だいすきだよ、にゃんきち

だいすきだよ、にゃんきち

2016年3月に縦隔型リンパ腫と診断された、我が家の大切な猫、にゃんきちの生きる日々を記録します。

幸せな時間

2016-05-11 15:26:49 | リンパ腫

初めの7日間、にゃんきちの具合は、かなり安定していました。
ちょうどゴールデンウィークで夫が仕事を休んでくれたということもあり、
わたしもにゃんきちも、精神的にゆとりがあった気がします。

にゃんきちは基本的には酸素室でゆっくり休み、
ごはんとお水とトイレのときは外に出て、
用事が終わるとしばらく窓辺で日向ぼっこをしたり、
ソファでゆったりしたり、ということを繰り返していました。

ソファと窓辺の間には酸素濃縮機が置いてあるのですが、
これがエアコンの室外機並みの大きな音を立てるので、
にゃんきちが窓辺やソファでくつろいでいるときは、
酸素濃縮機を止め、静かな中で、のびのびさせてあげました。

そのうち、にゃんきちの呼吸が荒くなってくると、再び酸素濃縮機のスイッチを入れ、
酸素室の酸素濃度が少し戻ったところで、にゃんきちを中に入れます。

にゃんきちはなるべく酸素室の外にいたいようなので、好きにさせてあげたいのですが、
体に負担をかけないためには、できるだけ長く酸素室に入っていた方が良いので、
にゃんきちをなるべく今まで通り外にいさせてあげたい(そしてスキンシップをはかりたい)夫と、
できる限り体に負担をかけてほしくないわたしとの間で、しばしば意見がわかれ、お互いに苛々したりもしました。

酸素室の正面には丸窓が2つついていて、そこから手を差し入れられるので、
わたしはそこから腕を肩まで差し入れて、にゃんきちを撫でるようにしていました。
けっこう苦しい体勢です。
夫も後にその体勢を強いられることになるのですが、
にゃんきちがまだ苦もなく数時間続けて外にいられる間は、
ソファで一緒にくつろぎ、お腹を撫でて、にゃんきちをアンモニャイトに変身させていました。

所沢の病院へ行った翌々日から、にゃんきちの食欲がかなり戻り、
やはり抗がん剤の副作用は強力だったのだなと感じました。
一時的に顎の麻痺がとれたのか、カリカリを食べるときも、
「だんだん食べこぼすようになる→食べるのを諦める」というパターンが無くなり、
きれいに食べられるようになりました。
もっとも、すぐにまた食べこぼすようになったのですが。

でも、「舐める」ことは「食べる」ことほど難しくないようなので、
クリーム状の美味しいご飯があれば、なんとか食べてくれそうだと思い、
S先生から紹介されたa/d缶を再び与えてみましたが、
美味しくないのか、匂いを嗅ぐばかりで全然食べてくれません。

そこで、にゃんきちがかつて「喜びの雄たけび」をあげながら食べていた「生活クラブ」の無添加の猫缶を、
夫に頼んでデポーで買ってきてもらい、蒸したササミと一緒にフードプロセッサにかけてペースト状にしました。
ササミと猫缶だけでは、いくら水分を混ぜても、どうしてもクリーム状にならないので、
a/d缶の比率を多めにして、この2つをよく混ぜ、あたためて与えてみたところ、
にゃんきちは、美味しそうにたくさん食べてくれました。
差し出した瞬間は、嫌そうな顔をするのですが、口の上にちょびっとフードをつけてあげると、
ペロッと舐め、美味しいと納得すると、勢いよく舐めだします。
舌が疲れてきて、お皿から舐めとるのが難しくなっても、
指につけて差し出せば、さらに舐めてもらえます。
こうやって、毎日時間をかけてご飯を与え続けていたために、体重も少しずつ回復してきました。

ただ、もちろん、これからがんが消化器官に浸潤してしまえば、また食欲が落ちてしまうのでしょう。
それが本当に無念でなりません。

抗がん剤をやめてからも、にゃんちは相変わらず元気があるとはいえないのですが、
ちょっと具合が良くなったようにも見えましたし、
窓辺でブラッシングされながらフミフミモミモミしているときや、
夫にお腹を撫でられているときは、それはそれは幸せそうに見えました。

