【25話】「ある豪勢なお屋敷で」【web小説】 | 浅田瑠璃佳@物書きブログ✡✡言の葉の楽園✡✡

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夕暮れはいつの間にか、漆黒の闇夜へと姿を変えていた。


菜月(なつき)は自室のドアを開ける。


開けたドアを背でもたれて閉めながら、彼女は先ほどの花梨那(かりな)の言葉を反芻する。


「(………『家族』………)。」


部屋の中は静寂に包まれている。


だがそれと裏腹に、彼女の心の中には複雑な感情が、嵐のごとく渦を巻いていた。


「(………『か・ぞ・く』………)。」


今なら分かる。


あの時花梨那と共にいた自分に、主人の元治(もとはる)が物悲しい目を向けた、その意味が。


「和雄(かずお)さんは、あの人と……。」


彼女の目は、焦点を失っている。


「あの人と、結婚する。」


菜月は自分の心臓が、一瞬止まったかに思えた。


ふいに力なく、彼女は膝から崩れ落ちる。

床を這うように着いた手を、力の限り握り締めてもがいた。


「(………身分さえあれば………!!!)」


胸が引き裂かれるような思いに涙が溢れ、視界が歪む。


「(私が卑しき使用人でなかったら、裕福な家の令嬢であったなら、私が選ばれたかもしれないのに……!)」


菜月の悲痛な心の叫びは、やがて彼女の口をついて出た。


「……私が和雄さんと、結婚、できたかもしれないのに………。」


これほどまでに、自分の身分を恨んだことがあっただろうか。


今日、菜月ははっきりと思い知らされてしまったのだ。


自分は初めから和雄の隣に並ぶ権利さえなかったのだという、残酷な現実を。


「……身分さえ、あれば……。」


弱々しくそうつぶやいて、菜月はただ虚しさと絶望にさいなまれ、慟哭するほかはなかった。


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あくる日、午前中の社長室。


「……すまない!!」


菜月を呼びつけた元治が、苦しそうな表情で彼女に頭を下げる。


「……どうか、お顔を上げてください。」


虚ろな目で、元治に言葉をかける菜月。

元治は頭を下げたまま、口を開く。


「和雄の伴侶となる女性は、和雄を本当に大事に思ってくれる人がいいと思っていた。 本当は……、君が良かったんだ!! 君を和雄の伴侶と出来たならば、これほど嬉しいことはなかったんだ。 ……だが、すまない。どうしても院上寺(いんじょうじ)家との結びつきが欲しい。 」


「(……ああ、どうしてこのお方は……)。」


菜月は自分に頭を下げている主人の姿を見ながら、涙を流していた。


「(……どうして私のようなしがないメイドにまでお優しいのか………)。」


今の菜月には、元治の優しさが痛いほど胸に突き刺さる。


結果は変えられない。


だが……! だが……!


「……旦那様、どうかお顔を上げてくださいませ!」


涙交じりの菜月の声が、社長室に響く。

元治は頭を上げて、息を飲むように目の前の菜月を見つめた。


「旦那様のお優しいお心遣いに、深く深く感謝申し上げます。 でも、旦那様は何も悪くありません。 今回の縁談は、両家にとって良いものになるでしょう。 私はそう信じております。」


そう言って、菜月は元治に微笑んだ。

その顔に元治は、驚いたまま硬直する。


「……菜月さん……。」


涙に濡れた顔で微笑む菜月に、元治はそれ以上、言葉をかけることは出来なかった。



やがて屋敷にて、和雄と花梨那との挙式が執り行われるとの正式な報告がなされた。

菜月を含む使用人たちは、日々挙式の準備を進めていくこととなるのである。



To be continued



~登場人物紹介~


入野菜月(いりの なつき):20代前半の地味な女性。この屋敷の新人メイド。幼い頃は孤児院で育つ。屋敷の御曹司である和雄に恋をするが、一方で自分との身分差に苦しむ。ある日、和雄の感情欠如を半ば利用する形で自分の欲望を打ち明け、一夜を共にしてしまう。


神山和雄(こうやま かずお):20代半ばの、長身長髪で端正な顔立ちの男性。この屋敷の御曹司で、IT企業系の神山株式会社・次期社長。幼い頃に事故に遭い、父母を亡くし、自身も感情が欠落する。読書を好む。菜月の欲望を叶え彼女と一夜を共にしたが、その真意は謎である。


神山元治(こうやま もとはる):この屋敷の主人で、神山株式会社の社長。元は和雄の父親と親友同士で共同経営者だったが、和雄の父親の死により会社を引き継ぎ、和雄の養父となる。また菜月に対し、屋敷内で唯一の和雄の理解者だと感じている。


院上寺花梨那(いんじょうじ かりな):母親が優秀な経営者である良家・院上寺家の一人娘で、和雄の婚約者。父親はいない。栗毛色の豊かな髪に、華やかな美しさを兼ね備えた20代前半の女性。柔らかな印象だが、どこか隙がないようなところがある。



~追記~


作者のrurikaですニコ

ここまでお読みくださり、ありがとうございます飛び出すハート


ちなみに菜月が一人もがくシーンは、池田理代子先生の有名なフランス革命漫画「ベルサイユのばら」のアンドレさんが最愛のオスカルさんとの身分違いを嘆き苦しむシーンのオマージュです泣

「ベルばら」大好きです赤ちゃんぴえんキューン


……というか、ちゃんとオマージュになってればいいんだけど、思わずオマージュとパクリの違いを調べてしまったよ驚き

(この判断は、実は読者さんによるのでドキドキしています注意


あと補足ですがニコニコ


この物語の舞台のお屋敷は西洋式なので、ドアが「内開き」なんですスター

日本の家屋のドアは普通「外開き」なので馴染みがない方が多いと思われますが、ドアが「内開き」だと部屋の内側から背でもたれてドアを閉めることができるんですね笑い

そう、これをやりたかったんだよ指差しびっくりマーク

細かいしそんなの気づかんむかつきっていう人もいるかもしれませんが、物語を綴る身としてはちゃんとそういうところも考えていますよほっこり


なんだか今日は追記が長くなってしまいました不安ハッ

ここまで読んでくれていたら本当に嬉しいですキラキラ


これからも不定期でウェブ小説をあげていきますので、続きもどうぞお楽しみにお待ちくださいませ照れラブラブ



カメrurikaカメ