書くべきことと、書かない方がいいこと | フクロウのひとりごと

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愛知県在住のトロンボーン吹き、作編曲家、吹奏楽指導者。
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書くべきことと、書かない方がいいこと、これ何のお話かというと、楽譜についてのお話なのです。

演奏のための手がかりは多い方がいい、でも、書かない方がいいことだってあるように思うのです。

 

こんばんは。

トロンボーン吹きで作編曲家、吹奏楽指導者の福見吉朗です。

 

 

 

  楽譜に書いてあること

 

楽譜を読む、音にする、演奏する…

楽譜って、なにが書いてあるのでしょうか。

音、音符。それに、そのほかのいろいろな記号や標語、指示…

さまざまなことが書いてあります。

それを『手がかり』として、その曲を演奏していくのですよね。

ぼくは、楽譜のすみのほうに書いてある著作権情報や出版社名なんかも見たりします。

トロンボーンは暇なのでね…

 

 

  手がかり

 

書いてあることを手がかりとして、と書きました。

曲を演奏するのって、書いてあることをただそのとおり音にすることではないと思うのです。

これは決して、それを無視しろと言っているのではありません。

書いてあることをただ無思考に実行するのではなく、それを手がかりとして、

作家(作曲者や編曲者)はどんな音楽を求めていたのかを想像し、それを音にする、

演奏するのってそういうことだと思います。

そしてこの2つ、似て非なるものだと思うのです。

よく『楽譜に忠実に』なんて言いますよね。それは前者ではなく後者のことだと思うのです。

 

 

  当たり前のこと

 

さて、でも、『書いてなくたって普通そう演奏するでしょ』っていうこと、

いわば、当たり前のことってありますよね。

もっと言うと、音楽のスタイル、語法に関することです。たとえばこんなこと…

 

 

こんな感じの、マーチの低音。

これ、書いてなくったってマルカートやスタッカートで演奏しますよね。

これをテヌートで演奏する人はいない。

だって、それが自然だから。

こういう、いわば『当たり前のこと』は、書かない方がいい、いや、書くべきではないと思うのです。

 

 

  人間とコンピューター

 

たとえば前出の、マーチの低音。

これ、なんにも書かないと、コンピューターは長めに音にしてしまいます。

楽譜作成ソフト『フィナーレ』の再生機能などがそうですね。

これ、とっても変です。

でも、人間は違いますよね。

わざわざスタッカートなんか書かなくても、ちゃんと短めに演奏してくれます。

それが常識、それがマーチのスタイルだからです。

そして楽譜というのは、コンピューターのためではなく人間のために書くものです。

 

 

  なぜ書くべきではないのか

 

さて、どうしてこういうスタイルや語法に関する当たり前のことは書くべきではないのかというと…

ひとつは、わざわざ書いてあるとかえって迷ってしまうからです。どうしたらいいのか、と…

『こんな当たり前のことをわざわざ書いてあるのは、ことさらにそう欲しいということなの?』

かえって判断が難しいからです。

同じ理由で、楽器の特性による音量バランスに気を利かせて違う強弱を書くことにも疑問です。

気を利かせているのか、それとも実際にそう欲しいのかがわからなくなってしまうからです。

そして、もうひとつの理由は…

 

 

  楽譜を音にすること

 

経験ある方もおられると思いますが…

耳コピをして、聞き覚えたとおりに演奏できるように練習するのと、

耳コピしたことを楽譜に書いて、それを練習するのと…

この2つって、全然違う結果になるように思うのです。

ことに、他人がコピーして書いた楽譜を練習するとなるとなおさらです。

『楽譜を音にする』のと、『聞き覚えたものを音にする』のの違い。

楽譜を音にするのは、楽譜を読んだ結果を音にしているに過ぎません。

ある意味、劣化コピーと言えるのかもしれません。

 

 

  スタイル、語法

 

さて、書いてなくてもそう演奏するのが当たり前のこと、つまり、

その音楽のスタイルや語法に関わること。

これをわざわざ書いてしまうと、そして、それを見て演奏するのが当たり前になってしまうと、

それってすなわち、『楽譜を音にする』になってしまうということだと思うのです。

書いていなければそう演奏しなくなる、『楽譜に書いてあるからそう演奏する』、になっていく…

これってつまり、そのスタイルの『死』を意味すると言っても過言ではないのかもしれません。

ひとつのスタイル、ひとつの語法、ひとつの文化が死ぬということなのかもしれません。

よく『言葉の乱れ』なんていうことを言う人がいますが、ある意味、それと同じなのかも…

これが、書かない方がいい、書くべきではない、もうひとつの理由です。

 

書いてなくてもそう演奏するのが当たり前の、語法やスタイルに関すること、

これは楽譜に書くべきではない、そんなふうに思うのです。

なにを書くべきで、なにを書くべきではないのか、これ、とても考えますよね。

そのためには、その音楽のスタイルをわかっている必要がある。

 

さて、みなさんはどう思われますか。