映画『キングスマン:ファースト・エージェント』感想

白黒イラスト素材【シルエットAC】

映画『キングスマン:ファースト・エージェント』チラシ2

過去日記を絶賛消化中…
ようやく2021年最後……


1回目は会社の都合で公開延期になり、2回目はコロナ禍で延期になっていた続編が、ようやく公開…!
主人公をレイフ・ファインズがつとめており、『007』シリーズでMの後任役を演じているので……混ぜるな危険?(笑)

一作目『キングスマン(以下、キングスマン)』は現代イギリスを舞台にした「格差社会」をコミカルかつアクションに仕上げた、社会風刺、問題提起としても娯楽としても面白かった一作。
二作目『キングスマン:ゴールデン・サークル(以下、ゴールデン・サークル)』はアメリカを舞台に「依存症問題」をテーマにしていたようだが…何だか中途半端感が否めなかった。

三作目となる今作『キングスマン:ファースト・エージェント(以下、ファースト・エージェント)』は、一作目の前日譚。
『キングスマン』の冒頭でコリン・ファース演じるハリー(コードネーム:ガラハッド)が言った「後継者がいない貴族の遺産によって設立された」キングスマン創設の物語。
舞台は第一次世界大戦前夜のヨーロッパ。イギリス、ドイツ、ロシア。

史実を織り交ぜた冒険活劇

この三国の王、皇帝がエリザベス女王の孫にあたるので、「第一次大戦は壮大な従兄弟喧嘩」というのは言い得て妙だった(※1)。
それまでの戦争とは異なる長期(泥沼)戦……銃火器が一般兵にも普及し、広範囲の塹壕戦と砲弾とびかう戦場となった事……
実際の写真や映像を大げさに加工しているけれど、短い尺の中で端的に示していた。

世界史を動かした人物たちが秘密結社のメンバーとして現れる(よくある陰謀論的な展開!)。
怪僧ラスプーチンは宣伝にも出てきていたが、第一次大戦の引き金となるサラエボ事件のプリンチップ(※2)、レーニンに女スパイの代名詞マタ・ハリ(※3)など。
史実の登場人物の容姿は似せているので、観ていて史実と比較してワクワクしてしまう…マタ・ハリはあまり似せていなかったけど。

ラスプーチン(※4)はギャグ枠で一番?活躍していた。
『キングスマン』の時はイギリスの作曲家・エルガーの〈威風堂々〉に合わせて頭が爆発していたが、今回はチャイコフスキー〈1812年(序曲)〉に合わせて、コサックダンスと美しいバレエのシェネを見せながら戦闘……

政治外交の駆け引きにイデオロギー(民族主義や右派、左派)による革命などの影響はヴィジュアルなどで端的に示し、『1917』や、時代は違えど『プライベートライアン』などを彷彿させる前線での塹壕戦という、盛りだくさんの描写だった。
キングスマンが築いた独自諜報網――メイドや執事が諜報部員として暗躍しているところ――も興味深かった。スパイアイテムが大活躍。ポットの中にカメラや小型蓄音機が仕込んであった。……これ当時、本当にあったのかな?スパイの歴史については浅学なので、ちょっと分からなかった。

ノブレス・オブリージュ

出兵に拘るコンラッド。
それは冒頭で会話する、イカロス失墜の暗喩にあるような、若気の至りや戦争に対する義憤だけが原因ではないように思う。
ノブレス・オブリージュ(※5)……伝統的な貴族の義務の一環として、兵役に出る事を求められる事が、コンラッドの焦燥感の一因ではないか、と思ってしまった。
大雑把に言ってしまうと、貴族のルーツは封建領主、領民を守る騎士(この辺りは日本の武士にも通じる)。
公務のために惜しみなくお金を使う、慈善活動への寄付も貴族の義務。その中で特に重要な位置を占めたのが軍務。
そして、第一次大戦では貴族階級が戦闘で多く犠牲になった。1914年に50歳未満の上院貴族とその息子で戦場に出た者の死亡率は18.95%に上ったとの事……

現実では、戦後、上記理由と国家と市民の力が強くなり税制の変更など色々あって、貴族はその土地や城、財産を手放さざるを得なくなったり、その莫大な資産を維持するために一般に公開したり映画の撮影現場に使われている。
今回の『ファースト・エージェント』で使われた城(※6)も、こういった理由で公開されているもののひとつなのかも知れない。

オーランド公の願いも虚しく、コンラッドは前線で死んでしまう……それも敵兵と闘って、ではなく、誤解から味方に射殺されてしまうという後味の悪い理由で。それでもその死を無駄にしない物語の筋立てがまた何とも言えなくするのだが……

こうして“後継者がいない貴族の遺産を基に設立された独立した諜報機関”の布石を回収していた。

塹壕戦

貴族階級が戦闘で多く犠牲になった原因…第一次、第二次共に世界大戦で特筆すべき、長期にわたる塹壕戦とその悲惨さ。
これがきっかけで兵器開発は進み、戦車や航空機による爆撃が発達していったのだが、それは別の話なので割愛。

