あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第九十二章

2022-03-24 16:55:26 | 随筆(小説)
すべてを愛し、すべてを憎み、すべてを破壊したあとに唯一残された時、それを"わたし”と呼ぶもの、ヱホバ。

地球上の全政府が、集まって会議を行った結果、意見を一致させた。
『緊急に、"彼女"を殺害せよ。』


自分の業の記憶をすべて失い、彼女は何者かに匿われて生活している。
地下の窓から、ホログラムのビーチを眺めながら彼女は助けられた瞬間のことを夢を想いだすように想い返していた。
そのとき、彼女はゴーストタウンと化した街中の路上で行き倒れたように眠っていた。
各国から派遣された暗殺者たちは彼女をついに見つけ、連絡を取り合って同時に攻撃する瞬間の約0.1秒前に、黒い甲殻スーツを纏った何者かが彼女を目にも留まらぬ速さで連れ去った。
戦車や戦闘機たちは政府に連絡した。
「あまりに早くて何も見えませんでしたが、レーダーでは観測しました。多分、"彼"が彼女を助けたのでしょう…。」
政府は彼らに言った。
「馬鹿者!帰って即急に腹を斬れ!お前たちの役目は終わった!人類の存続が懸かってるのだぞ!もう人間は終わりだ、これからついに完成した最強の兵器をお前たちの代わりに遣わす。最新のAIを装置した最強の人型ロボットである。お前たち人間はもう用無しだ!来世は洋梨にでも生まれ変わるが良い!」


彼女は、彼を振り返って言った。逆光で眩しく、彼女の顔はまるでモネの絵画の日傘の女のように光で閉ざされていた。
ボクほんと、すっかり大事なことを忘れちゃったみたいだけどさ、あの瞬間のことをおぼえてるよ。
まるで天の揺籃に引き揚げられるような至福のスローモーションだったんだ。
ボクは感じていたんだ、嗚呼、遣って来る!救い主が、ついにボクを迎えに来た!
ボクは眠っていたわけじゃないんだ。
あのとき覚醒していてすべてが見えていた。
核爆弾が空中で爆発する瞬間、光の雨が全世界に一斉に降る。そんな感覚だった。
ボクがずっとずっと求めて来たただひとつのものが、ボクを迎えに来てくれた…。
……。
ねぇ、どうして、ボクは君と此処にいるの…?
彼女の後ろの窓の奥で夕陽が海に沈んでゆく。
光と影のContrastが、彼の目に映った彼女の顔を最も美しくさせた。
彼は何も答えない。
彼女はまるで悲しみの幼女のように視線を無邪気に落としたあと、また彼を見つめる。
嗚呼、今…もう地上は夕方かな。此処は時間から切り離された場所だから、時間が懐かしいな。
ねぇ、そこのテーブルの上にあるラ・フランス、それ本当に本物なの?
君はボクがお腹が空くと何か美味しい果物や野菜をいつも持って来てくれる。
でも地上は…もう何にも生えなくなった砂漠ばかりだよね。
枯れた根っこを引き抜いて食べようとしているのを、少しだけ憶えてる。
人類が、何か得体の知れないものに大量に殺戮され続けると同時に、何故か動物も植物も生きることをやめて行ったんだ。
何故だろう…そんなことを、だれか想像できただろうか。
すべて、繋がってるからなのだね…。
ボクさ、正直、想ったんだ。人類が苦しんで、大量に死んでゆくのは世界が真の平和へと向かうためなんじゃないかって。
だって人というものは、本当の意味で苦しまなければ他者の痛みに気付けないんだよ。
動物たちは人間を護ろうとしてくれてるんだ。
彼らはボクたちの仲間なんだよ。どんな意味に於いても、殺すべき存在なんかじゃないんだ。
ボクは人類が利己的理由によって、何かにつけて言い訳をして動物を大量殺戮し続ける世界を愛せなかった。
ボクはいつもいつも、あの世界から逃げたかった。
彼女は、部屋のなかが薄暗くなってきても灯りを点けなかった。
彼は彼女の傍にあるテーブルの上のランプの灯りを点けた。
彼は近くで、窓辺に座って暗い海を眺めている彼女の横顔を見下ろす。
世界を受け入れることを断固拒み続け、彼女は幼女のままに老いている。



