前島(まえしま)の言葉に、驚愕する花梨那(かりな)。
しかし恐ろしい提案をした当の前島は、きわめて冷静であった。
「……前島、それ、本気で」
「本気で申し上げております。」
彼女が言葉を言い終わらぬうちに、前島は言葉を重ねた。
「跡継ぎさえ生まれれば、あなたは解放される、院上寺家の令嬢という呪縛から。」
花梨那は、精悍な顔つきで語る彼を見つめた。
「私はあなたのためなら、どんなことだって致しますよ。」
前島は優しく微笑んで、花梨那を見つめる。
その目に花梨那は囚われる。
彼女は愛する男の顔を、いつまでも見ていたいと願っていた。
同時にその願いは叶わないということも、分かっていながら……。
それでも………。
しばしの沈黙の後、ふいに前島が口を開いた。
「ところでお嬢様、ここにお帰りになられたのにはちゃんとした目的がおありなのですよね?」
花梨那はふっと優しく微笑んだ。
やはりこの男は、自分のことを解ってくれる。
他の誰よりも。
やがて彼女の顔からは柔らかさが消え、そこには厳しさが残った。
そして花梨那は口を開いた。
「ええ、……前島、上條(かみじょう)はいる?」
「上條昂希、ですか、ええもちろん。本日は社長のご出張の運転手を担っているため、帰宅は夕方になりそうですが。」
「……そう。」
「あいつに何か用事が?」
前島の問いに、花梨那の口元には笑みが垣間見えた。
「ええ、彼には役に立ってもらうわ。」
そう微笑んで言う彼女に、前島も微笑みながら言葉を返した。
「微笑みをたたえた貴方様は、どんな女神よりもこの上なく美しい……。」
うっとりとした目を花梨那に向ける前島。
花梨那は、そんな前島に強く口づける。
二人の強い絆と、共謀の誓いの証。
引き返すつもりなどない。
ただ突き進むのみ。
もう、何も恐れない。
花梨那はすでに、決意を固めていたのだから。
To be continued
~追伸~
TATSUさん、メッセージありがとうございます
最近地震多いですよね
心配なことも多いですが、楽しめる時に楽しんでくださいね🎶
漫画化……某有名YouTuber作家さんのことが思い浮かびました
(彼の作品は実に面白い)
浅田瑠璃佳