ポーランドのワルシャワで開催されている、第18回ショパン国際ピアノコンクール(公式サイトはこちら)。
10月16日は、3次予選の第3日(最終日)。
ちなみに、第18回ショパン国際ピアノコンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(第18回ショパン国際ピアノコンクール 予備予選出場者発表)
(第18回ショパン国際ピアノコンクールの予備予選が4月から9月へと延期)
(第18回ショパン国際ピアノコンクール 予備予選免除の出場者発表)
(第18回ショパン国際ピアノコンクールの予備予選が2021年4月から2021年7月へと延期)
以下、曲はいずれもショパン作曲である。
1. Nikolay KHOZYAINOV (Russia, 1992-07-17)
- Nocturne in C minor Op. 48 no 1
- Mazurka in A minor Op. 59 no 1
- Mazurka in A flat major Op. 59 no 2
- Mazurka in F sharp minor Op. 59 no 3
- Prelude in C sharp minor, Op. 45
- Piano Sonata in B minor Op. 58
ピアノはスタインウェイ 479。
悠然として力強い「ロシアのショパン」である。
技巧があるほうではなく、ソナタ第2楽章などかなりぼてっとしているが、それでもノクターン再現部の情熱、前奏曲の落ち着いたたたずまい、ソナタ第1楽章の悠揚迫らぬ構えなど捨てがたい魅力を持つ。
こういう演奏をコンクールでどう評価するかは、大変難しい。
2. Su Yeon KIM (South Korea, 1994-06-04)
- Fantasy in F minor Op. 49
- Mazurka in G minor Op. 24 no 1
- Mazurka in C major Op. 24 no 2
- Mazurka in A flat major Op. 24 no 3
- Mazurka in B flat minor Op. 24 no 4
- Tarantella in A flat major, Op. 43
- Piano Sonata in B minor Op. 58
ピアノはスタインウェイ 479。
さらりとした抒情的な表現が美しく、技巧もなかなかのもの。
散々名演を聴いてきた幻想曲もまた新たに聴かせるし、タランテラもテンポはやや遅めだがそのぶん左手までよく歌う。
ソナタも、技巧と情感とのバランスの取れた、標準的な演奏。
3. Aimi KOBAYASHI (Japan, 1995-09-23)
- Mazurka in C minor Op. 30 no 1
- Mazurka in B minor Op. 30 no 2
- Mazurka in D flat major Op. 30 no 3
- Mazurka in C sharp minor Op. 30 no 4
- 24 Preludes Op. 28
ピアノはスタインウェイ 479。
なんという表現力!
凄まじいまでの情念を表出したマズルカ、そして先日の実演でも圧倒された前奏曲集(その記事はこちら)。
この、もはやショパンの慟哭そのものともいうべき魂の演奏は、この曲集の考えうる最高の名演と言っていいのではないか。
上の記事にも書いたように、彼女はこうしたショパンの内面の“陰”の要素を表現できる、稀有なピアニストである。
彼女がファイナルでどちらの協奏曲を弾くのか私は知らないが、もしも“陰”の曲である第2番のほうを選ぶならば、優勝の可能性も高まるのではと勝手に想像している(彼女の第1番も絶品なのだが)。
ともあれ、ファイナルに進むことはまず間違いないだろう。
4. Mateusz KRZYŻOWSKI (Poland, 1999-03-06)
- Mazurka in B major Op. 56 no 1
- Mazurka in C major Op. 56 no 2
- Mazurka in C minor Op. 56 no 3
- 24 Preludes Op. 28
ピアノはスタインウェイ 479。
マズルカ、詩情や幻想味の感じられる演奏。
前奏曲集も同様の良い演奏だが、何といっても先ほどの小林愛実の風格がすごすぎて、完全に割を食ってしまっている。
また、第16番など急速な曲では技巧面の弱さが目立つ。
5. Jakub KUSZLIK (Poland, 1996-12-23)
- Fantasy in F minor Op. 49
- Mazurka in C minor Op. 30 no 1
- Mazurka in B minor Op. 30 no 2
- Mazurka in D flat major Op. 30 no 3
- Mazurka in C sharp minor Op. 30 no 4
- Piano Sonata in B minor Op. 58
ピアノはスタインウェイ 479。
クールかつパワフルな技巧派タイプ。
マズルカも、そのクールな表現は上記の小林愛実の同曲演奏の凄まじい情念と対照的だが、これはこれで説得力がある。
幻想曲やソナタも完成度が高く(第1楽章再現部で暗譜が飛びかけたのは痛いが)、冷静でありながら力感や迫力も相当なもの。
6. Hyuk LEE (South Korea, 2000-01-04)
- Variations in B flat major on a theme from Mozart s Don Giovanni (Là ci darem la mano), Op. 2
