出会いがすべて


訪問診療で初めて患者さんやご家族と対面する時には、いつも緊張します。
今日は、初診のコミュニケーションがうまくゆかなかったお話です。

初診時の様子

『認知症』を発症して10年位の母と、介護者の娘さんの二人家族のところに、初めて訪問診療に伺いました。これまで『認知症』の周辺症状が活発で大変だったことを伺いながら、「大変でしたね」と労いながら話を進めました。最近になって食事量が減ってきて、ほとんど反応は無く寝たきりとなっていました。『認知症』の末期で、いよいよ看取り段階に入ったと判断しました。

訪問診療の開始時に、患者が「看取り」の状態であることを、本人や家族が認識していないことは良くあります。残された時間が短いこと、死が迫っていることを認識して貰って、「楽なように」「やりたいように」「後悔しないように」最期を迎えらえるように心を配ります。
従って、出来るだけ早い時期に、余命が短いことを伝えています。

この方の場合も、食事が取れなくなってきていることを確認して、「最期の時間が迫っています。食べられないのであれば、あまり無理に食べさせなくてもいいでしょう」と伝えて帰りました。

また、娘さんの介護負担軽減のため訪問診療に加えて訪問看護も導入することにしました。

娘さんの反応

訪問看護が入った時のことです。
娘さんが「この前、先生に『もう食べられない』と言われたことがショックでした。まだ、あきらめたわけではありません。食べられるようにさせて、あの先生を見返してやります。」と発言されたと聞きました。

これまでの経過をじっくり聞いた上で、今後の見通しを話したつもりだっただけに、とても残念な気持ちになりました。コミュニケーションは難しいと改めて感じました。

結局その後、数週間で亡くなりました。私は主治医ではなかったため、その後は娘さんと直接会うことはありませんでしたが、どのようなお気持ちでお母さんの最期を看取ったのか、とても気になりました。

コミュニケーションの重要性

在宅医の仕事は、ほとんど話をすることです。もちろん触診、聴診など身体診察や血液検査などごく限られた検査は行いますが、圧倒的に問診を含めた「話」になります。
従って、コミュニケーション能力は非常に大切です。
相手との良好な関係となる「ラポール」を形成する為のスキルとして、相手の言葉を繰り返す「オウム返し」、適度にアイコンタクトをとった「相づち」、ある程度話したところでまとめる「バックトラッキング」などがあります。
しかし、こうすれば必ず上手くゆくというものでもありません。
相手を「尊重する気持ち」が大切であると思います。

時間との勝負

末期がん患者や高齢者が、看取り段階になって訪問診療が開始されるときには、残された時間が限られています。
ゆっくり関係を構築することが困難で、今後の見通しや最期を「どこでどのように過ごしたいか」など、短い時間で患者や家族と思いを共有する必要があります。

時間の制約がある中、短期間で相手の信頼を勝ち得るコミュニケーションをとる事は、とても難しいと感じています。

初診時は毎回「一期一会の気持ち」で臨んでいます

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