ステロイドの影響か、にゃんきちが夜から朝にかけ2~3時間おきに起きてトイレに行ったり水を飲んだりするので、
酸素室の出入につきあっているわたしは、まとまった睡眠時間がとれず、
赤ちゃんに授乳しているお母さんや、介護をしている人の苦労をささやかながら実感しています。
体を動かせないために、腰痛がかつてないほどひどくなってしまいましたが、
夫が留守番を申し出てくれて、マッサージやスポーツジムに行かせてもらい、回復しました。

毎日寝不足でもいいから、家から全く出られないでもいいから、
にゃんきちの容態が安定して、こんな日がいつまでも続いてくれればいいのに、と願わずにはいられませんでした。

そう願いつつも、この幸せはわずかな時間しか続かないことを、夫もわたしも承知していたのです。





酸素室

2016-05-10 18:13:29 | リンパ腫

「ヘソ天しゅる?」
(もふもふは剃られちゃったけど)

所沢の病院からの帰りがけ、そのままS先生の病院にうかがいました。
Lアスパラキナーゼとロムスチンによる積極治療や、Lアスパラキナーゼによる延命治療を断念したことをご報告し、
翌日からS先生に緩和治療をして頂きながら、自宅で最期のときを過ごしたいことをお話しすると、
快く承諾して頂けました。

わたしたちの心を軽くしてくれるためかもしれませんが、
S先生は、
ご自分の大学の同期で先進治療病院に勤務されている獣医さんが、
「ロムスチンは副作用がひどいから使いたくないし、使わない」と話していたし、
S先生ご自身もそう感じているので、
もし積極的治療を続けても、にゃんきちを余計苦しめるだけになっていた気がするから、
にゃんきちのために正しい選択をしたのではないかと思いますと、言ってくれました。

悔いはないと思いつつも、ゼロではない「一定期間の延命」の可能性を捨ててしまったことに、
やはり罪悪感を覚えていたのでしょうか。
S先生にそういって頂いて、夫もわたしも、すごくほっとしました。

もちろん、この時点では、にゃんきちが、まだ「死」を感じさせるほど弱っていなかったのと、
これで辛い副作用から解放されるという希望があったのとで、
ほっとできた、という面もあるかもしれませんが、
いずれにせよ、先生の心遣いは、大変ありがたかったです。

獣医さんとして信頼できる上に、こうして患者家族の心に寄添おうとして下さるS先生がいるからこそ、
わたしたちも安心してにゃんきちを自宅で看取ると決められました。
にゃんきちも、わたしたちも、その点でとても幸運だったと思います。
S先生にはひたすら感謝です。

それはさておき、以前S先生から、
呼吸困難の患者のために、犬猫用の酸素室をレンタルするという選択肢があるとうかがっていたので、
レンタルできるお勧めの会社はないかおききしたところ、
先生が契約を結んでいたり会員登録していたりする業者はいないけれど、
今ちょっとネットで調べてみましょうと、その場で調べて下さいました。

帰宅してすぐ、その業者さんの代理店にお電話し、レンタルのお願いをしました。
代理店さんは、県内にありますが、我が家までは高速道路を使って来てもらうような距離にあります。
電話を受けてくれた代理店のAさんが、翌朝一番で朝10時頃には届けられるし、
一刻も早い方が良ければその日の深夜じゅうには届けられるといってくれたのですが、
そこまで急いで頂く必要もないと判断し、翌朝に来て下さるようお願いして、レンタルの申し込みをしました。

その後、S先生からお電話があり、
「あれからさらに探してみたところ、近隣にもレンタル業者さんが見つかりました」とお知らせ頂きました。
わたしたちがS先生のところへご報告にうかがってから病院を出るまでの短時間、
ちょうど日曜だったこともあり、患者さんが次々に待合室に入ってきていたので、
S先生はあれから相当お忙しかったはずです。
その忙しい診療の合間に、ネットでさらにレンタル業者さんを探して下さっていたなんて、
本当に本当にありがたいことでした。
ただ、すでに申し込みをしてしまいましたし、明日の朝には酸素室が届く予定なので、
S先生には、お手数をおかけして大変申し訳なかったのですが、その旨お伝えしてお礼をいいました。

