【AP.2020】魔法少年イツキくん ~地球防衛軍の一日~⑥ | 想像の箱庭‐SHU_ZENの書き溜め小説

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全部まとめてフィクション、同じ世界観のファンタジー小説です!
毎週、週末にドカン!と更新しています。

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  * * * *


 暫く走り、ようやく背中の上から声がする。


「……この辺りでいいわ、イツキ

「……起きてただろ

「ええ、感電はしたけれど」


 たどりついたのは、船のへり。
 葉巻の一番後ろだ。――どういう理屈か、空気の層がなんとなく『そこまで』で途切れているのがわかる。目の前に青々と広がる地球……。


なるほど、狸寝入りもここまでくると特技だ。誇るといい副司令

「黙ってメガプロ。ちょっと……あなたを父だと思って文句を言っていい?」

『普段なら拒否するが、どうぞ?』


 ――後ろで火柱が上がる。
 うわ、確かにあの飛び散ってるの、ナポリタンだ!?


「……さよならも言わせないなんて、どうかしてる」


 ミコトはぼそりと呟いた。


「初めてあなたをクソだと思ったわ」

『そうかい』

「……成長を感じなさい、遅れてやってきた反抗期がこれよ」

『やれやれミコト、皮肉や悪口くらい素直に言ったらどうだ。まあ……ゴネると思ったんだろう。あと、君を見ていると死ねなくなる』


 『あれは機械ではないからな!』――と茶々を入れる眼鏡だったけれど、お前も充分機械には見えない。
 やっぱり新種の眼鏡型ナマモノだ。そうに違いない。

 ミコトは苦笑いする。


「……そうね、普段のエイリアンたちはなぜか生体保存にこだわってるから、どうにか渡り合ってるようなものだもの」


 先ほどまでいた廊下が崩れてきた。
 溢れるナポリタンで黒い壁が次々と溶解していく。


これを機に本気で殺しにきたら、きっと勝ち目はないわ。SJMで保護しても、すぐに命がなくなるのがオチね……なら、こう言うしかなさそう」


 ミコトは名残惜しそうにオレの背中を押しながら、船のハッチを飛び出した。


「……さよなら、あなたに会えてよかったわ、お父さん


 ――ドゴォ!! と船が爆発した瞬間、「クソで悪かったな――!?」と聞こえた。

 うん、ちょっと待って。
 生きてる。あれ、多分生きてるぞ。


『うん? 地球が近く見えたのは光の屈折だったか? ……まずいぞミコ……違う、副司令。落下こそしているが、想定よりも大気圏内に入るまでの時間が長い!』

「それ、何が問題?」


 ミコトは答えず、少し目をほそめただけだ。
 ケツを叩いて発射されたときもそうだったけど、どうも特殊な宇宙服は必要ないらしい。


『……副指令の体は、おしるこ発射装置の他、圧力と温度の自動調節機能がついてるのは前に言ったな、イツキくん

「うん」


 ……来た時より随分高度が上がっていたらしい葉巻型UFO(現在は黒こげナポリタン)。
 眼下に広がって見える青い星は、もはや怖いというより綺麗だった。


『……これは、生身で宇宙空間に放り出されたときのことを想定して君にも付いている機能だ。だが君にはあっても現在、まだ彼女についていない機能が一つある。今まで戦闘員だった君を優先にして後回しにしてきたんだ』

あ、まさか


 落ちてはいるけどまだかなりの高さだ。思っていたより落下スピードは遅い。
 ……一言も喋らないミコトが、意外なほど余裕を持って片手で「ご想像の通りよ」と丸を作る様子を見、ようやく察する。

 オレの衣装がひらひらなわけを。
 もっと言えば――オレの以前の手の先のように、新緑の色をしているわけを。




『……酸素の供給だよ』



 この衣装、葉っぱだった――――!?


『君の体は今、背後から照りつけている太陽光と、肺から吐き出した二酸化炭素を受けて光合成しているんだ。酸素を作っているんだYO、それもきっかり一人分だけね!


 何という葉緑素万能説。
 そして何という因果――どこの世界に行っても光合成してるんだね、オレ!?


「その酸素、分ける方法は!?」

『……あるにはあるが、いいのかイツキくん。メンタルの影響か、君の血中酸素は今、息を止めている副指令より少ない。妙に息が浅いのだよ。君の意識はここでさよならしてしまうぞ』

「いいから教えてよ、クソ眼鏡!!」


 ……意外と楽しい夢だった、と思う。
 だって、オレから見てこの世界が、「接点のないもしもの世界」――夢や幻と変わらないとしても。逆にこの世界から見て、オレがあるはずのなかった『もしもの植苗イツキ』だったとしても。


「……メガプロさん、どうせオレは、この世界から見て夢の中の住人と変わらないんだろ。繋がるはずもなかった場所から迷い込んできた、呼ばれてきただけの日替わりイツキくんだ」

「……」


 ミコトがこちらを見た。
 何かを訴えかけるような表情で。


「……だったら、昨日のそれと変わらずに、やることはきちんとやるよ。昨日、何したかは知らないけどね」


 ――どうせ、悲劇のヒロイン真っ逆さまな「目の前の誰かさん」を守ったりしたんだろう。

 ああ、頷ける。
 「オレしかいなかった」

 ……だって必要最低限だ。ビビりのオレがしそうなことなんて、逆にいうとそれぐらいしか見当たらないだろ?

