「ロシアなき世界経済」に向かう中で、「岸り人」から「億り人」へ 第3回コラム(元衆議院議員 個人投資家 元財務官僚 石﨑徹)
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https://www.niikei.jp/op-ed/351845/


〇「ロシアなき世界経済」に向かう中で、「岸り人」から「億り人」へ
本来であれば、ロシアの悪を政治的に一刻も早く食い止めたいところだが、国際政治の枠組み、憲法上の制約など論点が多岐に渡るため、このコラムの趣旨とは異なるから触れない。本日は「ロシアなき世界経済」に向かう中で「岸り人」から「億り人」になるための 投資戦略方法について記してみたい。「市場も民主主義も間違う」という世界観での投資戦略についても触れる。

なお、「岸り人」についてのコラムは第1回コラム、第2回コラムで詳述したのでご参考までにご覧ください。
・第1回コラム 「億り人」ならぬ「岸り人」が急増。歴代3位の月間下落率「岸田ショック」の爪痕
https://www.niikei.jp/op-ed/321737/

・第2回コラム 「岸り人」はウクライナ侵略で生き残れるか?~「銃声が止まる前に売れ」~
https://www.niikei.jp/op-ed/345105/

〇前回コラムで予想した通り、2000円以上も日経平均が下落。
前回のコラムで予想したとおり、全世界の株式市場は下落をし続けている。本日8日の日経株価も前日比430円安の24790円。株は銃声が止む前に売れと指摘した第2回コラム時は26900円台であったから、2000円以上も日経平均が下落している。

特に、ロシアへの経済制裁で供給制約が出てくる資源・素材関連の企業はコスト増で株価が下落している。例えば、タイヤメーカーのブリヂストンなど。その他ハイテク銘柄も含めて今後の世界経済の不透明感から下落が続いている。

筆者は、むしろ逆手に取り、資源関連銘柄に投資を集中してきた。例えば商社株と石油関連株。総合商社は農業関連投資も行っているため、今後のウクライナ侵略による小麦や飼料価格にも強い銘柄への投資は2月から利益を出してきた。これらの銘柄は年初来高値どころか昨年来高値を付けるものもある。

〇最大の被制裁国ロシアとの貿易
報道によれば、ロシアへの経済制裁はウクライナ侵略だけで約3000項目に迫るらしい。世界最多の被制裁国となった。なお、世界4位は2000超の北朝鮮とのこと。

私の地元の新潟市には、新潟東港という日本海側有数の国際港湾があるが、ロシア貿易がもともと盛んである。ロシアからは、LNGや木材・パルプ、木製品などを輸入し、新潟港からの輸出は機械や輸送用機械が8割を占め、そのうち半分が中古車や自動車部品。私もウラジオストクに訪問したことがあるが、市内には日本語の企業名が書かれた中古車や清掃車などが走っていた。
ロシア国内の自動車メーカーの質は悪すぎるようで、こうした中古車輸入が途絶えるとロシア市民にとっては大きなダメージとなるだろう。
今後はこうした貿易が途絶えることを前提に投資戦略を考えなければならない。

〇投票率10%の衝撃
ちなみに、私が訪問した際にはウラジオストクで市議会議員選挙が行われていたが、投票率はなんと10%台。日本以上に「政治不信」が強く、当局の監視のもとでの選挙なため「誰がやっても同じ」ということで諦めがあるとのことだった。
長らく共産主義社会の続いたロシアでソ連崩壊で投票率が日本以上に低いということは、当局だけの問題ではないような印象を持った。今回もウクライナ侵略に身をもって反対する市民はごく一部に過ぎない。圧倒的大多数の国民はどうすることも出来ない、何もしないという消極的なスタンスである。私のウクライナ侵略への悲観論はこの視察の経験にも基づいている。

〇「市場は正しい」のか?
ところで、投資家の世界には「市場は正しい」というスタンスと、「市場は間違う」というスタンスがある。

前者は、ランダムウォーク論などの長期積み立て分散投資家のスタンス。
後者は、著名投資家のジョージソロス、ウォーレンバフェットが取る市場観である。

私も「市場は間違う」というスタンスを取る。「市場は間違う」からこそ通常の長期分散積み立て投資では得られない利益を出せる投資家が出てくるのだと思う。そして、これは市場のみならず民主主義にも言えることではないかと官僚・政治家経験から考える。この点については後日改めて記したい。

さて、長期的には「市場は正しかった」と歴史的な後付けの評価になるだろうが、短期中期的には「市場は誤りながら、正しい方向へ徐々に向かう」。これが最近ではAI取引でその調整が急激に行われる。

〇「ロシアなき世界経済」を前提にした投資戦略
今回のロシアの悪に対して、今市場では市場の落ち着く先に向け、調整が進んでいる。すなわち、「ロシアなき世界経済」に向け調整が進んでいるのである。

FX会社の配信情報だが、例えばロシア産の天然資源の世界全体におけるシェアは、天然ガスは約17%、原油が12%前後、一般炭は18%、原料炭は11%程度あるとのこと。希少資源とされるパラジウムが40%強、ニッケル約9%、ロジウムは10%前後、プラチナが約14%もの世界シェアを持つとのことである。

こうした「ロシア産資源」からの逃避が企業・市場で極めて急速に進んでいる。「ロシア産資源なき世界経済」に向け、ロシア以外の国・地域の同類の資源に向けて投資資金が向かうということである。そして、それらは直ぐに安定供給が出来るわけではないため、それらの資源を用いて活動する企業の収益は暫く期待出来なくなる、ということである。

従って、今後の短期・中期的な投資戦略・戦術とすれば、上述のとおりロシア以外にも資源権益を持ち、他の権益にも触手を伸ばすことが可能な商社・資源・金属・木材関連株が「買い」。自動車や機械メーカーなど「ロシアありの企業経営」を続けてきた企業の株式は「売り」というファンダメンタル戦略となる。
(なお、前回のコラムでも触れたが、長期的には世界経済は多くの下振れ要因があるため、買いの株も長期的には下落基調になると見る。株を長期で読むのは難しいが次回コラムでこの辺を記したい。)

〇「民主主義の誤り」を正すロシア国民の底力が市場を逆回転させる
しかし、こうした投資戦略を逆回転すべき時は、ロシア国民から民主主義の正しさを示す動きが出てくる時である。すなわち、「ロシアなき世界経済」で困るのはロシア国民である。ロシア国民が低投票率を覆し民主的にプーチンを打倒するか、あるいは選挙まで待てずに実力を行使してプーチンを打倒するか。こうして「プーチンなきロシア」を実現することで、「ロシアありの世界経済」に戻る力をロシア国民が見せ始めたら、投資戦略は上記と逆のスタンスとなる。

その場合は、AIよりも早く動けるか。AIもこうした「民主主義の正しさ」をどれほど早く読み込むことが出来るか。我々は「岸り人」から「億り人」に向け、国の力を借りずに「市場の誤り」と「民主主義の誤り」が正しい方向へ向かう波にうまく乗れるか。逆説的だが波に乗るときの勇気は「市場と民主主義への期待」から生まれてくる。

石﨑徹 元衆議院議員 個人投資家 元財務官僚