乃南アサさんの本は大好きなので図書館から借りた。
乃南さんの本はミステリーが多いが、こういうのも、おもしろい。
この前、台湾に行ったばかりなので余計、興味をそそられた。
台湾のことは、全然知らなかったので勉強になった。
ネットから拝借
ストーリー
二〇一一年の東日本大震災直後、日本は多くの国から支援を受けたが、中でも台湾からは二百億円という多額の義援金を受けとった。このことをきっかけに台湾を好きになり、日本と台湾は過去にどういう関係だったのだろうと興味をもつ人も出てきた。
乃南アサもまた、自身が台湾への関心を高めたきっかけは、東日本大震災だったと語っている。以後、二〇一二年から六年間で四十数回台湾を訪れ、その歴史や文化、そして何より台湾の人々の心に触れる旅を続けてきた。本書ではその成果が豊かな果実となっている。
主人公の杉山未來みらいは三十二歳。声優への夢が潰え、将来への見通しもつかないまま東京の自宅で父方の祖母と二人で暮らしている。両親は仕事の関係で福岡に行っており、未來と祖母の朋子との仲は良好だ。
ところが、未來が契約社員としての三年間の会社員生活を終えた日に、朋子は階段から落ちてしまう。未來に自分が生まれ育った台湾・台南たいなんの写真を見せようとしたために起きたできごとだった。
入院してしまった祖母のために、未來は台南へ行って、祖母が十六歳まで暮らしていた家を探し、元気づけようと考える。それは祖母のためであると同時に、閉塞した自分の状況に風を入れる旅でもあった。
未来は台南で、通訳兼案内役を務めてくれる人々の力により、祖母が住んでいた地域を見つけ、祖母が住んでいたかもしれない一軒の家にたどり着く。しかし、そこに住んでいる一家には壮絶な人生があり、家族のひとりは「ここは、地獄です」と語る。その話が衝撃的だ。
台湾で暮らす女性たちの多くはいまだに家族の呪縛から逃れられずにいる。親から愛されず、結婚もまた地獄だったと語る女性もいるし、長女だからと自分を犠牲にしてひたすら家族のために尽くす女性もいる。
未來は、彼女たちの人生の重さにショックを受けるとともに歯がゆい思いもする。しかし、未來の祖母の朋子もまた「長女なんだから」と言われて育ち、母親からの愛情を十分に感じられずにきた過去をもっている。時代のためにやりたいことなどなにひとつできなかった思いを胸に抱いているのだ。
そうした朋子がしてきたことといえば子育てだが、娘を育てることには失敗したと自覚している。自分の人生を自由に生きられなかっただけでなく、家族も思い通りにはならなかったのだ。朋子の時代の日本人の生き方は、台湾の家族像と重なる部分がある。
だからこそ、朋子は未來に、自由に生きろと言う。背負いたくないものなら背負わなくてよいと。
朋子が言っていた「六月の雪」が何であったのか、それを未來は帰国の前日に知ることができるが、そのことは台湾の人々の温かい思いが未來を導いてくれからこそ叶ったことだった。
乃南アサは一貫して家族というものにこだわり続けてきた作家であり、本書で描かれるのも日本と台湾の家族の姿だ。だが、それと同時に、人と人とのつながりが呼び起こす懐かしさ、人と心を通わすことの奇跡が温かく描かれている。
七日間の旅を終えた未來は、これからの人生への光明を見出すが、それは未來とともに旅を続けてきたわたしたちにも重なるものとなる。