白猫小説:シーダス・ワンプの怪【後編】 | 蒼のアプリゲー日記

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現在プレイ中のアプリゲームを中心に徒然と書いていきます。現在は白猫プロジェクトメイン。
不定期更新でまったりとやっていく予定です(・Д・)ノ

   キャトラはそこで息をつき、双子の顔を見た。好奇心にキラキラ光る眼差しが話の続きを期待していることを確認してから、少し声のトーンを落として続きを話し始め
る。

「アタシたちはその森に入ると、すぐ奇妙なことに気付いたの。魔物はおろか、動物
や鳥の気配すらなくて、不気味なほど静かだったのよ……時々吹き抜けていく生ぬる
い風にざわめく葉擦れの音がすごく耳についたわ。

「薄暗い森の奥へ奥へと進んでいくうちに、アタシはアイリスの顔色がひどく悪いことに気付いたの。体調が悪いのかと思って『大丈夫?』って訊いたら……

『ねぇ、キャトラ……後ろから誰かついてきてない? なんだかすごく……ザワザワ
した気配を感じるの』

「アイリスは『白の巫女』だから私たちが感じることのできない『何か』を感じ取る
ことができるのね……だから、アイリスが何か『いる』と言えば、いるのよ。他の人
たちに見えない『何か』が……

「アタシたちはその『何か』から逃げようと走ったわ。森の中を走って、走って……
急に開けたところに出たの。無雑作に木々を切り倒して作られた広場には、明らかに
人の手で盛られた土の山があったの。そして、その山を取り囲むように、村の人たち
が佇んでいたわ。

「きっと、そこが探して欲しいと頼まれた場所なんだってアタシたちは思ったわ。で
も、変な話じゃない。自分たちで探しておいて、先にその場所にいるなんて……どこ
から、どうやって先回りしたのかは分からないけど、あまりにバカにした話だと思っ
てひとこと文句を言ってやろうと思ったら……」



「みんな消えちゃったの。その土山に吸い込まれるように、スーッと」



「アタシたちはビックリして、慌てて来た道を逃げ帰ったの。そしてようやく村に辿
りついたんだけど……どういうわけかそこは、無人の廃墟だったわ」

   キャトラは話を切って、大きく息をつく。

「アタシたちの報告を受けて調査に動いたギルドによれば、そこではずっと昔、何者
かに村人が皆殺しにされる事件があって、それ以来誰も足を踏み入れぬ廃村になった
はずなんだって。そんな村の誰が私たちに依頼を出したのか、どういうわけかギルド
の記録も消えうせてしまってて、結局、分からずじまいなの。

「でも、アタシたちが見つけたあの土山の下には……もしかしたら殺された村人たちの……」

「あら、キャトラ、何してるの?」

    最後のキメの部分で割り込んできた声に振り返れば、いつの間にかアイリスが帰ってきていた。疲れているのか、そこにいつもの優しい微笑みはない。

「ちょっと、今いいとこだったのに! ヒマだったから、この子たちお話を聞かせてあげてたところなのよ!」
「この子たち?」

アイリスが首を傾げる。

「誰?」
「誰って……」

   キャトラは振り向いた……誰もいない。

「ちょ、ちょっと! あの子たちどこへ行っちゃったのよ!」

   慌てて辺りをキョロキョロ見回しているキャトラを怪訝な表情で眺めるアイリスの
元へ、豪奢な金色のたてがみを揺らしながら獅子の姿の獣人が近づいてきた。

「これは巫女どの。ご苦労様でした。して、事故の現場の方は?」

「はい、ひどいものでした。多くの方が亡くなって……子供も二人」

「それは……なんとも痛ましい」

 バロンも悲痛な表情を浮かべる。

「冒険者に憧れてて、この飛行島に来るのをすごく楽しみにしていたそうです。お父
さまの方は負傷しながらも一命を取り留めたのですが……双子の子供たちを一度に亡
くしたその気持ちを思うと……」

   その敏感な耳でアイリスの言葉を拾ったキャトラの動きがピタと止まる。

「ふ……たご……? アイリス、今、双子って……亡くなったって……」
「……ええ……」
「どうかされましたか、キャトラどの?」

 キャトラの顔から見る見る血の気が引いていく。そして、

「ギニャーーーーーーッ!」

    この世のものとは思えぬ悲鳴が、飛行島に響き渡った。

                                      〈了〉




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