Patti Smith「無垢の予兆」
先日書いた[やりたいことリスト]で「詩を読む習慣をつける」を目標のひとつにしていたので、
2025年2月の月間チャレンジは
図書館で借りたパティスミスの詩集を毎日読むことにしました。
Patti Smithって誰やねん?という人に向けて一言で書くと、
ニューヨークで大成功した「パンクの女王」。
もともと詩人からミュージシャンになった人なので、
歌詞の語彙力や言葉の組み合わせも、他のアーティストにはない
独特の強さがあるのが特徴。
ちなみにこの本のタイトル『無垢の予兆(Auguries of Innocence)』は
ウィリアム・ブレイクの詩集「ピカリング草稿」の中から取られた題。
冒頭に引用されていたりもします。
(この有名な詩をまず読んだけど、全体的に力強くてすごかった)
ひばりは羽を傷め ケルビムは歌うのをやめる
U2とよくコラボしていたPatti Smith、
根柢にはウィリアム・ブレイクの「無垢」というキーワードがあったんだなぁと。
この本を借りたときは、
てっきり「その時点のキャリアの歌詞をまとめた一冊」かと思ってたのですが、
そうではなく、完全にパティスミスが書いた「詩」を綴じた本とのこと。
ちょうどポエムが28個収録されていて、
「そうだ、2月は28日までやん」と気づく。
・・・ということで、今月は毎日パティースミスに触れていきます。
英語原文で読まないと理解できない部分はたくさんあるだろうけれど、
巻末に訳者の解説もあるので、それもあわせて楽しんで行こうかなと。
詩集をもってる人だけにしか伝わらないかもだけど、
あくまで自分のために、思ったことなどを記録していきます。
ラブクラフター
記念すべき一編目。
せっかくなので、ゆっくり声に出して読んでみたり。
生霊となって嘆くあなたが見えた
古代の者たちの炎をかき立てよ
文字を書く果汁のための
梨やサンザシの小枝でかき傷を作りながら
一つひとつの言葉選びに、全く気を抜いてない感じがすごい。
ちなみに解説を参考にすると、
開拓期のアメリカにりんごの種をまいて歩いたと伝えられる、
十八世紀生まれの偉人、ジョニー・アップルシードと、
二十世紀の恐怖・幻想小説のあの大御所、H・P・ラブクラフト、
そして現代の社会運動家であり政治活動家でもあるラルフ・ネイダーへのオマージュ
として書かれたんだそう。
ある日、政治集会に向かう飛行機の上で、眼下に広がるアップルシードのもたらした光景を見ながらこの詩を作ったとのこと。
英語と日本語はリズムや韻が全然違うはずなのに、不思議と心地よく読める。
「翻訳もすごい」と初めの一編から伝わってくる質の高さ。
我々のためにほふられた貴重な子羊
彼女の悲鳴を聞きながら、その細長いのどを
つかんで持ち上げ、汗でぬめる太い両腕に抱えた。
そして彼、自制心のある男、肩幅が広く
ブレイクのような目をした男は、誰がおまえを育て、誰が
おまえを牧草と花々の中で世話したことかと嘆きながら、引き裂いた
口蹄疫の影響で飼っていた羊を全頭殺処分しなければならなかった、
イギリスの農夫の様子をうたった詩。
ありありとリアルに浮かぶ情景・・・。
短い詩なのにこの力強さはどこからでてくるんだろうか?
ドードーの眠り
かなり短めの一編。
太陽が、雲の合間に血を流しながらぶらさがる。
かくも悲しき驚きに満ちた、神の血走った目。
ドードーは目を覚まし、それらを見やり
ふたたびゆっくりと目を閉じる。
十七世紀に絶滅した、モーリシャス島のドードー鳥をしのんで書かれた詩。ドードーは食用には適さなかったので、単に娯楽のために殺され、絶滅に追いやられたらしい。
パティスミスの環境問題への意識はこの頃からあったんだなと。
長き道のり
わりと長めの詩。
弟妹に向けてかかれたもので、道なき道を前向きに進んでいく感がよい。
今やわたしたちには一人の母もなく、極細の糸をより上げるようにしゃべり散らし
悪意なき新しい暴力とともに誓いを吐き
生まれ出るために蓄える――動くことと
星の動きへのわたしたちの忠誠。
すげー表現だ。
ピタゴラス派のトラベラー
世界の美と人間の対比に圧倒される。
美はそれだけで不滅ではない。
それは答えであり、暗号化された言葉であり
音符であり、雲の馬に乗って駆け去る筆先―――
巨大なくじらたちの打撲を負った背のこぶ。
子供時代に見た雲、神の雲が
ばら色に、すみれ色に、金色に浸される。
砂漠のコーラス
なんのために?
降伏の金箔のために?
こんな言葉出んて。
あたなの頭を飾る花輪よ。
あなたの灰を彼にすり込んでやりましょう。
アメリカがリビアを爆撃した直後に書かれた詩。
ある湖のほとりで書かれた
元日。ろうそくの芯がよじれる。
しつこい鏡はウィンクする。彼女のまつげと同じく時間といっしょの片目。
若い恋人に振られた女性を描いた詩だそう。
どうりであんまり自分には響かなかったんだなと。
オラクル
ハンブルクの天使の彫刻をみて書いた詩なんだそう。
少年は姉に能力をたくしてこと切れたってこと?
短すぎて、かつ難解で自分には読み取り切れなかったな...。
セッティング・アンド・ザ・ストーン
タブルミーニングなタイトル。
これも上の詩と同じく難解。
設定がもう少ししっかり書かれていた方が個人的には楽しみやすいかな。
マストを倒して
パティースミスの亡くなった夫を描いた詩。
わたしたちは魔法のきかない呪われた草地に横たわり
動的な空に分解してゆく自分たちをなぞる。
わたしがあなたの腕に触れると肉がくずれ落ち
わたしの両手はもはや空っぽではない。
わたしたちはなおも暗い航海を取り戻そうとしつつ愛し合う
赤い犬の腹を貪りながら。
ブルードール
青い人形を振り回して、実は自分が着ているのは青い洋服だったというやつ。
ホラー的な詩かと思えば、
上に同じく死んだ夫を書いた歌なんだそう。
すべての聖者の夜
夫との死の別れを描いた詩。
「書くことのなかった作家」は、まだまだ書ける詩があったのに、
亡くなってしまったことへの惜しみみたい気持ちが含まれたことばで辛い。
聖者を浮き彫りにしたメダルが草むらに雨のように降り注いだ。小さな物乞いたちは袋をメダルでいっぱいにし、その一枚を彼女に手渡した――聖フェデリコ、書くことのなかった作家、
見捨てられた野の保護者。
(※随時更新する予定です)
1カ月毎日、じっくり詩を読んでいくという試み。
図書館の予約が入ってしまえば残念、なんですが、
その時はそのときということで笑
今後の更新をお楽しみに。
※まさかのパティスミスが『サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス』で来日予定。
東京と京都で展示とライブパフォーマンスをするんだとか。