コロナ禍の日本で卵巣がんと診断されたAさんの話しのつづきです。
外国人。日本語ゼロ。一人暮らし。
もちろん自国には帰れていない。
新緑の公園でピクニック。Aさんが友人の集まりに参加するのは1年以上ぶりだったそうだ。
初対面のわたしと病気の話し。
A:ちょっと横になるわ。すぐ疲れるの。
蘭:わたしもそうだった。こまめに休むしかないよ。
抗がん剤治療、カツラ、食事、散歩など、他愛のない話しが延々と続いた。
蘭:何かしてる? 仕事は?
A: 医者から仕事は無理だから辞めろと言われたの。でも、仕事の話しをするわたしの目が輝いてたんだって。それで続けられるように治療を調整してくれたの。
蘭:よかったね。
近くにいたAさんの友人Bさんが、わたしに声をかけた。日本に長く住む外国人だ。
B:あなたも「がん」したの?
蘭:そう。
B: どこの「がん」?
蘭:乳がん。でも日本じゃなくてスイスで。
B:最近は乳がんと胃がんは大したことないって知ってるわ。
蘭:(返す言葉がない)
A:(凝視)
B:いや、ただ…
A:自分が罹ってから言ってみなさい
B:身体の部位によって…
A:「がん」になってから同じことが言えるなら言ってみるといいわ
B: いや、ただ…
何を言っても無駄な雰囲気だった。Aさんの憤りに皆びっくり。
<静寂>
スイスで治療中、人に会うのはとても楽しみだった。何よりも刺激的だった。
でも、ふとした会話で傷つくことがあった。相手に悪気がないことはわかっていても辛かった。
何を言われるか怖くて、あまり親しくない人には会わないようにした。
Bさんが私にかけた言葉にカチンときたAさん。バシッと自分の怒りをぶつけた。Aさんのすがすがしい顔が印象的。
Aさん、よく言った! 心の中で拍手したよ。