無力感。
突然の無力感に襲われることがある。
ずっと前から胸の奥にささっているトゲは、いっこうに抜けそうもない。
それどころか、毎日その痛みを増してくる。
幸せだ、私たちは幸せだ!
わかる、わかる人にはわかる!
ひとつ、真実はひとつ!
そんな言葉を呪文のように、どれだけ呟いてきただろう。
言霊の力をどれだけ信じてきただろう。
でもそれで、私たちの大事な人は守れていたのだろうか?
嫉妬からの悪意は知る価値もない。
人としてーーーと説いたところで、人でなしーーならば通じない。
土を堀り、対する叫びをそこにためられたなら、
地球の裏側に届くほどの言葉が集まるだろう。
でも、それを空に放つことはできない。
なぜなら、私たちの大事な人の耳に入ることのないように。
だからーーー襲われる。
突然の無力感に。
そして、それに抗う術が見つからない。
そんな今日、世界選手権を見た。
いろいろな選手の頑張りに、いろいろなドラマに感動した。
それでも、心のどこかでは、彼の演技をずっと探していた。
そう。今日改めて認識してしまった。
私は、芸術であるフィギュアスケートを見たいのだ。
それは贔屓目でも、好みの問題でもない。
すべてのフィギュアスケーターが目指す演技がそこにあると信じている。
それは、圧倒的な技術に裏打ちされた芸術ーーー。
ひたすらそれだけを追い求めてきた姿。
いつでも全身全霊をかけて、自分と闘って来た姿。
心もからだも傷だらけ。それでも続けられたのは
心からスケートを愛しているから。
そんなフィギュアスケーター、羽生結弦の記憶が次々と甦る。
自分は、なんとすごい人の生き方を目撃しているんだろう。
出会えたことがあまりにも幸せで、泣けてきた。
もう、悔しくて涙を流すことなどやめにしよう。
これから、フィギュアの未来のために彼が成し遂げる数々に、
私たちは歓喜の涙を流すのだから。
羽生結弦のいない世界選手権に
羽生結弦が牽引するフィギュアの未来を見た。
「幸せすぎてごめんなさい」
何を言われようと、私の返事はこの一言。
今日からそう決めた。
胸のトゲもゆっくり溶けて行く。
ありがとう、ゆづ。