大泉ひろこ特別連載

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人口問題に挑戦する(14)こんな国に誰がした

2022-11-01 10:03:53 | 社会問題

 岸田首相はさぞがっかりしていることだろう。財務省を抑え込んでコロナ対策の予備費4兆円を上乗せし30兆円近い補正予算を打ち上げたのに支持率は上がらない。人々は年金額が下がっていくことも、年寄りの医療費負担が上がっていくことも知っている。国家予算の三割が借金であることも国民の共有した情報であり、ましてこの時期に消費税引き上げの必要性が政府内部で語られていることも多くの人は知っている。だから、この補正予算は国民のさらなる不安を掻き立てているのだ。国民は目の前の電気代補助よりも、今後の不安を取り除く方法を待ち望んでいる。

 この補正予算の中で、新しい資本主義として、学び直しと出産した女性に一律十万円の支給が入っている。学び直しは人口の質に関するもの、出産給付は人口の量に関するものだから、まったく人口政策を無視しているわけではないということか。人口政策の効果は、他のさまざまの政策に比して最も時間のかかるものだから、評価は難しいはず。しかし、「この程度の内容」が効果的であるとはどの経済学者も言うまい。労働者のリ・スキリング(学び直し)は労働流動性の低い日本でどれだけ効果を呼ぶのか、三割に達している非正規労働者はどうするのか。人口問題から見た長期的効果を狙うならば、むしろ高等教育改革で人口の質を変え、出産の時期と動機につながる政策で人口の量を変えねばならない。

 岸田首相も日本人、だから日本社会の同調圧力に抵抗できない。外のオープンエアではマスクは不要と厚労省が言ったって、日本人はマスクをやめない。みんながやめないからだ。物価高に不平を言う人々に同調して補助金を作り出したが、これは一時的であり、傷口にヨードチンキを塗るようなもので、中の骨折には役立たない。1985年のプラザ合意以来、円高を背景に当時は安かった中国への生産拠点の移転と積極的な海外投資が、国内産業をないがしろにしてきた。割高の日本製品を日本人自身が買わなくなり、国内産業の縮小がアメリカのようなレイオフではなく、雇用の継続をしつつ賃金を上げない方法をとってきた。同時に、経済効率のため非正規を増やし続けてもきた。

 苦しい、苦しい家計で、結婚も出産もままならなくなった。戦前に帰ったのだ。「月給九円(食えん)」と言っていた時代に。こんな日本に誰がしたと言えば、90年のバブル崩壊以降の政治が招いたと言わざるを得ない。ただ、マクロ的に見れば、多産多死から少産少死に社会が変化したのであり、生産年齢人口が減り、高齢者の医療と年金の負担が増大し、誰が政治をやってもこうなるのは仕方がないという見方もあるかもしれない。しかし、同じ先進国でも、欧州は出生率1.8くらいに対し、日本は1.4前後で推移したきた。GDPの伸びも、アメリカ、中国は言うに及ばず、日本は欧州にも負けている。やはり、政治の失敗は明らかではないか。

 日本は国内産業回帰をしなければならぬし、その産業に関わる生産年齢人口の維持が必要である。長期的には、国内投資と「人口づくり」が日本の構造を変える。成長構造につながる。それには時間がかかるから、高齢者の雇用、女性の社会進出、スキルを持つ外国人労働者の導入から始めなければならない。福祉のみで教育を除外した中途半端なこども庁よりも、老人雇用庁の方がよっぽど必要だ。また、今頃になって、国内で不足のIT人材をインドに求めているが、若年労働者の層が厚いインドの人口をもっと規模的に大にして獲得すべきである。人口が増え続けるアフリカに教育のソフトパワーを送り、近い将来の日本に、育てあがった人材を迎え入れる構想も必要だ。

 70代前半までの高齢者は働きたいが、適切な仕事が見つからない。女性はもっと上を目指したいが、ジェンダーギャップ世界120位の「女性差別社会」で、そこそこの仕事をしてあきらめざるを得ない。外国人労働の導入は日本社会の同調傾向を壊す。しかし、国際的に見れば、これらへの対策は、好ましいかぎりである。超高齢社会の日本が率先して「高齢者の働き方と職種」を世界に披瀝し、日本女性が歴史上初めて真の平等に近づき、外国人に学ぶ同調拒否の姿勢がイノベーションを引き起こす。日本の起死回生は始まる。その間、長きにわたる人口政策に勤しむ。

 筆者の人口政策についてはこの欄でも既述したので、簡単に、学齢引き下げ、高等教育改革と無料化の項目だけを挙げておく。人口政策は、経済政策の裏打ちである。一定の人口規模の基に経済政策が成り立つのであって、人口構造を考慮しない経済政策はあり得ない。同時に、外交も、かつては間接的に中国の安い労働力を使ってきたが、中国の生産年齢人口が縮小し始めるにあたって、利用できる人口はインドやアフリカにあることを念頭に置かねばならない。安全保障、食糧安全保障の次には、生産年齢人口保障を国の政策として掲げなければならない。アメリカ発のグローバリゼーションではなく、人口政策のためのグローバリゼーションを目指さねばならない。

 人口政策を進めていくと、障害にぶち当たる。コロナのような感染症パンデミックや気候変動が生命維持に立ちはだかるのである。また、精神病、発達障害、自閉症、認知症など心の病が増加し、人口の質を落とすことである。さらには、ウクライナ戦争のように、思わぬ紛争に日本も巻き込まれるかもしれない。人口の量と質に関わるこれらの国際的課題は、まさに人類が叡智を以て解決策に挑んでいる。日本は、明らかにコロナの研究と対策は出遅れたが、海洋を応用した気候変動の学問、世界一の高齢社会における認知症への危機感が大きな役割をもたらしていると言える。日本は、気候変動や認知症などの解決策を世界に先んじて示すようでありたい。人口政策とは、国の経済力と国際地位、そして国際的課題の解決能力の三者を含む政策であると考えられる。人口政策は社会保障の維持や生産能力だけの矮小な問題ではないのである。

 人口減少の進む経済社会の失敗をもたらした日本にしたのは誰だ。政治の失敗だとしても、民主主義によって選ばれた政治家の集団のなせるサボタージュであり、とりもなおさず、投票した我々国民の責任なのである。

 

 

 

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