「ヘリが飛んで来るのは木曜日が多い。時間帯としては、12~13時台と15~16時台が多い。日米合同委員会への送迎のためではないか」と指摘した。
 

写真⑥

チラシ「米軍ヘリウォッチング2年半の記録から2024/4/18」より

 板倉氏は同ヘリ基地が他の米軍基地と比べ小さく、暴行事件など直接の被害も少ないとした上で、「しかし、東京のど真ん中で撤去運動をやる意義は大きく、日米関係の本質が見えてくる。占領状態が続いていることが分かる」と吐露。

 1951年のサンフランシスコ条約締結後も、米軍と日本政府の協議機関として日米合同委員会が残され、政治勢力としても自民党が創られて占領状態が継続していると指摘。「この基地撤去運動を、世論を変える運動につなげたい」と展望した。

 東京都議や市民連合のメンバーなどから連帯のあいさつが続く中、米軍ヘリがけたたましいごう音を上げ、飛来する。この日も木曜。演説の声もかき消された。何人かが坂を駆け登り、基地をのぞこうとすると、フェンスの前に日本の警察官が5人ほど待機している。米軍基地をわれわれの抗議から守るためにそこに張り付いているのだ。



 「うるせえんだよ、文句言ってくれよ米軍に。どこの国の警察なんだ?」

 参加者の一人が怒りをぶつけた。

 筆者がフェンスの隙間からカメラのレンズを向ける。と、警官が近付いて来て、注意する。

 「中に、入らないでよ」

 あぜんとした。

 「柵があるのに、どうやって入るんですか?」

 日本の警察は1945年8月30日、厚木飛行場に降り立ったマッカーサー元帥らの沿道警備の任を仰せ付かって以来、日本人から米国を守るために働いているのだ。

 わずか15分の間に、3機もの米軍ヘリが発着した。


返還妨害する「維新」、ニュー山王周辺は「注視地区」で監視

 連帯あいさつの中で、港区議の福島宏子・風見利男の両氏(いずれも共産)が興味深い事実を明かした。福島氏は、港区長、同議長、副議長とともに毎年東京都と防衛省に同ヘリ基地撤去の要請行動に取り組んでいることを報告。しかし、これに対し、会派「港区維新・無所属」が「賛成できない、やめるべき」と妨害の声を上げ始めているという。
 

写真⑦

状況報告する(左から)風見・福島の両区議(2024.4.18筆者撮影)

 風見氏は、港区南麻布のニューサンノー米軍センターの周辺1キロの範囲が土地利用規制法(重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律。内閣府は「重要土地等調査法」と呼ぶ)に基づく「注視地区」に指定され、区民の日常生活が監視下に置かれる問題に触れた。4月12日に指定され、5月15日から施行される。

 同法は安全保障上重要な施設や国境離島の機能を阻害する土地・建物の利用を防止する名目で重要施設周辺や国境離島などを「注視区域」「特別注視区域」に指定することができると定めたもので、2022年9月に施行された。国は区域内の土地などの利用状況などの調査を行い、阻害行為が認められた場合は利用者に対し、行為の中止などを勧告・命令できる。命令に違反した場合は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される。

 風見氏は、「住所や氏名、年齢、職業、その土地を持っているのか借家か、米軍基地反対の活動をしていないかなどが調査され、国に報告される。日米合同委員会が行われるニューサンノー米軍センターが極めて重要な施設である証明だ。麻布ヘリ基地と合わせ、この2つを撤去しろという声をさらに強める必要がある」と訴え、「そうだ」の掛け声と大きな拍手を浴びた。

 「4・18麻布米軍ヘリ基地撤去集会決議」が採択された。決議文は占領状態を73年も続けている米軍と、この状況を許している日本政府を非難するとともに、4月10日の日米首脳会談で「安保3文書」による大軍拡予算や敵基地攻撃能力の強化を得意げに米国に報告した岸田首相の姿勢を「日本の国土を戦争に巻き込む非常に危険な路線」と批判。「日本の主権者は、私たち国民です。アメリカではありません」「日本中から米軍基地をなくすまでたたかい続けます」とつづる。

 最後の自由マイクに、ニューサンノー米軍センター前で3回抗議集会を開いた「#みちばた」の「YouTuber.JT3Reload」こと川口智也氏が登壇。「右も左も関係ない。日米合同委員会を廃止しない限り、日本は永遠に植民地です」などと、5月23日午前の大規模集会への参加を呼び掛けた。
 

写真⑧

「ニュー山王デモ」を告知する川口氏(2024.4.18筆者撮影)