- Mazurka in B flat major Op. 17 no 1
- Mazurka in E minor Op. 17 no 2
- Mazurka in A flat major Op. 17 no 3
- Mazurka in A minor Op. 17 no 4
- Piano Sonata in B minor Op. 58
ピアノはシゲルカワイ EX。
くっきりと明朗な音による、情熱的な演奏。
技術的問題はあるし(ソナタ第1楽章の和音下行音型など弾けていない)、ミスタッチも多いのだが、テクがないわけではなく、うまく弾けている箇所は申し分なく弾けているし、何よりその直情的なロマン性を帯びた丸みのある明るい音に魅力がある。
ソナタ終楽章などしっかり盛り上げており、輝かしい。
7. Bruce (Xiaoyu) LIU (Canada, 1997-05-08)
- Mazurka in G sharp minor Op. 33 no 1
- Mazurka in C major Op. 33 no 2
- Mazurka in D major Op. 33 no 3
- Mazurka in B minor Op. 33 no 4
- Sonata in B flat minor Op. 35
- Variations in B flat major on a theme from Mozart s Don Giovanni (Là ci darem la mano), Op. 2
ピアノはファツィオリ F278。
細身の繊細な音による、細部までこだわった演奏。
あまりにも神経質で息の詰まりそうなところを、ファツィオリの華やかな音色がうまく和らげている。
特に、変奏曲での洗練された装飾パッセージが美しい。
ソナタはもう少し柄の大きさが欲しくはあるが、それでも終楽章の両手ユニゾンの明瞭度や切れ味は大したもの。
そんなわけで、第3日の演奏者のうち、私がファイナルに進んでほしいと思うのは
2. Su Yeon KIM (South Korea, 1994-06-04)
3. Aimi KOBAYASHI (Japan, 1995-09-23)
5. Jakub KUSZLIK (Poland, 1996-12-23)
6. Hyuk LEE (South Korea, 2000-01-04)
7. Bruce (Xiaoyu) LIU (Canada, 1997-05-08)
あたりである。
次点で、
1. Nikolay KHOZYAINOV (Russia, 1992-07-17)
あたりか。
第1~3日を併せて、ファイナルに進める人数である10人を選ぶとすると
第1日
4. Miyu SHINDO (Japan, 2002-04-26)
5. Kyohei SORITA (Japan, 1994-09-01)
6. Hayato SUMINO (Japan, 1995-07-14)
第2日
2. J J Jun Li BUI (Canada, 2004-06-10)
4. Yasuko FURUMI (Japan, 1998-02-05)
第3日
2. Su Yeon KIM (South Korea, 1994-06-04)
3. Aimi KOBAYASHI (Japan, 1995-09-23)
5. Jakub KUSZLIK (Poland, 1996-12-23)
6. Hyuk LEE (South Korea, 2000-01-04)
7. Bruce (Xiaoyu) LIU (Canada, 1997-05-08)
あたりになる。
日本人5人全員通過が理想だが(皆それだけの実力があると思う)、実際にはそううまくは行かないかもしれない。
さて、3次予選の実際の結果は以下のようになった。
【ファイナル進出者】
第1日
2. Kamil PACHOLEC (Poland, 1998-11-11)
3. Hao RAO (China, 2004-02-04)
5. Kyohei SORITA (Japan, 1994-09-01) 〇
第2日
1. Leonora ARMELLINI (Italy, 1992-06-25)
2. J J Jun Li BUI (Canada, 2004-06-10) 〇
5. Alexander GADJIEV (Italy/Slovenia, 1994-12-23)
7. Martín GARCÍA GARCÍA (Spain, 1996-12-03)
8. Eva GEVORGYAN (Russia/Armenia, 2004-04-15)
第3日
3. Aimi KOBAYASHI (Japan, 1995-09-23) 〇
5. Jakub KUSZLIK (Poland, 1996-12-23) 〇
6. Hyuk LEE (South Korea, 2000-01-04) 〇
7. Bruce (Xiaoyu) LIU (Canada, 1997-05-08) 〇
なお、○をつけたのは私がファイナルに残ってほしかった10人の中の人である(ただし実際には12人が選ばれた)。
10人中6人。
あまり当たっていないが、通過したメンバーを見ても、概ね妥当な結果だとは思う。
これほどレベルの高い勝負で、日本人5人全員通過というのは非現実的であり、何とも残念だが仕方ない。
反田恭平と小林愛実、通過した2人の演奏にはやはり特別な風格があった。
優勝も夢ではないと思われ、ぜひとも応援したい。
なお、今後の日程は以下の通り。
【ファイナル】 2021年10月18日(月)~20日(水)
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