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三菱一号館美術館で開催中の「印象派・光の系譜」展を観てきました。イスラエル博物館が所蔵する印象派コレクションからの出品で、海や川、肖像画や静物、近代都市の情景を描いた作品などを観ることができました。モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガンなど、なじみのある画家の日本初公開となる作品に触れることができる、またとない機会となりました。
印象派の特徴のひとつとされる「水の反射と光の動き」を巧みに表現した作品の数々から、個性溢れる技法と鮮やかな色彩を十分に堪能してきました。


写真撮影可の展示室で撮った作品から。

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フィンセント・ファン・ゴッホ「プロバンスの収穫期」
広大な農地の黄色が鮮やかです。空の青とのコントラストが眩しいですね。力強い線の一本一本が生き生きとしています。納屋の輪郭も太い線ではっきり描かれていて存在感があります。屋根の色はあまり見たことのない鮮やかな肌色で、陽光の強さが感じられます。


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ポール・セザンヌ「陽光を浴びたエスタックの朝の眺め」
朝の優しい陽を浴びた穏やかな村の様子です。うっすらと靄がかった色彩は、淡いタッチと相まって新鮮な空気の流れを感じさせます。


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フィンセント・ファン・ゴッホ「麦畑とポピー」
真ん中にずっしり力強く伸びた麦の穂の迫力に圧倒されます。葉の緑が幾層にも塗り重ねられていて立体感があります。原画を見ると絵の具が色鮮やかに輝いていて本当に浮き上がって見えました。麦の生命力の大きさが伝わってきます。


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カミーユ・ピサロ「朝、陽光の効果、エラニー」
中央に見える樹々まで真っすぐ焦点が絞られていくような直線的な奥行きが感じられる絵です。早朝の畑仕事を終えた後なのか散歩の途中で一息入れているのか、木を背にして休んでいる女性はどこか物憂げな様子です。


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ギュスターヴ・クールベ「森の流れ」
大きな岩の間を流れる川の水はとても穏やかで澄んでいます。全体的に薄暗い景観のなかで、うっすら差し込む陽の光に照らされて、透き通るように微かに見える川底は幻想的な情感を呼び起こします。


購入したポストカードから。

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ジェーヌ・ブーダン「岸辺のボート」
空の青さを隠すように連なる雲と、それを映し込む水面が瑞々しいです。そこにボートと帆の姿が重なり、単調な川の流れに彩を添えています。


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ウジェーヌ・ブーダン「港に近づくフリゲート艦」
同じくブーダンの作品です。水面の色がグリーンであるところがいいですね。微かな水の動きと光の反射が生き生きとしています。水中にある船体と影の様子が繊細に表現されているところもいいですね。


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アルフレッド・シスレー「サン=マメス、ロワン川のはしけ」
クレヨンか色鉛筆で描いたような空と水面の様子が独特です。左側の川岸が水面に映り込む様子や水底が透けて見える透明感にはうっとりします。


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チャイルド・ハッサム「夏の陽光」
炎天下のなか海岸の岩場で女性が本を読んでいます。きれいなドレスのまま汚れも気にせず岩に直接もたれかかるなんて大胆ですね。もしかしてこれは汚してもいい服だったりして。どんな本を読んでいるのかも気になります。岩が黄ばんでいるところなど、自然らしさが出ていていいですね。


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レッサー・ユリィ「赤い絨毯」
布か紙のようなものを手にした女性がいます。縫っているのかほぐしているのか分かりません。もしかすると獣の皮を剝いでいるのかも。洋服に使う毛皮を取っているのでしょうか。でも絨毯の上で?
横にある窓から差し込む陽の光に照らされて、頭の後ろの黒髪が反射している様子がいいですね。


コロー、シスレー、ブーダンなど、以前から好きな画家の作品も良かったのですが、特に印象に残った画家としてギヨマンとユリィの二人を挙げたいです。もしかすると今までに他の作品を見たことがあるかもしれませんが、今回見た絵には特に強く惹かれるものがありました。

まずアルマン・ギヨマンですが、「川の景色」と「セーヌ川の情景」の2作品が出品されています。水面から水底に至る描き方が素晴らしいです。何層にも塗り込んで、まさに「水の色」としか言いようのない絵画ならではの色彩の妙を感じます。繊細さと荒々しさのどちらも含んだような独特のタッチに新しい感動を覚えました。

レッサー・ユリィのほうは、上に紹介した「赤い絨毯」の他に「風景」「冬のベルリン」「夜のポツダム広場」を見ました。なかでも人が交流する都市の情景を描いた後の2作品は、どこかからストーリーが舞い降りてくる感じがして、映画のワンシーンを見ているような映像的な趣を持っています。
自然から少し距離を置いて都会的な暮らしを楽しむようになった人々の心象が伝わってくるようで、都会のざわめきが心地よく感じられます。どちらの絵も水に濡れた街の姿が背景となっていて、印象派の系譜にありながらも自然の風景を描いた絵とは異なり、技法よりも情感に溢れているところに強く惹かれました。

ミュージアムショップでは「冬のベルリン」はグッズがなく、「夜のポツダム広場」のほうはいくつかあるのですが、なんとポストカードが売り切れていました。残念!


展覧会以外の作品から

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こちらは今回の展覧会に出品されていた絵ではなく、ミュージアムショップでたまたま目にして、とても気に入ったので即決で購入しました。イギリスの画家・絵本作家、エミリー・サットンの作品です。
リゾートホテルにあるラウンジかレストランでしょうか。テーブルがひとつなので、もしかすると高台にある邸宅のテラスかもしれません。至る場所にレモンの木が置かれていて、どれもたわわに実った果実をつけています。新鮮な草花に吸い寄せられた蝶もごきげんのようです。オープンエアーの空間で爽やかなレモンの香りが外に逃げ出して、ほどよい加減でほのかに香っていそうです。食事が進み会話もはずむことでしょう。


今回の展覧会では水面に映る風景がテーマのひとつになっています。水そのものに色はないものの、景観を映し込むことで色彩が千変万化し、地上の景観以上に多彩な表情を見せるのです。水面がもうひとつのカンバスであるかのように同じ絵のなかで展開されています。その微かな揺らぎは官能的でさえあります。水と光が織りなす華麗な饗宴にすっかり酔いしれました。