ショート・ショート『読ませる文章の書き方』

台風だから大人しく
小説始めました

 今週、来週と多忙である。桃畑の話は書けるのだけれど、桃畑にも行けそうもない。とは言え、何でも書きゃ良いってものじゃない。愚痴なら山ほど書けるのだけれど、そう言うのは好みじゃない。だから、仕事の話も記事には書かない。おまけに畑にも出られそうも無くて、今日もサヨリは元気です。

───ガチで記事ネタ拾えねぇ(汗)。

 さて、どうしようかと思っていた折、コメントにショート・ショートのリクがあった。そっか、そっか、その手があったか。と言う事で、しばらくの間、記事ネタが拾えない日は、ショート・ショートで逃げ切ります。

『読ませる文章の書き方』

 全国的に台風である。

 今日の仕事は早じまい。台風13号の影響からか、僕のスマホもやる気が無くて口である。早く家で自由を満喫しよう。今日はゆっくり趣味の小説が書ける。読ませる文章の研究もしたい。台風コロッケ買って帰ろう。

 ウハウハ気分で駅に着くと、ウィンドウズ95発売日ほどの大混雑であった。これが分かるアナタ、そりゃもう、お友達です(笑)。人、人、人……。気持ちが……悪い……。その全員がスマホを見ている光景に吐き気を覚えた。スマホに操られているような人間の姿が悍ましく見えた。

───一体、どうなってるんだ?。

 駅構内に設置された液晶画面に視線を移す。台風の影響で全線不通。台風の通過まであと3時間。その間、地下鉄が再開する見込みがまるでない。僕は台風難民の一人となった。

 こんな人混みで待つのは嫌だ。スタバに入って暇を潰そう。読ませる文章の研究を兼ねて。非日常。こんな日こそ、良きアイディアが浮かぶもの。それは、アナタの同じでしょ?。ピンチだからチャンスなのだ。腰を据えてじっくりやるべ。

───こりゃ無理だ。

 スタバは既に、若者たちに占拠されていた。全員がイヤホンを耳に刺し、食い入るようにスマホを見ていた。おじさんが立ち入れる隙など何処にも無かった。控えめに言っても場違いであった。見えない壁がそこにあった。この場は撤退。

 がしかし、大勢が一カ所に集まる場所では息が詰まる。逃げるように、僕は地下鉄の階段を登り始めた。いつもと違ってゆっくりと。台風を眺めて見たくなったのだ。階段をゆっくり登ると、今まで気づかなかったものが見えてくる。制服姿のアイドルたち。お化粧をした若い男。最新鋭のスマートフォン。イベントの告知。毎日登った階段が、様々な広告で溢れかえっていた。

 どうせ、暇だし。

 僕はじっくりと広告を見つめた。この人は誰だろう?。この機械は何だろう?。若い頃なら、その全部を知っているのだろうな。枯れた目には、見える全てがときめかない。歳を取るというのは、こういう事か……。頭の上で轟音が鳴り響く。数人の誰かがズブ濡れになって階段を駆け下りた。外が大荒れなのは明白である。

 強風に揺れる樹木。大混雑の道路。叩き付けるような雨。これらが渾然一体となって台風となる。幼少の頃、窓ガラス越しに嵐を見ていた記憶が戻る。オスの本能がそうさせるのだろう───見たいのだ。今は真夏。だから、多少濡れても構わない。濡れた方が暑さをしのげる。好奇心が背中を押す。

 広告なんかよりも、ずっと台風の方が面白い。ゆっくりと階段を登る間、誰とも会うことは無かった。少し向こうに出口が見える。そこに、僕だけの空間が待っているような気がした。あの子らに先を越されるまでは……。

 あと30段も登れば出口である。二十九、二十八、二十六……。と言ったところで黄色いカッパが僕の横をすり抜けた。小学生であろう子どもらが、一気に階段を駆け上がって行った。駆け上がる、その後ろ姿が羨ましかった。何人か?。男女併せて4、5人位か?。中には1年生くらいのちびっ子の姿もあった。ランドセルの脇に刺さったリコーダーが今にも飛び出しそうな勢いあった。

 一斉に駆け上がった子どもらは、出口の前で立ち止まる。何人かの子らはスマホを取り出して何やら撮影を始めた。その気持ち、おじさんにも分かります。そりゃ、見たいよな?、台風。すげぇ~もんな、そりゃ見たい。

 角度で言えば70度くらいだろうか?、斜め上方にスマホを構える。スマホ無き子は指を指した。微動だにしないランドセル軍団。あの子らは、あそこで何やってんだろ?。僕はゆっくりと階段を登る───呼吸が辛い。

 何があったのだろうか?、事故?、それとも自然の驚異?。時折、小さな子が大きな子に向かってコソコソ話掛けている。元気の塊が控えめに話し始め、数秒の間を置いて嵐の中へと掛け出した。

「馬鹿野郎がぁ!」

 台風である。大荒れの天候である。こんな強風の中に飛び出せば、大人でも一溜まりも無いだろう。僕は無心で残りの階段を駆け上がった。膝に危険な異変を感じたけれど、そんな事はどうでも良かった。息も絶え絶えで上り詰めた、地下鉄階段のてっぺんで、僕が目にしたもの、それは……。

───こう書く。

コメント

  1. そう書くのか…。最後にタイトルを忘れて読んでいた事に気が付きました。でも何?、この敗北感は?。「タイトルは忘れちゃダメ!」肝に銘じました。ありがとう。小説ブログもいいですね。また書いてね(笑)

    • ありがとうございます(笑)。ちょっと試験的に書いてみました。本丸の小説とは別個ですけれど、今は描き慣れる練習も兼ねています。目標は最後に『え?』です。

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