その日から、わたしはにゃんきちのそばで寝ることにしました。
にゃんきちのいつもの居場所(兼 寝床)は1階のリビング(LDK)にあるソファなのですが、
夜はそこに布団を敷き、隣で寝るのです。

翌日の明け方、ふと目を覚ますと、ソファの上で、にゃんきちが苦しそうに呼吸をしています。
「やっぱり前日の深夜に酸素室の業者さんに来てもらえば良かった」と後悔したのですが、
朝の8時頃には、呼吸もある程度落ち着いてきたので、少しほっとしました。

10時少し前、前日電話を受けてくれた酸素室レンタルの代理店のAさんが来てくれました。
Aさんも4匹の猫ちゃんがお家にいるそうです。
にゃんきちの病気のこと、辛いですねといって下さって、にゃんきちに、とても優しく接してくれました。
酸素濃縮機と酸素ハウスをセットで使うことになるのですが、
濃縮機もハウスも設置場所を選ぶので、直射日光や壁からの距離、台所からの距離など、入念にチェックして下さり、
手際よくハウスを組み立ててくれて、使い方や注意点なども分かりやすく説明して下さいました。
にゃんきちは、お客様好きで、猫好きのお客様は特に大好きなので、
さっそくAさんに挨拶したり、作業中のAさんの近くをうろうろしたり、
酸素ハウスのパーツにすりすりしたりしはじめました。
そのあげく、組み立ててもらった酸素ハウスに、わたしがペットシーツやお気に入りのタオルケットを敷いたとたん、
まだ酸素を供給してもいないのに、いそいそと中に入って、落ち着いてしまいました。

濃縮酸素を供給し始めたところ、ここに入れば呼吸が楽になると分かったのでしょう、
数時間おきに、酸素室に入りたいというそぶりを見せるようになりました。
前日に所沢の病院で診てもらったときは、胸水が溜まっていなかったのですが、
それでもすでに呼吸が苦しそうになってきていたので、
おそらく肺をはじめとする呼吸器官にリンパ腫がじわじわ浸潤し、うまく働かなくなって、
呼吸できる空気の量が少なくなってきているのでしょう。
それでも濃い酸素を吸えば、ずいぶんと楽になるようです。
普通の空気では酸素濃度が21%ほどだそうですが、酸素室の中は30~38%程度を維持しています。
酸素室内の温度や湿度も、Aさんの教えに従って、なるべく快適に保てるよう、こまめに調整しました。

この日、酸素室ですうすう眠りこんでいるにゃんきちのお腹は、元気な頃に戻ったように、ゆったりと上下していて、
夫もわたしも、それはそれはほっとして、心から神様に感謝しつつ、
いつまでも飽きずに、眠るにゃんきちを見つめていました。


「あんまり見つめられると、眠れないんだけど」

最期の日まで幸せに暮らすために

2016-05-07 11:55:49 | リンパ腫

「最愛のひとり息子」
(元気な頃)

日曜日、所沢の病院へ行き、にゃんきちの検査をしてもらいました。

この時点ですでに元気や食欲がなくなっていたため、予想できたことではありますが、
やはりドキソルビシンは効きませんでした。

にゃんきちの胸の腫瘤が再び姿を現し、胸水も抜去できないほど微量ながら溜まっているそうです。
ドキソルビシンはある程度効き目があったと考えられるものの、
がん細胞の力がそれを上回っていたということでしょう。

H先生に提示された選択肢は3つでした。

①積極的治療の継続
 初回に投与したLアスパラキナーゼと、レスキューの抗がん剤であるロムスチンを投与
 入院が必須
 効力を発揮する見込みは50パーセント

②延命治療
 Lアスパラキナーゼのみの投与
 入院と帰宅が選べる
 延命効果は数日

③緩和治療
 ステロイドの継続投与
 余命は1週間。それ未満の場合もそれ以上の場合もあるが、1か月はもたない。


ドキソルビシンすら効果がなかったのに、
今さらロムスチンとLアスパラキナーゼに効果があるとは思えません。
ある程度は効くのかもしれませんが、これまでにゃんきちが副作用にかなり苦しめられたことを考えれば、
期待できる効果よりも、副作用によるダメージの方が大きいように思えました。
また、にゃんきちの精神的ダメージを考えると、入院はもうさせたくありません。