 そのオレがたとえ、ミコトという子を知らなかったとしても。
 それでもきっと、やることは変わらなかったはずだ。

 後ろに弱者がいれば、できるだけ踏ん張る。いなきゃ逃げる。――それだけだった。



『なら――口だ、イツキくん』


 眼鏡はなぜかドヤ声で言った。


『――君の酸素は、口から出る』



  * * * *



「……意外と躊躇なく私の唇を奪っていったわ、こいつ


 ――長いキスだった。
 そんな気がする。

 メガプロがせせら笑うように言った。


『心拍数からして心の中で全力ツッコミしていたがね!』


 「それ、キスしろってことだよねえええええ!!!?」
 ……とでも言いたげだった顔を思い出して、少しクスッとくる。

 まあ、実際は間髪入れずに「ごめん」とチューをされたわけだけれど。


「……あーあ……」


 ……高度3万7千フィート。
 ちょっと高い航空機並みの高さまで降下してきた私は――ポニーテールをなびかせて、ようやく少しだけ口を離して笑った。
 呼吸するにはまだまだ酸素は薄い。

 けれど――私の顔にどうにか収まった眼鏡が、風に煽られながらつられて笑う。


あれは毎度変わらないな! 大方、困っている弱者は見過ごせない小市民なのだろう!

さらにいえば、今日のイツキは普段より肝がすわっていたわ! 変わらないどころかパワーアップしてるじゃない!


 ……2万2千フィート。
 周囲の酸素濃度がようやく安定した私は彼から完全に口を離す。


「……今日の、か……」

『おっと、なんだ副司令。鼻がしょっぱいぞ

「……あなたどこに味覚センサーついてるのよ」


 ようやくイツキの尻を幾度かペンペンしつつ自由落下の衝撃を和らげている私に、メガプロは返事を返す。


『む、知らなかったか? パット部分だ。つまり君に眼鏡としてかけられている間はずっと小鼻をレロレロしている!

「……激しく気持ち悪いから聞かなかったことにします……」

『……まあ、そう……』


 困ったように眼鏡は言う。


『……別れは毎回泣くからな、君は

ええ、毎日忘れるだけだと思ってた


 同一人物が、毎度律儀に記憶を喪失する。
 ……それだけなんだと思っていた。


 そう……思い込んでいたかった。

 いつかきっと、その記憶は「戻る」のだと。


「……ひどいと思わない?

『……少しは思うさ


 ……毎日彼は、なんだかんだと文句ばかり言いながら私を救ってきた。
 くだらない命の危機から。くだらない復讐と自殺行為から。

 そんな細切れの毎日が、いつかまた、語り合えるのだと思っていた。


「……ねえ……それ、どんな確率よメガプロ。細切れだったのは毎日じゃなくて精神の方じゃない……いくつもの『もしも』の欠片を束ねて、それで蘇生とする? それで全部覚えてるなんてとんだ低確率、とても信じていられる気がしないわ!」

『だろうな』


 メガプロはからかうように呟いた。


命を救われた瞬間の女の子なんて、案外チョロいものだ!


 そう、なぜか、私は毎日――何かしらの形で命を救われる。
 まるで決まったノルマのように命を救われて――


「……私は毎日、恋をする

『ああ』

「あの人が私に聞かせようとしなかったのは、そのせいでしょう?」

『……だろうな、毎日失恋が追加されたようなものではある』


 困っている弱者を放っておけない小市民。ああ、言い得て妙だ。
 だって彼は、初めて会った時から――


  ――「目で言われても、なかなか分からないよ」


 あの、今日も『UMAKOSHI』がいた市街地で。
 崩れた瓦礫をどかしながら私に手を差し伸べたときから。


  ――「……君が誰だかなんて、よく知らないけれど……助けてって一言くらい、ちゃんと言わなきゃ駄目じゃないか」


 そう、1人目だったときから。
 根本は変わらない。


「……そうね、今更だったわ」


 ……流れてくる涙を拭う。
 残念ながら、息をしている――今日も私の心は生きている。イツキと違って、メガプロと違って。
 ――血が通って、動き、鼓動を感じる。


「……私は毎日、恋をする。きっとあなたと同じだよ、メガプロ。私は自分の意思でここにいて、自分の心を育てているの。押し付けられたものでもなければ、比喩でもない。紛れもなく自分の夢を燃やして、本物の恋をしている

「めっちゃ可愛い副司令――――!!」


 その時、ようやく近付いてきた地面から怒鳴り声が響いた。


「ケンタウロスが――――!! ペガユニタウロスとかいう中途半端な形態に――――!!」

「……何よイヌカイさん、それ、ツノ生えてるのか羽が生えてるのかケンタウロスなのかどれなのよ……」


 まったく、毎度湿っぽい空気を台無しにしてくれるゴリキュアさんだ。


『ほう、留守の間に第三形態らしい。そのまま飛んでくるぞ副司令。行けるか?

「……了解、このまま寝てるイツキをぶっ叩いて応戦するわ


 おやすみなさい、イツキ。

 願わくば――


寝てるのを乗り物として扱うけど! このまま次のイツキが起きたら説明お願いね、メガプロ!」

『善処はしよう、副司令!』


 ――明日も、私と一緒にいい夢を。


「……ねえメガプロ、今気付いたけどこいつ、お尻に内出血ができてるわ



 ……いい、恋の夢を。



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原作↓
「世界創造××(ブログ版)」
「世界創造×× ~誰かが紡ぐ物語~(小説家になろうリメイク版)」