「その猫がどうしたんです?」
「いや、こんなお姉ちゃんのいるとこで申し訳ねえがよ、その猫がウンコすっだろ? ま、生きてんだ、ウンコはするよな。それを隣の庭でするってんで文句がきてたらしい。それに、その家も猫を飼っててよ、喧嘩して怪我したとかもあったみてえだな。だけど、文句が出るくらいで収まってりゃ良かったんだ。ところが隣のカミさんってのがちょっとイッちまった奴だったんだろうな。そのウンコを集めちゃ、平子の玄関に置いていくってんで、さらにトラブルになったようなんだよ」
「すみません。その隣に住んでた人の名前はわかりますか?」
顔をしかめて男はまた天井を見つめた。カップには手を出そうとしなかった。
「なんだっけな? 聞いたことはあるんだが忘れちまったよ。そこはもう引き払って、違う家が何軒も建ってっからな」
「引き払った?」
「ああ、そうだよ。そこのカミさんが自殺してな、そのすぐ後にいなくなっちまったんだ」
「自殺ですか」
「そうなんだよ。そのカミさんはウンコを玄関に置いたり、酷いときにゃ庭に投げ込んだりしてたようなんだ。誰かが間に立っても聞く耳持たねえって有様だったらしい。で、ビラっていうか、張り紙をしたんだな。ま、なんて書いたか知らねえが『猫のウンコ投げ入れ禁止』とでも書いたんだろうよ」
カンナは唇を尖らせてる。申し訳ないとか言ってたけど、さっきから何回「ウンコ」って言ってるのよ。顔を向けると彼も似た表情をしてる。ただ、考えてるのは別のことだった。ビラね、なるほど。そう思っていたのだ。
「でもよ、そんなの貼ったら誰がしてるかバレちまうわけだ。トラブルがあったのはわかってんだ、あそこのカミさんは猫のウンコをまき散らしてるって知れ渡っちまったんだよ。そりゃ、ヤバいよな。家の者もそんなの知らなかったんだろうさ。そいで、そのカミさんは自殺したんだろうって話だぜ」
「猫が次々と死んだのはいつのことなんです?」
「うーん、よくわからねえんだが、そのビラが出る前後くらいじゃねえかな。なんだかバタバタと死んでったらしい。平子の婆さんは『毒を盛られた』って言ってたようだぜ。それが何度もつづくんでおかしくなっちまったのさ」
↓押していただけると、非常に、嬉しいです。
にほんブログ村
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》