今回はGlen Dacosta & The Wailersのアルバム

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「Serenade Of Love」です。

Glen Dacostaは70年代から活躍する
サックス奏者です。
70年代は世界的に活躍したレゲエ・
バンドZap Powのサックス奏者として知ら
れ、80年代以降はソロとして活動した
ほか、Bob Marley亡き後のThe Wailers
Bandでサックス奏者として活動した事でも
知られています。

ネットのDiscogsによると、1979年に
「Mind Blowing Melody」、85年に今回
の「Serenade Of Love」という2枚の
アルバムと、3枚ぐらいのシングル盤を
残しています。

The Wailersはその時代ごとにコーラス・
グループやレゲエ・バンド、バック・
バンドなど、様々な顔を持っている
グループです。

その誕生は60年代のスカの時代で、
63年に男女混成6人組のStudio Oneの
コーラス・グループとして誕生しました。
その後3人のメンバーが抜け、残った
Bob MarleyとPeter Tosh、Bunny Wailer
(Bunny Livingston)の3人組コーラス・
グループとなり、「Simmer Down」などの
ヒットでStudio Oneの人気コーラス・
グループに成長します。

その後ロックステディ→ルーツ・レゲエ
と時代が進むうちに、リズム隊のBarrett
兄弟なども加えたバンド形式の5人組
グループThe Wailersへと変化して行き
ます。
そしてレゲエの時代となった73年に
メジャー・レーベルIslandと契約し、
アルバム「Catch A Fire」で念願の
世界デビューを果たします。

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The Wailers - Catch A Fire (1973)

ところが世界デビュー2枚目のアルバム
「Burnin'」をリリースしたところで、
Bunny WailerとPeter Toshがグループを
脱退してしまいます。
その理由は世界を回るツアーの辛さの為
だとも、Islandが「白人にも解る音楽を」
という要求をし、二人がそれに反発した
為だとも言われています。

残されたBob Marleyはその後グループ名を
Bob Marley & The Wailersと改名し、
The Wailersという名前はBarrett兄弟を
中心としたバック・バンドの名前へと
変わって行きます。
そしてBob Marley & The Wailersは
レゲエという音楽を世界に広める活躍を
しますが、中心人物だったBob Marleyが
81年にガンの為に死去し、Bob Marley
& The Wailersとしての活動はそこで
終わってしまいます。

アーティスト特集 Bob Marley (ボブ・マーリー)

ただ残されたメンバーはBarrett兄弟を
中心にその後も活動を続け、日本の
シンガーのジョー山中さんや、アフリカ
のレゲエ・シンガーAlpha Blondy、そして
今回のサックス奏者Glen Dacostaの
アルバムなど、多くのアーティストの
バックを務め活動を続けています。

その後中心だったドラマーのCarlton
Barrettが87年に自宅前で殺されるなど
の悲劇に見舞われますが、兄でベースの
Aston 'Family Man' Barrettを中心にその
後も活動を続け、2018年にはAlborosie
との共演作「Unbreakable」をリリースする
など、近年まで積極的に活動を続けていま
す。

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Alborosie Meets The Wailers United – Unbreakable (2018)

ちなみにBob Marleyの死後のバンドは、
それまでと区別するためにThe Wailers
Bandという呼び方をする事があります。

このバンドに関してはネットのDiscogsの
記述はかなり混乱していて、ハッキリした
枚数は言いかねますが、Bob Marleyの死後
共演盤を含めて20枚以上のアルバムを
残しているようです。

今回のアルバムは1985年にUKの
Vista Soundsレーベルからリリースされた
Glen DacostaとThe Wailers Bandの共演
アルバムです。

ジャマイカのキングストンにあるChannel
One Studiosで録音されたアルバムで、
プロデュースはBunny 'Striker' Leeと
なっています。
The WailersというとBob Marleyのバック
としてかなり強烈な攻撃的なイメージの
強いバンドですが、曲のタイトルに
「Love(愛)」や「Lovers(恋人)」など
の文字が並ぶように、Glen Dacostaの
スウィートなサックスを中心としたかなり
メローなサウンドのインスト・アルバムと
なっています。

手に入れたのはVista Soundsからリリース
されたLP(新盤)でした。

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。

詳細なミュージシャンの表記はありま
せんが、裏ジャケにはジャケット・
デザインとレコーディング、プロデュース
に関する次のような記述があります。

Recorded at Channel 1 Studios, Produced by
Bunny 'Striker' Lee for Vista Sounds.

