井上道義 新日本フィル 武満・モーツァルト・ドビュッシー・ストラヴィンスキー | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(11月29日・サントリーホール)

武満徹:弦楽のためのレクイエム(井上道義・尾高忠明/2021年版)

12型の弦、対向配置。井上道義・尾高忠明(2021年版)とオリジナル版の違いがわからなかった。弦の音はやわらかく美しい。

 

モーツァルト:交響曲第39番 変ホ長調 K.543

オーケストラは10型、対向配置。武満徹とモーツァルトでは井上は指揮台を使わなかった。序奏は速めのテンポで始まる。きれいな響きで切れが良く、ヴィブラートも控え目。ただ何か訴えるものがない。

 

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

首席野津雄太のフルートを含め、オーケストラの響きはきれいだが、色彩感はあまり感じられない。水墨画のようなドビュッシー。

 

ストラヴィンスキー:バレエ音楽『ペトルーシュカ』(1947年版)
対向配置のまま、14型に増強。この演奏は面白かった。井上道義はストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」(1947年版)で舞踏家さながらの指揮で大奮闘し、新型コロナウィルスに感染したデュトワの代役をみごとに果たした。

 

当初ピアノとオーケストラの小協奏曲として考えられた作品であり、ピアノが活躍する場面も多いが、日本音楽コンクール第1位の亀井聖矢(まさや)が色彩感のある音で演奏に貢献し、存在感を示した。

 

第2場ペトルーシュカの叫び声の動機の2本のクラリネットの突き刺すような音も勢いがある。ペトルーシュカの悲しみを表すイングリッシュ・ホルンのソロも深い。

踊り子の踊りのトランペットとハープのワルツも、井上の得意とするリズムと表情がうまい。ペトルーシュカとムーア人の争いの場面も迫力があった。

 

第4場の「熊を連れた農夫」では、井上が熊のジェスチャーを交えて指揮する。「格闘」でのトランペットのソロが素晴らしい。吹いていたのは元首席の服部孝也。「ペトルーシュカの亡霊」のソロも輝かしいものがあった。

 

最後の「ペトルーシュカの亡霊」では人形の動きが止まる仕草で、井上は指揮を終えた。

 

バレエを踊るような表情豊かな井上の指揮に、新日本フィルもよく応えていた。デュトワの来日に備え、新日本フィルも楽員も準備怠りなく備えていたのだろう。井上ももちろん良かったが、やはりデュトワの指揮で聴きたかった。


カーテンコールでは井上が亀井をステージ前に招き、素晴らしい演奏を讃えた。

 

今回の《ペトルーシュカ》は3管編成の1947年版を採用したが、バレエバージョンであり、「ペトルーシュカの亡霊」まで演奏された。今年4月のラザレフ日本フィルは、「仮装した人々」の最高潮の盛り上がりから「格闘」に入るところで華やかに終わる演奏会用バージョンを使っていた。

47年版には、さらにパフォーマンス用フィナーレも用意されており、華やかに終わることもできるが、そちらの演奏はまだ実演では聴く機会がない。

今回のコンサートは12/3(金)から期間限定アーカイブ配信がある。🎫1,500円

https://www.njp.or.jp/news/25917?utm_source=twitter...



追記:トランペット・ソロは元新日本フィル首席、服部孝也でした。
また「1990年第7回日本管弦打楽器ソロコンテストクリスタルミューズ賞(最高位)受賞の片野和泉。」は削除いたしましたが、
経歴は正しくは「2010年中学生と高校生のための第7回日本管弦打楽器コンテスト金賞クリスタルミューズ賞受賞」でした。
コルネットはトランペットの誤りでした。

以上訂正のご報告まで。


写真:©K.Miura、新日本フィル