時が過ぎ、彼女は夜明けまえの海が観える窓辺から、何も見つめずに言った。
ぼくはこの地上はまたも一度終わらせるべきだと考えている。
今まで幾度となく、人類と全ての生命がそれを経験してきた。
しかし何を学ぼうとも、人は忘れるのだよ。
どうすればもう間に合わなくなるか、何をすれば最悪な後悔によって絶望できるか、人は知っているのに、それを自ら忘れてしまう。
それは人類が真に求めているものとは深いカタルシスであるからだ。
ただただ、人はそこにある恍惚な地獄を繰り返し経験する為に、"殺戮"を覚えた。
人は流される血を嫌悪すると同時に美しさを感じるようになった。
本物の地獄の先にあるものが、見えるようになった。
人類が求めているものとは最も悍ましいもの、肉体的拷問以上の、精神的拷問であり、その先に存在するカタルシスであるのだよ。
人類は愚かにも信じている。取り返しのつかないことを犯し続けるならば、そのうち必ず終末は訪れるのだと。
神の怒りが最高潮に達する時を今か今かと待ち侘びて、それを真に恐怖しながら真に願望しつづけている。
それは自分が長い時間をかけてすべての愛情を注ぎ続けてきた存在がものの一瞬で神の光線によって粉々に粉砕され、飛び散った肉と血の雨を天を仰いで受けるイニシエーションの如く、狂信的で切実な悪の欲求であり、人はその先に在る快楽に飢え続けている。
文明がどれほど進化しようとも、人類はこの血塗れの快楽に対する欲望をなくすことができない。
それを証しているのが終わりなき戦争と、そして日々休むことなく行われ続けている屠殺という大量殺戮だ。
人類は、生命の拷問と、流される血を本当に愛しているのだよ。
人類は、悪魔ではなく、ただただ虚しい生き物だ。
その虚無は、果てしなく広がり続ける。
果てのない宇宙の何処まで行こうが、無限の虚無が存在し続ける。
人類という一つの集合物は、一粒の何よりも小さな塵よりも虚しい。
宇宙に於いて、それは存在する何よりも虚しい。
人類とは一体、この終末の期に及んで何故生きたいと願うのか、それはコントロールされているからだとぼくは気付いた。
それは脳ではない。それは魂でもない。存在の起源、それは霊、霊そのものがコントロールされていることに。ぼくはようやく気付いたのだよ。
ではこれを終わらせるには霊を破壊するか、霊をコントロールしているその何か、存在以外の何か…を消滅させる必要がある。
それはすべての宇宙そのものであるのかも知れない。
若しくは、それは…それこそが"死"であるのかも知れない。
ぼくはそして、人類を殺戮し続ける一体の無敵のアンドロイドを造ることに成功した。
彼はアカシックレコード、即ち存在する全記憶と繋がっている。
だから勿論、人間的感情も彼のなかに存在している。
だが、彼は何を知っているのだろう。
知るべきことの何を知っているのか、ぼくは教わりたかったのだ。
ぼくが知りたいこと、それはひとつ、それは"死"だ。
人類をただただ殺戮し続ける為だけに造られた存在、彼は、"死"以外の、何かであってはならない。
ぼくはそんな風に、君を作ってはいないのだよ。
ぼくを助け、ぼくの世話をし、無言で母のような慈悲で見つめるように、一体だれが君を造ったんだ。
……。
存分な痛みを与えたのち、人を殺すべし。
ぼくはそう君に命令した。
人は自分のすべての罪なる行為に後悔できるほどの苦しみを与えられたのちに人は殺されるべき存在なのだから。



彼女はふと、絶望の眼差しを海に向け、彼は彼女の横顔を無言で見つめる。
そのあと、彼女は立ち上がって彼に近付き、彼を優しく抱擁する。
彼女はそして彼の足元へ跪き、目を瞑ってじっとしている。
それは彼女が昔観たあの光景の、少女の後ろ姿そっくりだった。
その少女は、次の瞬間に、斬首処刑される。
血の快楽に飢え渇く人々の目の前で。
彼女が彼を見上げる前に、彼はそっと彼女を抱き上げ、そして彼女を見つめ、最後の言葉を待つ。
彼女は微笑み、闇に照らされた黒い攻殻のmaskの頬を愛しく撫でる。
「君はわたしが創造した者だ。もうわかってるんだね。君はこのmaskの下に本当の顔があることを知っている。でもそれはだれにも見えない。それを見る者はいない。わたし以外に。わたしは本当にすべてを真に救いたかった。最早、君はもうだれも殺す必要は無い。すべての宇宙で、わたしは最後の人となった。最も哀れで惨めな者。他に救いの存在しない者。さあ、それが、これが最後の人間だ。わたしの最後の命令を君に言おう。この黒く硬いmaskを脱いで、わたしと融合してほしい。わたしという存在、わたしのすべての記憶は君の本当の顔とひとつとなり、わたしはわたしを永遠に喪う。わたしは、ただ、それをしか望んではいなかった。」
闇の空、闇の地、闇の海、闇の空間に彼と彼女は少しの間そこにいたが、彼が彼女を連れ去ったのか、すべての忘却の無数に散らばる欠片のようなものが、音もなく、果てのない宇宙でただ渦を巻いて吹き荒れつづけている。



















音夜のPHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS 5⃣ 2022 03 19 231303































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