臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

「花鳥佰第一歌集『しづかに逆立ちをする』」鑑賞

2018年04月21日 | 〈近現代短歌集の鑑賞〉萬夜萬冊
びんたくらはす弟が欲し「ねえちやん」と大声に泣くやうなのがいい

麦の穂をいたくこのみし汝(なれ)なればくちもとにおくその一本を

また弾くとはおもはざりしよヴァイオリン天袋よりしづかにおろす

黒チャドルの女ら広場を埋めつくしそのただなかにきららめく井戸

ひとりきて「裸のマヤ」のまへだしぬけに口中ホワイトアスパラの味

わがまへにきみひざまづきどうしても脱げぬ長靴をひき剥がしたり

年とると化粧がすばやく崩れゆく 岸恵子簡明にいひけり

赤い水たたきこみをり青いのよりお肌むちむちする気がします

野放図なあをぞらが窓へ下りてきてシュプレヒコール「自分を捨てろ」

六月は来てやうやくに「かるい病気」わがそびらより剥がれおちたり

あくびする口ひとまはり大きくなり猫はおのれをいま脱がむとす

ガラス越しにオランウータンとキスをする老婦人をりベルリンの昼

レオナルドの人体図のひと耳から下、あゝ体毛のことごとくなし

支那飯屋「全開口笑」に「安宅歯科」もたれ口開く香林坊に

猿のように腰を突き上げターンしてボートの尻をぐぐぐと回す

この弓の尾の毛の主の鹿毛の馬の雲のごとくに駆けるを見たり

叔父の耳とわが耳の形なり似るゆゑんを明かして死んだショウジョウバエよ

ご近所の歯医者へ来たりて大男の太きおゆびに歯を抜かれたり

手首から肘まで黒き毛の渦まく腕のとなりに三時間をり

五月四日『毛皮のマリー』に青年の肉うすき尻四つならびぬ

かわきたる唇くちに触れたるくちびるに冬鉄棒の味はるかなり

そのゆふべ分子出でゆき入はひりきて蚊柱のごとくわが立ちてをり

履く靴の決まりわが身のなんとなくあるかたちにまとまりぬらし

われらみんな歪んでるのだしんしんと冷えたワインをかるくかざしぬ

とつぜんにあまたのにほひわれを充たすいつてきの雨落ちそむるとき

夜にゐて桃を食ぶれば桃のみづわたしの水とからんで揺るる

冬の夜に蛸を茹でたりトーマス・クック・ヨーロッパ鉄道時刻表の表紙の色に





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