Sleeve by Slane

これによるとレコーディングはジャマイカ
のキングストンにあるChannel One Studios
で行われ、プロデュースはVista Soundsの
Bunny 'Striker' Leeで、ジャケット・
デザインがSlaneだった事が解ります。

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裏ジャケ

またこのアルバムの翌年の86年には
The Wailersはアフリカのコートジボワール
出身のレゲエ・シンガーAlpha Blondyの
バックを務めた「Jérusalem」という
アルバムをリリースしています。

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Alpha Blondy And The Wailers – Jérusalem (1986)

この時のメンバーを書き出してみると、
以下のようになります。

Lead Vocal: Alpha Blondy
Bass: Aston 'Family Man' Barrett
Drums: Carlton Barrett
Keyboards: Georges Kouakou, Earl 'Wire' Lindo
Rhythm Guitar: Earl 'Chinna' Smith, Owen 'Dready' Reid
Lead Guitar: Junior Marvin
Percussions: Sticky, Scully
Hornes: David Madden, Calvin 'Bubbles' Cameron, Glen DaCosta
Backing Vocals: Lorna Wairwright, Marcia 'Pinky' Higgs,
Dahlia Lyons, Georgia 'Pat' Higgs, Olive 'Senya' Grant

興味深いのはこの時のメンバーのホーン陣
にGlen Dacostaが参加している点で、
もしかしたらこのメンバーに近いメンバー
が今回の録音にも参加していたのかもしれ
ません。
一応参考程度に見ておいてください。

さて今回のアルバムですが、このアルバム
は私が初めにレゲエを聴いていた20代
から30代にかけての頃に購入した
アルバムで、当時はおそらくThe Wailers
という名前につられて購入したアルバム
でしたが、そのあまりのBob Marleyの居た
時代と違うThe Wailersのメローさに、
すごくビックリした記憶のあるアルバム
でした(笑)。

当時はThe Wailersというと、Bob Marleyの
バックとしてかなりロック色の強いハード
コアな演奏をしているイメージがあったん
ですね。
それがこのアルバムではGlen Dacostaの
「むせび泣くようなサックス」に合わせた
メローな演奏をしていたので、それまで
Bob Marleyの演奏を聴いて来た人間として
は、逆の意味でかなり衝撃的でした。
当時の私はこれがThe Wailersを名乗る
バンドの演奏だとは、どうしても素直に
受け取れなかったんですね。

その後私は徐々にレゲエという音楽から
遠ざかり、永くレゲエを聴かない時代が
続きました。
私がレゲエという音楽を再び聴き始めるの
は、2010年頃の事となります。

このアルバムが私がレゲエを聴かなく
なったきっかけのアルバムという訳では
ありませんが、このアルバムは私の心の中
で、ずっと宙ぶらりんで引っかかったまま
のアルバムでした。
そして久々にこのアルバムを引っ張り出し
て再び聴いてみましたが、やはりその感想
はちょっと「微妙」なアルバムという感じ
でした(笑)。

そのひとつに理由がこのアルバムが85年
というジャマイカのレゲエがアーリー・
ダンスホール・レゲエからデジタルの
ダンスホール・レゲエに切り替わる端境期
に作られたにもかかわらず、あまりその
匂いが感じられない点にあります。
アーリー・ダンスホールの時代はスローな
ワン・ドロップのリズムが大流行した時代
でしたが、あまりワン・ドロップの曲は
無く、かえって70年代に流行した攻撃的
なミリタント・ビートの曲があったりする
んですね。