『ファースト・エージェント』でも、端的に塹壕戦の悲惨さが伝わる描写だった。身分を偽って前線に赴いたコンラッドの視点で描かれる。

事の発端は、ドイツとイギリスがにらみ合う塹壕だらけの前線の真ん中で、イギリスのスパイがドイツの機密を保持したまま被弾。そこは互いの機関銃やライフルが向けられ、動く影があれば問答無用で銃撃戦になる状態。
双方、夜中に機密を確保しようと動き出し、同じ頭数で会敵してしまう。
発泡しようものなら、その音や光で後方から援護射撃を互いに受けてしまい、被弾して蜂の巣になってしまう…
互いに携行火器を手放し、ナイフを装備し白兵戦にもつれ込む。
月夜の中で一瞬の差でナイフで切り裂かれ、刺され、苦悶の声がする。
コンラッドも応戦していく中で、ガスマスクで顔が見えないドイツ兵を追い詰めるが、その時、ガスマスクが外れる。
それまで顔が見えず“人外”のような存在だった兵士が、同じ“人間”であると認識する。
それも自分と年端も変わらない、白人の青年。「待て、待て」と命乞いしてくる傍で、味方の喉をドイツ兵が切り裂いている。
一瞬の躊躇のあと、謝りながら殺害するが、別のドイツ兵が襲ってくる。
追い詰められたコンラッドを助けるために、やむなく軍曹が発砲してしまう。
互いの塹壕では闇夜の物音の中で緊張が高まっていた中で見えるノズルフラッシュに、反射的に発砲する。
敵も味方も関係なく、ドイツ兵もイギリス兵(軍曹)は銃弾を受けて、コンラッドの目の前で死んでしまう。
阿鼻叫喚の様。
銃弾の雨と照明弾や榴弾が飛び交う中を走り抜けるシーンは死の恐怖を感じさせながらも、明滅で幻想的な雰囲気があった。

映画『キングスマン:ファースト・エージェント』チラシ1

時事ネタと陰謀論

黒幕はイギリスもといイングランドにとって身近な……スコットランド人によるものだった。
貧富の格差、労働者と資本家の対立に起因し、歴史をさかのぼってイングランドに搾取された、という認識を持っていた。
日本にいるとその感覚が乏しいが、イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド(3つでグレートブリテン)と北アイルランドで構成された連合王国。
『キングスマン』での富裕層と貧困層の対比・対立の延長――資本家と労働者――を汲んでいる。第一次大戦後にイングランドとスコットランドでは貧富の差が拡大したらしい。ちょっと時間軸が合わないが。
それに映画撮影時、イギリスのEU離脱(ブレグジット)に揺れ、それに合わせて(EU残留派が多数だった)スコットランドで独立機運が高まっていた頃だったから、時事をも反映したストーリーだった。

ラストの二番底(エンドロール)に、やっぱり出てくるキャラクター!ヒトラー。
やっぱり現代まで続く戦後体制に至る、第二次大戦を描くことは避けて通れない……つまり続編を期待。
……紳士活躍できるかな?

史実とフィクションが織り交ざっていて面白いのだが、リアリティある映像のインパクトも相まって“引っ張られて”しまいそうになるので、自戒を込めて、以下。


…うーん、どこまでも秘密結社陰謀論だった。陰謀論はフィクションだ。
そんな組織だった動きをみせず、おのおの個人プレイでしかないのも、そのためだ。
「誰が一番得をしたか」と考えるのは陰謀論に陥りやすい。フェイクニュースで情報戦が繰り広げられている昨今。
それが分断を招いている一因となっている昨今。
ファースト・エージェント(フィクション)』を通して世界史の動きを学びつつ、映画が全てではないので史実を知るべく、本を読みたくなる。
私が学んだ義務教育では、現代に繋がる部分である近代~現代が物凄く短い時間で詰め込まれてしまい、現代への繋がりを理解する前に、多地域で同時進行で進む事象に混乱してしまった記憶しかない……
社会人になってから、社会に関わるようになってこうした事に納得して、勉強しなおしたいと思う。
昨今、“教養”に関する本が注目されるのも頷ける。……本来なら義務教育でもうちょっと近現代史に力を入れる(時間を割く)べきなのでは?

続編

『ゴールデン・サークル』は私個人としては深く楽しめなかったが、今回の『ファースト・エージェント』は大満足だった。
早くも続編制作の話が出ているらしい(※7)。‘キングスマン・エージェンシーの最初の10年間を、本作の最後に登場したキャラクターたちで描くものになります(※8)’との事。
そうなると、第二次世界大戦のt対ナチ諜報活動では無いのか。ミンスミート作戦(※9)は映画化したし、アン・プホル・ガルシア(※10)が活躍しそうと思ったのだが。
それは無さそうだ。

  1. 同上
  2. 第二次世界大戦中の1943年、イギリス軍が対ナチス・ドイツに行い、非常な成功を収めた欺瞞作戦。2022年、映画化した。

参考文献
小林章夫『イギリス貴族
イギリス貴族 (講談社学術文庫)
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田中亮三『英国貴族の暮らし
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