□ 題名:翔んでアラビアン・ナイト
□ 公演期間・場所: 1983年11月11日-12月18日・宝塚大劇場
□ スタッフ: 作・演出 植田紳爾
□ 組・主な出演者: 月組・大地真央、黒木瞳、剣幸 

□ あらすじ: (タカラヅカ・スカイ・ステージHPより)
 アラビアン・ナイトを題材に、大地真央が二役で活躍する冒険とロマンの物語。空飛ぶ絨毯、妖術比べ、人間を乗せて飛ぶ大鷲などのスペクタクルが見どころ。
 バビロニアの若き王子カマラルザーマン(大地)と妹のアブリザー姫(大地の二役)は陰謀で父を殺され、母と生き別れになり、別々に奴隷として売られる。グレナーレ家に売られたアブリザーは息子サーレル(剣)と惹かれあう。一方パーマン家に売られたカマラルザーマンは一家の娘たちにいじめられているジャウワーラ(黒木)と恋に落ちる。そんな中、グレナーレ(条はるき)は宿敵パーマン(麻月鞠緒)が探しているソロモンの地図をカマラルザーマンが持っていると知り、アブリザーに地図の入手を頼む。アブリザーはサーレルが止めるのも聞かずカマラルザーマンの元へ向かい、カマラルザーマンとアブリザーの波瀾万丈の冒険が始まる…。


□ 感想: 
 ハッハッハ! これは面白い! 紛れもなく「愛すべきトンチキ作品」の最高峰だと思います。マダムは過去に「愛のプレリュード 2011年花組」に☆5つ付けていることからもご理解いただけるとおり、トンチキ作品は結構好きです。最も愛するトンチキ作品は、植田景子先生の作・演出、紫吹淳さん主演の『シニョール ドン・ファン』ですが、今回は、植田紳爾先生と大地真央さんという実力派コンビの底力を見せつけられました。

 プロローグで、「アラビアン・ナイト、アラビアン・ナイト、ア・ラ・ビアン・ナイト!」と歌われる主題歌のダサすぎるメロディーに、トンチキ好きのマダムの心は躍ります。そこへ、麗しき王子姿の大地真央さんが登場して、せつない心情を歌い上げます。「翔んでアラビアン・ナイト」という題名から、どう考えても喜劇だろうと思われるのに、美しすぎる王子が国を追われ奴隷として売られていくシリアスな展開を予感させる幕開きは、大和悠河さん主演の「十二夜 1999年月組」の手法そのものです。
続いて、王子と王女の兄妹が 奴隷市場で売られます。先に売られたかわいそうな王子は大地真央さんです。そうなれば、王女は黒木瞳さんかと思いきや、なんと大地真央さんが二役で登場します。ここでマダムは、アッと声を上げて驚いた、というわけです。これは「十二夜 1999年月組」で、黒いベールから顔を出した姫が夏河ゆらさんだった時の衝撃と同じです。喜劇が誕生する瞬間、とでも言える、共通の仕掛けがあるのですね。それで、もう、この先は、アブリザー姫のトンチキぶりが炸裂し、アドリブや宙乗りなどが満載のスペクタクルショーが展開していきます。

 マダムは、男役トップスターが二役を演じる作品として、月組の『ピガール狂騒曲』、そして、作・演出に植田紳爾先生が名を連ねる、宝塚歌劇90周年を記念した祝典喜歌劇『天使の季節』、それも春野寿美礼さん主演の本公演と、未涼亜希さん主演の新人公演の両方を見たところでした。そして、『ピガール狂騒曲』は、男役トップスターが二役を演じることで、2番手男役とトップ娘役の両方と同時にカップルになるという、宝塚ファンにとっては 夢のような結末が嬉しい作品だと思いました。すなわち、珠城りょうさんと月城かなとさんのカップルと、珠城りょうさんと美園さくらさんのカップルの二つが成立しました 。その原型がこの「翔んでアラビアン・ナイト」にあったのには驚きました。

 「何で兄妹会えないの?今日こそ、会えない理由を教えてくれる?」と、大地真央さんが随所に軽妙なアドリブを交えて進めていきます。若手に全く役が付いていない、というご指摘はそのとおりのように見受けられますが、ベテラン勢の芝居巧者ぶりには感服します。そして、ついに、絨毯で飛んだのには驚きました。剣幸さんが大地真央さんの周りで何やらごそごそやっていると思ったその後、大地真央さんが一人で飛んだのにはさらに驚きました。アブリザー姫の一人での宙乗りはギャグマンガのような飛び方で、大地真央さんのプロ根性やエンターティナーぶりに脱帽です。「これだから「翔んでアラビアン・ナイト」なのね、納得、納得」、と思っただけでは留まらず、最後は 大鷲で 3階席まで届くほどに飛びました。王子が国を救ったのかどうかは定かではありませんが、岸香織さんがトンチキな魔法で敵を攻撃し、カマラルザーマン王子が大鷲で飛ぶというスペクタクルによって 強引にフィナーレを迎える力技で、完璧にねじ伏せました。昨年、明治座で見た氷川きよしさんが、紅白歌合戦で、あのポスターの金色の衣装で飛んだのが記憶に新しいので(氷川きよし特別公演 2020年参照)、本作品には本当にワクワクしました。大鷲の装置は、当時最新のコンピューター制御なのか、首が左右に振れたり、羽ばたいたりと、すごい仕掛けに見えます。ベルばらのペガサスや、『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』などにも引き継がれていると言えるでしょう。

 これだけ後世の作品に影響を与え、宙乗りやら大掛かりな最新の機械や装置やらを駆使し、一方でアラビアン・ナイトという古典にのっとった正統派の内容を含んでいることから、トンチキではなくて名作では?という声が聞こえそうですね。そのとおり、宝塚歌劇の歴史に残る名作だと思いますが、大地真央さん主演作、「情熱のバルセロナ」や「二都物語」など正真正銘の名作の間に分け入る本作品は、どう考えてもトンチキに分類されるでしょう。大和悠河さんの「Paradise Prince」と同じ扱いです。なお、庄野真代さんの「飛んでイスタンブール」が1978年、円広志さんの「夢想花」(とんで とんで とんで とんで・・)も1978年。本作品が1983年で、2019年に二階堂ふみ×GACKT主演で実写化されて話題になった「翔んで埼玉」は1982年から(紅ゆずるラストデイ 2019年星組参照)、ということで、当時、「とんで」作品がいろいろと発表されたのですね。
 
 その他、一番端っこで歌っている涼風真世さんのとても若いお姿が見受けられます。剣幸さんもトップスターになる前の少しお若い風貌が、風間柚乃さんにそっくりに見えました。風間さんは、『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』と『ピガール狂騒曲』と続けてトンチキ担当になっていますが、正統派男役の系譜であることを改めて感じました。


□ 勝手に評価: ☆☆☆☆☆ 「愛すべきトンチキ作品」の最高峰



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