白猫小説 絶海麻雀 後編 | 蒼のアプリゲー日記

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現在プレイ中のアプリゲームを中心に徒然と書いていきます。現在は白猫プロジェクトメイン。
不定期更新でまったりとやっていく予定です(・Д・)ノ

「ロン……なのです」

  ネモの捨てた牌に発声し、手牌を倒したのは……ノアだった。

「タンヤオピンフメンホンドラドラ……ハネ満なのです」
「…………」
「ごめんなさい、なのです」
「これは勝負だ。謝る必要はない」

  いつものように冷静な口調で応じながらも、成らなかった手を崩して雀卓中央の穴に流し込むネモの手つきはほんの少しだけ荒っぽい。

「デカい手かい?」

  笑いを噛み殺しながら、点数的にネモをリードしたシンが訊く。

「……いや、ほんの安手だ」
  


  東四局。牌が攪拌され、新しい山が卓上に押し出される。ネモに差をつけて少し余裕が生まれたのか、手牌を取り出しているシンの口許がほんの僅かに緩んでいることに気付いたマナが眉をひそめる。

「艦長、リードしたからといって油断は禁物です」
「ん……分かってるよ、中尉」

  表情を引き締め、卓に集中しようとしたシンだったが……

「ロン、なのです」

  ノアのリーチにあっけなく、しかも一発で振り込んでしまった。

「リーチ一発タンヤオ三暗刻……あ、裏ドラが3つ乗ったのです」
「ば、倍満……すまない、トビだ」

  マナから向けられる白い眼を無視しながら、シンは支払う点棒がマイナスになってしまったことを申告した。一回戦はノアの圧勝だった。

「……だから申し上げたのに……」
「すまん、中尉」



  続く二回戦。

(シンは心理的ダメージを受けてしばらく浮上してこないだろう。かといって、俺もまだマイナス……この辺で)

  配牌からの第一ツモで有効牌を引き入れたネモは、

「リーチ」

  と捨て牌を横に曲げた。

「ダブルリーチ、だと……?」

  シンのこめかみを、一筋の汗が伝い落ちていく。これ以上のダメージは再起不能となる可能性がある……が、第一打でのリーチに待ち牌を読む情報などあるはずはない。

「ああ、この一手で……流れを変える!」

  しかし、当たり牌は出ない、ツモりもしない。場に動きはなく、ただただ巡目だけが虚しく進んでいく……

(確かに待ちが良いわけではないが……なぜ出ない⁉︎)

  ネモが訝しんでいる間に終局が近づいていく。そして……

「失礼、ロンです」

  そのネモがツモ切りした牌にマナが反応した。開示されたその手に、一同は一瞬、言葉を失う。

「四暗刻単騎、だと……」
「役満なのです。マナさん、凄いのです」

  基本の持ち点25000点に対し、子の役満は32000点……当然、一発でトビだ。しかも、ネモにとって本当に衝撃的だったのは自分の待ち牌がマナの手の中で完全に殺されていたことだった。これではいかに手が早かろうがダブルリーチだろうが、絵に描いた餅に過ぎない。

(くっ……!)

屈辱を胸に刻みつけながら、ネモは静かに手牌を倒した。



  三回戦以降も、男性2人の滅多打ちは続いた。なんとか流れを変えるべく足掻き、さらには女性陣のとめどないツキを落とすべく暗黙の協力体制を敷いたが、濁流のような2人の勢いに立ち向かうことはできなかった。

「ツモ……一通ドラドラ。終了です」

  マナのツモあがりで勝負に決着がついた時、男性陣2人は項垂れたまま顔を上げることもなかった。



「最終結果……艦長がマイナス84」
「……あぁ」
「そしてネモさんがマイナス86……お二人の勝負は僅差で艦長の勝利です」
「ネモ……残念なのです」

  ノアが優しく、ネモの肩に手をかける。

「これも勝負だ、仕方がない」

  ネモは大きく息をついてシンとマナを真っ向から見据えた。

「経緯はともかくシン、この勝負はお前の勝ちだ。勝者の権利を行使するといい。俺は敗者の義務を果たそう」

  だが、項垂れたままのシンはなかなか顔を上げようとしなかった。その様子を訝しんだマナが声をかけようとした時、

「大丈夫だよ、中尉」

  シンはようやく顔を上げた。

「じゃあ、お前の言う通り、僕は勝者の権利を行使する……ネモ、質問に対して正直に答えてくれ」
「あぁ、誓って嘘は言わん」

  また、一つの戦いを潜り抜けた男たちの視線が絡み合う。2人の間の張り詰めた空気に気圧されかのように、ノアもマナも無言のまま、状況を見守っている。

「ネモ、お前は……自転車に乗れるか?」
「……何だと?」

  予想外の質問に、流石のネモも呆気に取られてシンの顔を見返した。

「……艦長、何を仰っているのです?」
「うん、これが勝者の権利としての質問だよ。さぁ、ネモ……敗者の君にはこの問いに答える義務がある」

  ネモはしばらくシンの顔を見つめていたが、やがて得心がいったのか「そうか」と言いながら頷いた。

「乗れる……これでいいか?」
「ああ」    

  シンが笑みを浮かべる。

「充分だ」



「いったい、どういうことだったんですか?」

  出航した潜水艦、ドレッドノート号の艦橋でマナはシンに問いかけた。あの麻雀対決の結末が、まだ理解できないようだ。

「うん、あの勝負では間違いなく僕は敗者だからね。そしてネモ、奴もまた敗者だ。敗者である僕がさ、勝者の権利を行使するなんておこがましいと思わないかい?」

  肩をすくめながら微笑を浮かべるシンだが、マナにはその理屈が理解できないようだ。

「しかし、トータル順位は関係ないと最初に取り決めたはずです。そこを有耶無耶にしてしまえば、勝負など何の意味も……」
「だから、僕は約束通りあいつに質問をして、あいつはそれに答えた。それが全てだよ」

  シンの言葉の意味を測りながら、上司の顔を見上げていたマナはやがて、大きくため息をついた。

「……甘いですね、艦長は」
「……かもね。でも、決着はつけるよ、いつか、必ず……」



  一方、同じく潜水艦アルゴノート号の艦橋では……

「ネモ、お手紙が届いたのです」

  ノアが白い封筒をヒラヒラさせていた。

「手紙だと? 馬鹿な、ここは深海だぞ」
「分かっているのです。でも、届いてしまったものは仕方がないのです」
「……読んでみろ」

  ペーパーナイフで封筒を開け、便箋を取り出したノアは「ふむふむ、なのです」と読みながら頷いている。

「お手紙は、ルルさんからなのです」
「ルル……あぁ、あの得体のしれない女か」

  ネモは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。ルル・ルゥ……何故か大流行している謎のソース『インフィニティX』の開発者である、ハーバート・Wの秘書兼メイドである。

「ルルさんは良い人なのです。どうやら、シンさんたちとの麻雀対決のことを聞き及んで……」

「どこで⁉︎ どうやって⁉︎」と声をあげたい気持ちを、ネモは押し殺した。どうせ合理的な説明などつけられるはずもない。

「……私たちも是非参加したいので、次回は3チームの対抗戦にしませんか、とのことです。これは楽しそうなのです」

  何故かやたらと嬉しそうなノアから目を逸らし、ネモは艦長席のシートに背中を預けて大きく息をついた。

「……絶対に、お断りだ」

  
                                         ≪了≫




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