どうもその理由はGlen Dacostaの属して
いたグループZap Powや、Bob Marleyの
バックを務めていたThe Wailersが世界の
市場で活躍していた為と思われます。
どちらのグループも世界で活躍していた為
か、あまりジャマイカのトレンドに沿った
音作りをしていないんですね。
ある意味それは仕方の無い事かもしれま
せんが、時間が経った今の時代になると、
その時代を感じさせるジャマイカの
トレンドを持った音楽の方が面白く感じて
しまうところがあります。

またもう一つ気になるのが、Bob Marleyの
元で攻撃的な70年代のビートでバックを
務めていたThe Wailersのビートが、この
ムーディーなアルバムに合っているのか?
という点です。
特にSide 1の1曲目「New Found Love」
では70年代に流行した攻撃的な
ミリタント・ビートの演奏で、ムーディー
な演奏と微妙な違和感を感じました。
また全編レゲエらしいチャカチャカとした
ギターが入っていますが、そのあたりも
気にしだすとちょっと気になります。

ただこの時代のThe WailersはBob Marley
という絶対的な主(あるじ)を失って、
その方向性に迷いがあった時代という気が
します。
Bob Marleyが居なくなってからのこの
The Wailers Bandの履歴をネットのDiscogs
で見てみると、82年に日本のシンガーの
ジョー山中さんの「Reggae Vibration」、
同じ82年に白人女性と黒人男性のコンビ
とみられるDonald & Luluの「Beautiful
Garden」というアルバムをリリースして
います。
日本のジョー山中さんとのコラボというの
は私たち日本人からすると嬉しい気がしま
すが、正直なところちょっとレゲエの
メインストリームからは外れた活動という
印象なんですね。
そのあたりは主を失い方向性に迷いが
あった時代なのでしょうか?

おそらくBob Marley亡き後のThe Wailers
Bandがその後もっとも輝いたのは、翌
86年のAlpha Blondyとのコラボの
「Jérusalem」と、2018年のAlborosie
とのWailers Unitedとしてのコラボの
「Unbreakable」あたりになるのではない
かと思います。
やはり攻撃的なビートでガンガン行く
The Wailers Bandが、もっともリスナーの
心に響くThe Wailers Bandなんですね。

ただここまではThe Wailers Bandという
バンドの視点からみたアルバムの評価です
が、これがムーディーなサックス奏者
Glen Dacostaのアルバムという視点で見れ
ば、評価はまた全く違うものになるかも
しれません。
Glen Dacostaのどこまでもメローな
「むせび泣くようなサックス」はかなり
濃厚で、ムード音楽として聴き応えのある
アルバムに仕上がっています。

70年代から80年代頃まではいわゆる
イージー・リスニングなども人気で、こう
したムーディーなサックス・インストの
アルバムもよく作られていた時代でした。
彼のほかにもOssie ScottやDean Fraser
など、こうしたムーディーなサックスを
吹くプレイヤーのインスト・アルバムが
けっこうリリースされているんですね。
(逆に言えば今の時代は、異常なくらい
インストの曲が聴かれなくなった時代だ
とも言えるかもしれません。)

このアルバムもそうしたムーディーな
サックス・アルバムとして聴いてみれば
かなり良い出来で、特にB面の表題曲
「Serenade Of Love」から5曲目の
「Love Is The Master」に至る盛り上がり
はとても良いです。
ムーディなサックス・インストのアルバム
としては悪くない出来だと思います。

個人的にはやはりThe Wailersという名前、
スカの時代からヴォーカル・グループと
して活躍し、Bob Marleyのバック・バンド
としても活躍したその大きな名前が気に
なっていましたが、その名前を抜きにして
バック・バンドの仕事という事では悪く
ないのかもしれません。