Lアスパラキナーゼのみの投与を選択するかどうか、少し迷いましたが、
Lアスパラキナーゼは1回目よりも2回目の投与の方がアレルギーの可能性が高まるということ、
また、数日の延命のためににゃんきちに副作用のダメージを負わせたくないということから、やめることにしました。

今、抗がん剤治療をやめると、体の状態がどんどん悪くなり、
後で抗がん剤治療をしようとしても、もう手遅れで、
投与できないということになりますが、それでも大丈夫ですか、
と念を押されましたが、
にゃんきちが最期の日まで、わたしたちのそばで幸せに暮らすために、
抗がん剤を断念することに、もう迷いはありませんでした。

神様がわたしたちに与えて下さった、最愛のひとり息子である、にゃんきちを、
神様にお返しするその日まで、
にゃんきちができるだけ苦しくないように、
できるだけ幸せだと感じられるように、
精一杯のことをして、精一杯愛することが、
最善の道だと、夫もわたしも心から信じています。


(もう迷いはない)


自然療法の可能性

2016-05-06 17:46:47 | にゃんきちのこれまでについて
急に容態が悪くなったにゃんきちを見て、夫は実家行きをキャンセルし、
所沢の病院にお願いして、次の予約を一日前倒して、日曜日にしてもらいました。

抗がん剤治療を始めた頃、抗がん剤治療の効果を引き上げられないかと考え、
免疫力を高めるサプリメントを購入していましたが、
H先生から
「抗がん剤の細胞を壊す働きと、サプリメントの免疫力を高める効果は矛盾するものなので、お勧めはしめません」
といわれ、抗がん剤治療がうまくいくことを期待して、サプリメントは使いませんでした。

ですが、リンパ腫が再燃してしまった後、かかりつけのS先生から、
「ドキソルビシンや、その後の抗がん剤治療と並行して、サプリメントなども試してみてはどうですか」
と、勧めてもらったこともあり、
すでに購入してあったサプリメントを含め、自然療法の可能性をあらためて探ろうとネットで色々検索してみたところ、
自然療法や補完代替医療に力を入れている病院が隣市にあることがわかりました。
こちらの病院では、その他にも、免疫細胞療法という先進医療を行っているようでした。

金曜日に、にゃんきちの容態が悪くなり、ドキソルビシンが効いていない可能性が高まったことから、
土曜日の午前中にS先生の病院へ(投薬のために)うかがった後、
隣市の病院に予約を取り、並行治療の可能性について、夫とふたりで話をききにいきました。
(にゃんきちは、体に負担がかからないよう、家でお留守番です)
S先生には、その旨断って、これまでのレントゲンも全て貸して頂きました。

隣市の病院は、隣市にあるとはいえ、我が家からは車で20分ほどと思いのほか近く、
時間調整のために、途中で近くの大学に立ち寄り、キャンパスをお散歩することになりました。
緑にめぐまれたこの大学には、大木に囲まれた芝生の広場があり、広場の中央にも樹冠の美しい大木が一本立っています。
爽やかな風にそよがれて木々の緑がきらめいていました。
今年の春は、にゃんきちが心配でたまらず、美しいはずの桜でさえ美しいとは思えないまま、いつの間にか終わっていたのですが、
胸が潰れそうな苦しみの中にある今、体に染みこむような、やさしくやわらかい緑が、わずかなりとも心を癒してくれるような気がしました。

隣市の病院では、女性の副院長先生が中心となって自然療法に力を入れているようで、
この日も副院長先生が、対応して下さいました。
にゃんきちのこれまでの経過をお話しし、レントゲンと血液検査の結果、所沢の病院からもらった診断書もお見せしました。
副院長先生は、ご自身が癌を患い、治療から12年間再発なしで過ごされているそうです。
その経験もまじえつつ、自然療法の効果を説明して下さいました。

