くに楽 2

"日々是好日" ならいいのにね

日々(ひび)徒然(つれづれ) 第四十六話

2021-01-26 09:23:15 | はらだおさむ氏コーナー

この夏のむかぶ(向伏)すに・・・

                        

  七月になった。

  まだ雨雲は列島全土を厚く覆っているが、旬日も経ず真夏の太陽が顔を出してくることだろう。

  無観客だが、野球もサッカーもはじまった。

  エンゼルスの大谷選手は「We‘re back!(戻ってきたぞ!)」と喜びの声をあげ、マジョルカの日本代表MF久保建英(19)は連戦フル出場を果たして、ジダン監督などからその将来を大きく期待されてきている。

 

  ところで、この表題「むかぶ(向伏)す」とは何ぞや・・・。

  「向こう」「むかふ」でもいいのだが、少し気にそぐわず辞書を開くと、この言葉「向伏す(むかぶす)」が出てきた。

  万葉集巻五雑歌に「雨雲の向伏す極み・・・」があり、「向こうの方に遠く低く伏したように見える」さまを言うようだ。

  日本でのコロナ対策は手ぬるいのか・・・東京の患者増はまだ「向伏す極み」を見据えることが出来ない。

 

  先月末、上海在住数十年の友人から日本人の撮ったドキュメンタリー「好久不見、武漢(ハオチュープジエン、ウウハン)」の案内があった。

  観ること一時間余、以下はその返信である。

  「なんのケレン味もなく、若い方たちとの交流のなかで武漢の方たちのいまが映じられていて、素晴らしかったです」

  この時点で中国でのヒット数は一千万回を超え三位であったそうだが、数日後にはその倍を超えダントツ。

  わたしはその翌日からユーチューブで日本語字幕付きも見たが、初回のヒット数は数万、二日後にはその十倍を記録している(日中ともそのヒット数は6月末現在)。

 

  日本語字幕付きにはつぎのあいさつが付されていた。           「南京市に七年暮らす日本人ドキュメンタリー監督の竹内亮氏は『今は一分ほどのショート動画を好む人が多いのに、この約一時間の作品を見てくれる人はいるのだろうかと不安を感じながら、自身のドキュメンタリー新作<お久しぶりです、好久不見、武漢>の配信スタートを迎えた』と」

 なぜヒットしているのか!

 フィルムのなかで地元の住人が語るように、世界中の人でもう「武漢」を知らない人は、いなくなった!

 竹内さんは南京で社員十数人ほどのドキュメンタリー制作会社を経営しているが、六月一日武漢に出立するとき同行スタッフのなかで何人かは家族に行き先を伏せていたという。

中国の人でもそうなんだ、海鮮市場で?蝙蝠のウイルスが? その隠された?疑惑に包まれた?まち、武漢のいまを映像で伝える。

出発の一か月前から公募して百人以上の応募者から十人に絞り、一日ひとり一話として、インタビュアー役の竹内さんはヘヤ―カットして若づくり(三十代後半とわたしには見えた)、ときには泣かせながら心の奥底にひそむホンネをひきずりださせている。

一月末の武漢の高速道路、一日一日と交通量が減っていくドローンからの映像、これも二十代の女性の“まちとこころの探検家”の提供。

日本に留学八年、修士さまの「日本料理店」、四カ月ぶりの営業再開。仕入れに同行、「近代的な」“あの”海鮮市場を通り過ぎ、ここが発生源なんて千分の一もないと。夜 提灯に灯がともり、これから一年が勝負、一級調理師は給料カットで辞めた、武漢の飲食業の半分はダメだろうなぁと腹をくくるマスター。

地方から武漢に出てきた歌と踊りの好きな、まだ三年目の看護師(見習い?)。コロナまではいつ辞めようかとも思っていたらしいが、この騒ぎに巻き込まれて患者さんを慰める自分の役割に気づき・・・、そのひとの持病が悪化して死亡。泣き出す彼女、撮り続けるカメラ、撮るのを止めて~と哀願するそのシーン!

  田舎から出てきた友達と長江ほとりの黄鶴楼へ一緒に行く。

  エレベータは禁止で階段をフーフーと、上がる。             (わたしも三十年ほど前、近くの酒店から見上げた)            カメラは長江から、アングルはひとしきり周囲のマンションの屋上の緑のカーペット、家庭菜園をつぎつぎと映し続ける。日常の商品は注文すればマンションまで野菜でもなんでも運んでくれたのよ~、と。カメラを追っていた彼女たちはこんな言葉は知らないだろうが、“自力更生、刻苦奮闘”と心の中で叫びながら、家庭菜園造りに励んでいた老人たちもいたことであろうことよ。

 

  「故人西辞黄鶴楼」ではじまる李白の有名な詩がある。

  竹内実先生の訳文を付し、わたしも武漢と別れることにしよう。

  =わが友はここ、黄鶴楼でわかれを告げ、旅立つ。長江のながれのように、西から東への旅だ。燃えるように赤い桃の花が咲いている。かすみが、たなびいている。春三月、揚州へゆくのだ。孤独なひとり旅だ。友が乗った船もつれがなく、たった一艘で、帆をあげた。しだいに遠くなり、碧空あとは長江が天のはてまで、ながれている。=竹内実編著「岩波 漢詩紀行辞典」

 

  習近平政権は香港住民と国際世論も無視して「香港国家安全維持法」を成立させ、カバンの中の「香港独立」の紙を見つけては、学生たちを逮捕した。

  「透ける党内権力闘争」(6月25日「日経」朝・北京)、何があるのか分からないのが“政治の世界”、ことは中国だけではない、日本でも、アメリカでも・・・。

  いまやコロナ対策の失敗で、揺れ動くアメリカをはじめとする国々、コロナは抑え込んだが経済の立て直しに苦慮する欧州諸国。これからその旋風に巻き込まれそうな南米とアフリカの諸国・・・。

 

  コロナ騒ぎで在宅テレワークやズーム学習など聞きなれぬことばが紙面に定着、わたしはひと月ほどリモート合唱のとりこになっていた。

  日本語学校の先生をしているむかしの同僚と久しぶりにメール交歓。

  緊急事態宣言が解除されるまでは、ズームを使ってのリモート授業ばかりで、眼も疲れて医者通い。いまは在校生とは対面授業となっているが、新入生でまだ入国できぬ学生にはリモートの学習を続けている由。

  「ベトナムの学生が多いのですが・・・つながると、いろんな騒音に交じって、鶏の鳴き声が聞こえてきて、とてもローカルな感じがします」

  そうか、ベトナムの田舎からも日本留学を目指してがんばっている青年たちがいるのだと、こころが和む。

 

  この夏の向伏すは、いまだ定かには見通せないが、人類はこれまでも数々の悪疫と戦い、乗り越えてきた。その英知の結集こそがコロナ撃滅のみちのりとなるのだ!

 

  ・・・雨雲の 向伏す極み たにぐくの さ渡る極み 聞こしおす・・ (万葉集巻五雑)                  

                (二〇二〇年七月三日記)     



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