 約70人の参加者は雨の中、「六本木にも米軍基地はいらないぞ!」「米軍は約束通り、青山公園を返せ」などとシュプレヒコールを上げながら、東京ミッドタウン前や六本木の街頭をデモ行進した。
 

写真⑨

集会を前に、物々しい警備体制が(2024.4.18筆者撮影)
 

写真⑪

満開の八重桜(2024.4.18筆者撮影)
 

写真⑩

雨の中、集まった市民(2024.4.18筆者撮影)
 

写真⑫

「赤坂プレスセンター」と銘打つ正門(2024.4.18筆者撮影)

日米安保条約に一言も触れない日本共産党の「平和提言」

 - アリの一言  (goo.ne.jp)

  

 

 日本共産党はここまで堕ちたのか―そう痛感させるのが、同党が17日、志位和夫議長の講演という形で発表した「東アジアの平和構築への提言-ASEANと協力して」(以下「提言」)です。

 

 「提言」は「しんぶん赤旗」で全段2ページ半におよぶ長文。「3つの提言」として東アジア、北東アジア、ガザ・ウクライナの「平和構築」について述べています。

 

 東アジアについては、ASEAN10カ国に日本、中国、アメリカ、ロシアなど8カ国を加えた東アジアサミットで「ASEANインド太平洋構想」を実現するために、「話し合い」を行うことを柱としています。その実現性はともかく、「平和構想」を示すこと自体は意味のあることです。

 

 しかし、その内容にはけっして見過ごすことができない重大な問題があります。

 

 第1に、「ウクライナ戦争」についてです。

 

 「提言」は「責任が…無法な侵略を続けるロシアにあることはいうまでもありません」として「ロシア軍の即時・全面撤退」を求めています。そして欧州安全保障協力機構(OSCE)の再活性化を主張しています。この限りではおおむね異論はありません。

 

 ところが「提言」は、当然言及(問題視)すべきことがいくつもスルーされています。

 

 第1に、今回の事態と密接に関係している、アメリカが深く関与した「マイダンクーデター(革命)」(2014年)。第2に、NATO(北大西洋条約機構)の東方進出とウクライナへの関与。そして第3に、アメリカを中心とするNATO諸国のウクライナへの軍事支援です。

 

 これらの問題を不問にしては、ウクライナ情勢を正確に認識することも、停戦・和平への動きをつくることもできません。

 

 第2の問題は、これが「提言」の決定的な欠陥であり最大の特徴ですが、日米安保条約(軍事同盟)について一言も触れていないことです。「提言」は前述のようにかなりの分量ですが、「日米安保条約」の言葉は文字通り一つもありません。

 

 これはきわめて奇異なことです。東アジア、北東アジアの「平和構築」を主張し、そのための「国民的・市民的運動を呼びかける」としながら、日米軍事同盟に全く言及しないことなどあり得ません。まして、先の日米首脳会談、日米比首脳会談(フィリピンはもちろんASEANのメンバー)で、日米両政府が「安保条約体制がかつてなく強まった」と誇示したばかりです。

 

 共産党は公式には「日米安保条約廃棄」の政策を下ろしていないはずです。にもかかわらず、「廃棄」どころかその危険性にすら言及しないのはいったいどういうことでしょうか。同党の本音(実態)はすでに「日米安保条約廃棄」の棚上げであると考えざるをえません。

 

 日米安保条約に一言も触れないことと表裏一体なのが、アメリカ批判の乏しさです。

 「提言」にはアメリカの覇権主義・アジア戦略批判がほとんどありません。唯一あるとすれば、「米韓が大規模軍事演習を続けていることが、軍事的緊張の悪循環を加速させている」というくらいです。

 

 日本共産党がこうした実態に至っていることは、たんに同党の質的凋落(かつて共産党が社会党などを批判する時に使った用語でいえば「右転落」)を示すのみならず、日本の政党で違憲の自衛隊解散、日米安保条約廃棄を主張する政党が1つもなくなったことを意味します。

 それは日本にとっても世界にとっても、たいへん不幸なことです。

阿部 治正

 

「共同テーブル・ちば」の街頭活動用のビラです。趣旨にご賛同下さるみなさん、どうぞ皆さんがお住まいの地域でもご活用ください。また、ぜひ「共同テーブル・ちば」に参加され、ともに活動して下さい。「共同テーブル・ちば」は新社会党千葉県本部、社会民主党千葉県連合が構成団体で、他に憲法を語る会やアイ女性会議や市民ネットワーク千葉県などの皆さんと一緒に活動をしています。