結論から言うと、
・抗がん剤治療の補完療法を行うのであれば、抗がん剤治療開始と同時に始めなければならない。
 自然治療は自己の治癒力を高める治療法なので、にゃんきちのように抗がん剤を5回投与し、免疫細胞が抗がん剤でぼろぼろになってから始めて
も効果はない。
・小動物のがんに対する自然療法の効果は、ある程度データが蓄積され、公開されているのに、西洋医学オンリーの先生が「エビデンスがない」と頭
から否定してしまったことは、とても残念だ。
・ただし、免疫細胞がぼろぼろの状態でもある程度痛みや炎症を緩和してくれるサプリメントは存在し、それを処方することはできる。
 この病院で扱っているイムノグルカンというサプリメントは、実際に、抹消血にまで腫瘍細胞が出現している子にも効果があった。
・にゃんきちのかかりつけのS先生は、サプリメントによる補完治療を否定していないので(むしろ肯定的なので)、S先生の治療と並行して、
今後もこちらでサプリメントのみを処方することはできる。
・免疫細胞療法は、根治を目指す治療法ではなく、患者からリンパ球を取り出して増殖し、それを患者のリンパ球に戻してあげることにより、
 免疫力強化や副作用の軽減を狙う治療で、効果は高い。
 ただし、残念なことに、リンパ球が癌化するリンパ腫にだけは、この治療法は使えない。

なのだそうです。

そのような次第で、この日は、イムノグルカンを3週間分処方してもらって帰りました。
1日分100円でした。

副院長先生の対応は、きさくで温かみがありました。
その気があれば、患者の家族の「藁にでもすがりたい」という気持ちを利用して、
高額なサプリメントを売りつけることだってできるでしょう。
ですが、副院長先生は、「打つ手がない」ということを、明確に理由を述べてきちんと説明してくれ、
価格の手ごろな症状緩和サプリメントだけを処方してくれました。
とても良心的な診療だったと思います。

もっと早く……抗がん剤治療を始める前に、こちらの病院の門を叩いていればと、後悔で胸が痛みましたが、
それには、事前に相当の知識や情報収集が必要でした。

最も治療成績の良いプロトコールに沿った抗がん剤治療を受けられたことでさえ、
自分で勉強や情報収集をした成果ではなく、
あくまでS先生がすぐに最良の専門病院を紹介して下さったおかげです。
事前にあらゆる情報を収集した上で、H先生を説得して許可をもらい、
抗がん剤治療開始と同時に自然療法を始めるなどというのは、わたしたちの限界を超えたことでした。

それでも、この日、思い切って話をききにいって本当に良かったと思います。
もしもこの日話をききに行かなければ、「あのとき、もっとできることがあったのでは」と、いつまでも悔やむことになったはずです。
最期のとき、わたしたちの手が届く範囲に、わたしたちにできることが……にゃんきちのために積極的に選択してもいいと思える手立てが、
もうなにもないと分かっていれば、
にゃんきちを与えられたことを、ただただ感謝して、神様に全てをゆだねることができるのではないかと思います。
そう期待します。

道が全て断たれたという喪失感と奇妙な安堵感、
そしてにゃんきちへの愛おしさと、にゃんきちを失おうとしている苦しみが胸を占め、
隣市の病院からの帰り道、目に映る緑がやけにまぶしく感じられました。

急変

2016-05-03 16:00:24 | にゃんきちのこれまでについて
本来休診のはずの火曜日にS先生の手を煩わせてしまって、とても申し訳なく思っていたこともあり、
再寛解という希望的観測の下、これからも自力である程度のことができなければ、と心を奮い立たせていたこともあり、
水曜日は、S先生に頼らず、自力で(夫とふたりで)投薬をしようと心に決め、病院には行きませんでした。

すでにオブラートを買ってあったので、
薬をできるだけ小さな1包にまとめ、投薬の回数を日にいちどきりにすれば、
なんとかいけるだろうと、考えたのです。

ですが、それはとんだ過信でした。
その夜、帰宅した夫とふたりで何度も試したのですが、
にゃんきちは薬の包みを舌でブロックし、飲みこんでくれません。
こちらも、にゃんきちが飲みこむまでは……と懸命に口を押え続けるのですが、
どうしてもうまくいきませんでした。
口の中に包みを放りこんで、しばら~く口を押えていると、にゃんきちが口の隙間から舌先をのぞかせてペロッとし、
こちらは「飲みこんでくれた!」と喜んで手を放すのですが、
放したとたんに、にゃんきちが、舌でブロックしていた薬の包みを吐きだしてしまうのです。

何度か薬を包み直してトライし、薬を1日分無駄にして、新たに薬を取りだして包み、何度か試したのですが、
どうしても駄目。
しまいに、にゃんきちが、わたしたちから逃げるようになってしまったので、今夜は無理だとあきらめました。

