(1月26日19時・新国立劇場オペラパレス)
当初出演予定だった指揮者ジェームズ・コンロン、ゼンタのマルティーナ・ヴェルシェンバッハ、オランダ人のエギリス・シリンス、エリックのラディスラフ・エルグルという主要メンバーがオミクロン株の水際対策で来日できなくなり、全て代役でしのぐという急場の公演にもかかわらず、よくぞここまでまとめあげたものだと、出演者、関係者に心から賛辞と感謝を送りたい。
立役者はまず、ゼンタの田崎尚美と指揮のガエタノ・デスピノーサ。
そして新国立劇場合唱団。
田崎は入魂の歌唱で、このオペラ全体を物語る第2幕第1場「ゼンタのバラード」を歌う。跳躍する音程の力強さが圧倒的だが、ヒステリックに叫ぶのではなく、歌としての形を保ち、ワーグナーにふさわしい。
最後の一節
「私は揺るぎない忠誠心であなたを救います。
天使が私を連れてきてくれますように!
私こそがあなたを救うのです!」は圧倒的で、この日の頂点。
田崎がこのバラードを歌ったことで、オペラ全体が引き締まり、その後の流れと勢いを決定づけたと言っても過言ではない。
田崎は自己のベストを尽くした歌唱が出来た感激からか、カーテンコールで泣いているように見えた。
デスピノーサはオペラ指揮者としての実力を知らしめた。序曲こそ少しイタリアオペラ的でワーグナーとしては軽いのではという印象があったが、劇が進行するに従い、歌手とオーケストラのバランスの良さ、歌手や合唱への指示の細やかさ、ポイントをはずさないオーケストラの強奏などすべてに納得できた。
最後の「救済の動機」も金管をしっかりと鳴らし切り、充実のフィナーレを創り出した。
新国立劇場合唱団は言うことなし。特に男声の力強い「水夫の合唱」は今や同合唱団の看板と言ってもよいのでは。
東京交響楽団もデスピノーサの指揮との相性が良く、ホルンに少し疵があったものの金管は安定、定評ある木管は良く歌い、弦も美しい。
オランダ人の河野鉄平は少し線が細いが、ここぞという時は力唱した。平幹二郎を思わせるルックス、ナイーブな表情にオランダ人の傷ついた心が良く表れており共感できた。
ダーラントの妻屋秀和はいつもながら安定しており存在感が大きい。
エリックの城宏憲は大健闘。ゼンタを翻意させようとする必死さが良く出ていた。
マリーの山下牧子、舵手の鈴木准も好演。
7年前観たときに、
「第3幕第1場で、幽霊船の船員たちが水夫たちと対抗して歌う合唱が効果音とともに録音で流れたのは人工的で失望した。できれば生の合唱でふたつのグループを競わせてほしかった。」と書いたが、
今回はPAのバランスが改善されており、前回ほどの違和感はなかった。
そのときのブログ↓
https://ameblo.jp/baybay22/entry-11984776061.html
******************************************************
ワーグナー《さまよえるオランダ人》
Der fliegende Holländer/Richard Wagner
全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
予定上演時間:
約2時間50分(第Ⅰ幕55分 休憩25分 第Ⅱ・Ⅲ幕90分)
【指 揮】ガエタノ・デスピノーサ
【演 出】マティアス・フォン・シュテークマン
【美 術】堀尾幸男
【衣 裳】ひびのこづえ
【照 明】磯野 睦
【再演演出】澤田康子
【舞台監督】村田健輔
キャスト
【ダーラント】妻屋秀和
【ゼンタ】田崎尚美
【エリック】城 宏憲
【マリー】山下牧子
【舵手】鈴木 准
【オランダ人】河野鉄平
【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団
©新国立劇場 写真:寺司正彦(舞台稽古より)