Side 1の1曲目は「New Found Love」
です。
ミリタント・ビートのドラミングに、漂う
ようなキーボードとギターのメロディ、
Glen Dacostaのムーディーなサックスが
イイ感じ。

2曲目は「Lovers Dreams」です。
レゲエらしいチャカチャカとしたギター・
ワークに、漂うようなキーボードの
メロディ、ムーディーなGlen Dacostaの
サックスがイイ感じ。

3曲目は「Lovers Paradise」です。
スローなメロディのギターとキーボード
に、情感を込めたむせび泣くようなGlen
Dacostaのサックスが魅力的。

4曲目は「Lovers Rock Special」です。
ユッタリとしたワン・ドロップの
ドラミングに、表情のあるギター、情感を
込めたGlen Dacostaのサックスがイイ感じ
の曲です。

5曲目は「Lovers Delight」です。
ギターとフルート、キーボードを中心と
したスローなバックの演奏に、感情を乗せ
たGlen Dacostaの表情豊かなサックスが
イイ感じの曲です。

Side 2の1曲目は表題曲の「Serenade Of
Love」です。
ミリタントなドラミングに、浮遊感のある
キーボードのメロディ、むせび泣くような
Glen Dacostaのサックス…。

2曲目は「Love The Way It Is」です。
刻むようなギターのメロディに、Glen
Dacostaのスウィートなサックスがイイ
感じ。

3曲目は「Still Dream Of Love」です。
ギターを中心としたスローなリズムに、
表情豊かにブローするGlen Dacostaの
サックスがとても魅力的。

4曲目は「Alone With Love」です。
ギターを中心としたスローなメロディに、
情感たっぷりにブローするGlen Dacostaの
サックスが味わい深い曲です。

5曲目は「Love Is The Master」です。
ギターと浮遊感のあるキーボードをバック
に、情感たっぷりにブローするGlen
Dacostaのサックスがとても魅力的。

ざっと追いかけて来ましたが、サックス
奏者Glen Dacostaの吹くムーディーな
サックスは情感があり、なかなか魅力的
です。
あまりThe Wailersという名前を意識せず
に、ムーディーなサックス・インストの
アルバムという意識で聴けば、内容は
けっこう良いアルバムなのかもしれま
せん。

またThe Wailers BandもBob Marleyが
亡くなった後は主をなくして迷走をして
いるようにも見えますが、このアルバムを
リリースした翌年にはアフリカの雄Alpha
Blondyのバックを務めるなど、永い年月の
間にはそれなりの実績は残しています。

機会があれば聴いてみてください。


Glen DaCosta of Bob Marley & The Wailers jumps in a local gig in the Old Port



○アーティスト: Glen Dacosta & The Wailers
○アルバム: Serenade Of Love
○レーベル: Vista Sounds
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1985

○Glen Dacosta & The Wailers「Serenade Of Love」曲目
Side 1
1. New Found Love
2. Lovers Dreams
3. Lovers Paradise
4. Lovers Rock Special
5. Lovers Delight
Side 2
1. Serenade Of Love
2. Love The Way It Is
3. Still Dream Of Love
4. Alone With Love
5. Love Is The Master


●今までアップしたBob Marley & The Wailers関連の記事
〇Bob Marley & The Wailers「Babylon By Bus」
〇Bob Marley & The Wailers「Natty Dread」
〇Bob Marley & The Wailers「Rastaman Vibration」
〇Bob Marley & The Wailers「Survival」
〇Bob Marley & The Wailers「Wail'n Soul'm Singles Selecta」
〇Bob Marley & The Wailers「Exodus」
〇Bob Marley & The Wailers「Kaya」
〇Bob Marley And The Wailers「Live!」
〇Bob Marley And The Wailers「Soul Rebels」
〇Wailers「Burnin'」
〇Wailers「Catch A Fire (Deluxe Edition)」
〇Wailers「The Best Of The Wailers」