ただ、前に苦闘の末、薬を飲みこませたときには、
薬をオブラートに包んでいなかったため、
おそらく口の中に錠剤の苦味が残ったからでしょう、、
にゃんきちは、粘性の高いよだれを口からぶらーんと垂らしたまま、
怒り心頭で部屋じゅうを走りまわり、後で疲れきってグッタリいたのですが、

水曜の夜は、わたしたちがあきらめた後、
にゃんきちは、勝ち誇ったような顔をして、わりとすぐにくつろぎはじめ、
わたしたちに撫でられて気持ち良さそうにしていたことが、唯一の救いでした。

それでも、投薬の戦いで負けてしまったツケは、翌日にやってきました。

吐き気止めもステロイドも服用できなかったために、
回復しつつあったにゃんきちの食欲が一気に落ち、
もともとあったとはいえない元気が、いよいよなくなったのです。

木曜日の午前中、急いでS先生の病院へ行き、先生に薬を飲ませてもらいました。
薬が4種類もあり、そのうちひとつは大きさもかなりのものだったので、
S先生は、投薬補助のペーストを使ってお薬をひとまとめにし、
見事な手際で、また一瞬のうちに、にゃんきちに薬を飲ませてくれました。

こんなことなら、昨日もS先生にお願いすればよかったと、激しく後悔しました。
今、にゃんきちの体の中では大きな戦いが起こっていて、
薬の援護が絶対に欠かせない深刻な状況だというのに。
投薬は自力で遂行することではなく、確実に遂行することに意味があるのに……

それでも、金曜日の朝、にゃんきちが再び食欲を取り戻し、
与えたカリカリをきれいに食べきったのを見て、
再びわたしの心はふわふわと舞い上がりました。
朝これだけ食べられたのなら、おそらく今日は、一日に必要な摂取量の8割以上食べられるはず……
そう胸算用して、ほっとしましていました。
しかも、にゃんきちは、朝ごはんを食べた後、自分で階段をとことこ上って、
二階でまだ寝ていた夫を起こしに行ったのです。
これまでは、一階のリビングを出る元気さえ、ろくになかったのに。

前日の食欲不振は、投薬ができなかったせいに違いなく、。
これからきちんと投薬を続ければ、食欲が戻るはずだし、少しずつ元気になっていくはず……
そう思うと、うれしくて、たまりませんでした。

この日は喜び勇んでS先生の病院へ行き、食欲が回復したことを報告しました。
S先生は、「良かったですね」と喜んでくれて、
「無理して家で飲ませようとして、お父さんお母さんといるのに安心できないとかわいそうですし、
「ぼくが悪役を引き受けますから、遠慮なく連れてきて下さい」といってくれて、
この日も一発でにゃんきちに薬を飲ませてくれました。
にゃんきちが食欲を取り戻したことも、S先生の心遣いも、本当に本当にありがたくて、感謝で胸がいっぱいになり、
幸せな気分で帰宅しました。
家に帰ってから、日の当たる窓辺で、ブラッシングしてもらい、幸せそうにモミモミフミフミを繰り返すにゃんきちを見て、
希望が湧いてきました。

翌日から義母に会いに一泊で実家へ行く予定だった夫は、
にゃんきちの食欲不振を心配して、実家行きをためらっていたのですが、
わたしは「にゃんきちは大丈夫。だから明日は行ってきて」と、いいました。
翌日以降も大丈夫な根拠なんて、なにひとつなかったのに……

その日の夕方、にゃんきちがお昼寝から目を覚ましたとき、事態はすっかり変わっていました。
朝の食欲や元気が、すっかり消えていたのです。
熱はないので、副作用の骨髄抑制が出てウィルスに感染したというわけでもなさそうで、
午前中は、息をするたびゆるやかに上下していたにゃんきちのお腹が、激しく動いていました。
タイマーで1分間の呼吸数を計ってみると、朝は23回前後だったのが、30回以上、ときには40回近くになっています。

呼吸が荒くなったということは、胸のしこりが大きくなって肺を圧迫しているのでは……

つまり、ドキソルビシンががん細胞を押さえられていないのでは……

喜びが大きかっただけに、奈落の底につき落とされた気がしました。