「ねえオジサンあたしのママのこと知ってます」

 

「知らないよ。出版の仕事やってるんだっけ」

 

「違うの。そのママじゃなくて、あたしを産んでくれたママ」

 

「そんな話はじめて聞いたんだからわかるわけないじゃない」

 

僕はごちそうしてくれたお返しに女の子を食事に誘った。

 

といっても、行きつけの中華屋だけれど。

 

中華屋といっても、円卓テーブルの中華料理店ではない。

 

俗にいうラーメン屋だ。

 

「そうかなあ、知ってるはずなんだけどなあ」

 

「今の親御さんは実の親じゃないんだ」

 

「里親ってやつ」

 

「あたし小さいころ施設にいたんです。ぽとんど記憶はないんだけど」

 

「普通そういう場合、わかってても実の母親とか教えてくれないんじゃなかった」

 

「普通はね」

 

「でも当時あたしが持っていたものとかは渡してくれるの」

 

「お母さんにつながる物とかあったの」

 

女の子はニヤリと笑った。

 

テーブルにはギョーザとチャーハン、ラーメンが並んでいる。

 

そしてかに玉。

 

「こんなに食べられるかな」

 

「少しづつ食べればいいよ」

 

主人が取り皿を用意してくれた。

 

「かに玉をチャーハンにのせても美味しいんだ」

 

「天津飯」

 

「それは白ごはんだけどね」

 

「そういえば、みなづきって本名なの」

 

「本名だよ」

 

「ひらがなのみなづき」

 

「違う。カタカナだよ」

 

「でもこの前は…」僕は途中で言葉を飲みこんだ。どっちでもいいことだし。

 

「お母さんがつけてくれたんだっけ」

 

「そう。産んでくれたお母さんがつけてくれたの」

 

「もしかしてそれ、そのお母さんの名前なんじゃない」

 

「やっぱりママのこと知ってるんだ」

 

女の子は微笑みながら皿のよそったチャーハンの上にかに玉をのせた。