精液って何?

 


精液とは、精漿と精子の混合物です。採取された精液を見ると、ドロドロしているのがわかります。そのドロドロが精漿です。精漿の働きは、腟からの精子の流出防止、精子の運動能や受精能の働きの制御、そして精子を保護する役目など多岐にわたり、精子の活動を助けています。
人工授精や体外受精では、当日射出した新鮮な精液を用いることが多く、病院内で採精するか、自宅で採精してから病院に持っていくかになり、患者さんや病院によって違いがあります。

 
 
 

   精液には、不純物がまじってる!(精子精製)

 


しかし、体外受精や人工授精においては精漿を取り除き、さらに運動している精子のみを集める必要があります。
これを精子精製といいますが、例えば人工授精では、動きの良い精子のみを子宮腔内に注入するために必要なのです。
精子精製には、他にも意味があります。採取された精子には細菌や白血球、その他の細胞も含まれているので、そうした精子以外の物質もなるべく除去することが大切です。

 

 

 

    良い精子ってどんな精子?(精子の形と遺伝子)

 


しかし、精製して運動している精子を集めても、全てが良い精子というわけではありません。
病院で精液検査を受けると、奇形率というワードをよく耳にするかと思います。これは、「精子の形」が良くないもの、正常精子とは違うものが、どれくらいあるかを表したものです。
動いていて元気な精子であったとしても、精子の形が良くないものは受精自体が難しかったり、受精したとしても染色体の異常が発生する確率が高くなると報告されています。
では、精子の奇形とは、なんでしょうか? 精子は、頭部、頸部、尾部の3つで構成されており、そのどこかに形の異常があれば奇形と判断します。わかりやすいものは頭部が極めて大きいもの、頭部が2つあるものです。
精液検査では、200倍以上に拡大してその異常を見極めていきますが、病院によっては精子の動きを止めて染色をした後、奇形率を測定することもあります。
では、動いていて形が正常であれば問題ないかといえば、そうではありません。
形が良くても精子頭部に空胞があると、DNAに傷を持っている可能性があるといわれています。DNAに傷のある精子が卵子に入ると受精しなかったり、受精をしたとしても発育しなかったりすることが考えられます。病院によっては、顕微授精時は通常よりも倍率を上げて精子をよく見て、空胞のないものを卵子に注入する、IMSIという技術もあります。
不妊治療の保険診療化に伴い、IMSIは先進医療の項目に含まれました。今後は、IMSIを導入する病院も増えてくることが予想されています。
まとめると、先生や培養士がいう良い精子とは、「受精可能でDNAに傷のないもの」です。
ただ、DNAに傷があるかどうかは形や空胞の有無だけではわかりません。そのため、なるべく問題のある可能性が高い精子は用いずに治療することが重要になってきます。

 

 

 

 

   当日の精子データと治療

 


人工授精や体外受精を行う場合、当日の精液は培養士が調整をします。
過去の精液検査では問題がなくても、当日に同じような結果になるとは限りません。精液のデータは、日によって大きく変わることがあるからです。(グラフ1参照)
そのため、当日の精液の状態によっては、精子精製を行っても運動精子が少なく人工授精ができなかったり、前回の体外受精は通常媒精(c-IVF:卵子に精子をふりかける受精方法)で受精が起こっても、「今回のは、顕微授精(ICSI)にしましょう」と医師が提案することもあります。
ただ、採精した直後に「今日は大丈夫!」と思っていても、結果が芳しくなかったりってことがあります。
それは、もしかしたら病院へ持っていく際の温度が関係しているのかもしれません。

 

 

 

 

  精液はどうやって病院に持っていけばいい?(運搬の温度)

 


当日、病院内の採精室を利用して精子をとる場合は、すぐに提出できますが、自宅で精液を採取してから病院に持っていくときは、温度変化に対する注意が必要です。
精液は生もので、温度変化に弱いのです。温度が高くなりすぎると精子は動きを止めますし、温度が低すぎても精子は動きを止めてしまいます。
培養室でよくある事例を紹介します。
冬場の寒い時期、バッグに採精後の採精カップを入れて培養室まで持ってきてくれたのですが、精液検査をすると前回のデータより極めて運動率が低くなっていました。これは、寒さがダイレクトに精液に伝わってしまったために元気がなくなってしまったと考えられます。
また、夏の暑いときに体外受精を行った患者さんは、精液検査したところ、精子の運動性が極めて低い結果でした。お話を伺うと、その人はマイカーでの通院で、精液の入ったカップを車のボンネットに置いてしまったと……。
夏の強い日差しとボンネットの熱さで精子が動きを止めてしまったのでしょう。
このような例から「夏」の極めて暑い時期や「冬」の極めて寒い時期の精液の運搬は、いつも以上に気にかけることが必要ではないかと思います。
では、どのように運べばいいのでしょうか?
一般的には、常温が良いとされていますが、基本的には病院の指示に従って持っていきましょう。
それぞれ病院によって考え方も違い、運搬するときの温度を問わない病院もあります。そういった場合は、射出後は外気になるべく触れないように、温めすぎず冷ましすぎず、そのままの温度を保てるように運びましょう。
例えば、タオルやハンカチでくるんでもらうのもいいでしょうし、専用の精液運搬製品もありますので購入していただくのも良いかもしれませんね。
運搬時間は、できれば射出から1時間程度が良いです。しかし、通院場所や仕事の都合によっては、やむを得ない場合は、2時間くらいまでに持って行けば大丈夫でしょう。