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第1幕
それは痰に血が混じることから始まった。
だんだんひどくなり、一時はドバドバ出てきて真っ青になった。
新選組の沖田総司や白土三平の「忍者武芸帳」に出てくる果し合いという時に必ず血を吐く剣士を思い出した。

医者に診てもらったら、
「肺炎でも肺結核でもありません」
とのこと。
先ずは一安心したのだが、出血のきっかけが何だったのだろう。
医者は「年寄りには良くあることだから、余計な心配はすることはないよ]
とは言わなかったが、そう言いたげなニッコニッコ顔だったので、何となく違和感があった。
10日ほど経ってほぼ全快した。

第2幕
夜、眠れないときがある。
この寒さで温かい布団から抜け出て熱いお茶を飲む気にもならず、モンモンとして時間を過ごしてしまう。
次の日は眠れるからあまり心配はしないのだが。
最近は次の日もまた同じということがある。
どうしたのだろう。

「時々眠ってるのよ。心配ないわよ」
「睡眠導入剤をもらって飲んだら」
ち絵さんは他人ごとのように言う。
そこまではまだ考えてません。
多分これもまた「歳のせい」で片づけられるんだろう。

第3幕
ち絵さんの目覚まし時計が鳴っている。
いつまでも鳴り続けている。
──どうしたんだ
わたしはついに我慢できなくなり、手を伸ばして止めた。
なんと、そこにち絵さんはいなかった。
それじゃあ、止まるわけがない。
「ごめん、ごめん、すっかり忘れてた」

その日は茶道教室の初釜の日。
ち絵さんは寝坊しないように目覚ましをセットしたのだが、早く目を覚まし、そのまま起きてしまったとのこと。
何日も前から準備していたから、気が張っていて、目覚ましのことを忘れてしまったのだろう。

第4幕(これでお終い)
初釜の教室に和装で出かけるち絵さん。
エアコンで部屋を暖めようとしたが、リモコンをブチブチ押しても作動しない。
「壊れちゃったみたい。ちょっと見て頂戴」

それは一大事。
リモコンを手に取って調べてみると、設定が「冷房」になっていた。
「暖房」にして、上手く作動しましたとさ。