今まで読んだ企業本の中でも異色、それでいて惹き込まれる。
本著はナイキ創業者のフィル・ナイト氏がナイキ創業前から上場後までを振り返った、いわゆる企業本である。
僕は企業本は好物だ。企業の強みは何か?どういう歴史を辿って来た?どんな困難と立ち向かい、乗り越えていった?そこにはドラマがあるし、教訓もある。
ただ世間一般の企業本は漂白され脚色され、きれいなところをスマートに見せているものだろう。だからこそSHOE DOGが強烈に印象に残った。馬鹿げたことをやろうという言葉そのままに滅茶苦茶なムーヴをかます。相応に絶体絶命の窮地に陥る。そして泥臭く何とか乗り越えていくのだ。
世界一周するぞ!→ハワイ良すぎ!就職するわ
滅茶苦茶なムーヴをとはどういうものか?物語の冒頭で世界一周旅行を計画し、最初の地ハワイの居心地の良さに現地就職してサーフィン三昧の日々を送ったり、オニツカタイガーとの契約のために存在しない営業拠点を騙ったり、がそれにあたる。僕は読みながら、そのハチャメチャさに吹いてしまった。(後者は当事者にとっては笑い話では済まないが...)
そうした起伏のある物語を動かしていくナイト氏は、怒ったり落ち込んだり、そして腹をくくったりと心情描写が豊かで人間味が溢れているのだ。異国や他人への知識、観察眼、そしてリスペクトが感じられる描写もあり、ユーモアを忘れない。気が付けば惹き込まれ、応援したくなりファンになってしまう。
敵・味方として存在感を放つ日本企業たち
また時代柄、日本企業の出番が多いのも目を引いた。創業時のビジネスパートナーであり、やがて敵対関係になるオニツカタイガー。窮地に手を差し伸べた日商岩井。このころの日本は勢いがあり、現代の社会人として生きる身からすると誇らしさと不甲斐なさで情緒が破壊されそうになった。
現金は大切
ビジネスへの知見という視点だと、とにかく現金の大切さが身に染みた。ビジネスは順調に拡大していても手元の金が無いために度々窮地に、いわゆる黒字倒産になりかけるのだ。財務諸表を読むときにキャッシュフローに目を向ける大切さが、リアルに感じられた。
まとめ、君は天職に出会っているか?
総じていうと企業本というよりも自伝小説というべき内容で、1人の山谷にあふれた人生を追体験できる面白い本だった。終始ワクワクさせられる内容だったが、上場が終わり今へと舞台が急速に進む終盤...人生についての投げかけが多くなされているように感じた。
僕は天職に出会っているか?熱くなれるものがあるのか?やりたいことを出来ているか?...家族との時間を持てているか?多くの自問が僕の頭に渦巻いている。
面白いだけでなく、人生を深く考えさせられる。本当に、今年一番の本だった。