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2017年01月03日

『Another Archive Online〜ハハッワロス〜』第五話【選択】

 俺は…………ジョーカーさん側につく事を選んだ。
 盗みなんてするつもりはないが、ここで捕まりたくはない。はっきり言ってしまえば弁明できる自信がない。ゆっくり考える時間が欲しいのだ。単純にジョーカーさんに愛着が出てきているというのもあるが。
 だからこそ、捕まりたくはない。仮にお尋ね者として登録されようとも、この身体スペックがあれば、顔を隠すなり、服装を変えるなりしてどうとでもなるだろう。ゲームやアニメの中のお尋ね者たちのように年がら年中同じ髪型、同じ服装でいる必要なんてないしな。
 一人で逃げると言う選択もあるが、それはできない。善でも悪でもいい。いざと言うときの後ろ盾が欲しい。利己的な考えとは分かっているが、その対象にジョーカーさんを選んだ。それに、ジョーカーさんに出会わなければ……いや、この思考は無意味だ。結局は俺の選択の結果が今の状況だ。
 一つ目標は決まった。ここからジョーカーさん達と共に逃げる!それに二人とも可愛いしな。上手くいけばおいしいお礼があるかもしれん。

 俺がどう選択をするか、声で表明することはできない。故に、剣を抜き、ジョーカーさんたちの前に立ち、刃先を相手に向ける。『パリィ』は武器を装備することで強制的に解除されただろうが、もう不意打ちはないだろうし大丈夫だろう。しかし――――お二人さんは俺が剣を抜いたことに反応し、『ファイアボルト』と『エアスラッシュ』を放ってくる。避ける方向に注意しながら『スリップ』とステップでスキルを避ける。
 剣を抜いたからっていきなり攻撃してくるか!?……不意打ちもしてきたし、そういう世界なんだろうか。それだけ警戒されてるって事だろうか。しかし、また膠着状態に戻ってしまった。いや、違うな、ジョーカーさんが戦闘態勢を解いている。……相手は警戒しているようだ。

 「みりん……いいのか?」
 「?」

 ルルさん……そのクエスチョンは俺の事同業者か何かだと思っていそうだな。
 俺はジョーカーさんの問いに頷きで答える。

 「クヒックヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!―――さいっこうだぜ」
 「ル……ジョーカー?」
 「……お前さんのボスは薬でもやっているのか?」
 「いえ、高位の魔導書の読み過ぎで、頭のねじが吹っ飛んでるだけです」
 「ルル……何気にひどいこと言ってないか?」

 腹を抱えて笑いだすジョーカーさん。高位の魔導書を読むと頭のねじが吹っ飛ぶのか……。というかそこまで俺がジョーカーさん側につくのが嬉しいのか?さっき知らない人が見れば明らかに仲間だぜ!的な発言してたよね?
 遊びは終わりだと言わんばかりに、おっさんの手に持つ剣に力が込められる。つられてローザさんの周囲に小型の青い魔方陣が展開される。集中しろ。相手の動きを見逃すな―――――。

 「おっと……戦闘を続ける前に俺様の話を聞いておかないか?」
 「マスター」
 「…………はぁ、言ってみろ」
 「ギルマス、あんたは言ったな『シルバーレギンとの敵対は法で禁止されている』と」
 「ああ」
 「そしてこうも言った『……先ほどの戦い見させてもらった。』と……あんたほどの地位にある人間が敵対を放置していたと言う訳なんだが、それはもう共犯と言っていいんじゃないか?」
 「それはただ!」
 「ローザ、まだ話は終わっちゃいないぜ。さらに不意打ちによる戦闘を仕掛け、今なおこの場で戦おうとしている。これはそこで倒れているシルバーレギンも巻き込む可能性がでてくるよなぁ」

 相手の立場を利用して戦闘を回避する算段か。全く思いつかなかったぜ。……さっきの俺の行動もしかして意味なかった?むしろ立場を悪化させただけな様な……。いや、俺が立場をはっきりさせたからこそ言えたのか?

 「お前たちを捕まえれば話は変わらん。犯罪者とギルドマスター……どちらの証言を信じるか、答えは決まっている。まぁ、生き残っていればだがな」
 「クヒヒヒヒヒ!しかし……シルバーレギンが人語を理解しているとしたら?」
 「なんだと……?」
 「そこのシルバーレギンは既に人語を理解している。そしてこの会話を聞いている。……さて、お前の返答をどう解釈するかな?聖獣がなぜ敵対を禁止されているか……分かっているだろ?」
 「……」
 「それに俺たちは見ての通り、戦闘後の疲れで弱っている」

 一体何を言うつもりなんだ?この場合疲れは隠しておくものじゃないのか?

 「いざ戦闘となれば手加減する余裕がなくなるわけだが……。私の実力は知ってるよな?なぁ、ローザ」
 「!!?」
 「私と―――殺し合いがしたいか?」
 「ぁ……ぅ」

 ……なにこの人怖い。事実と度胸、はったり?を加えて立場を逆転させている。俺と私を使い分けることでローザさん相手に学生時代を思い出させているのか?相手の敵意の様なものがなくなっていくような感じがする。

 「はぁ……この女狐が」
 「クヒヒヒヒ!なんとでも言え」

 おっさんが剣を収め、クレーターの中心にいるシルバーレギンへと向かっていく。

 「シルバーレギン。我が身に受けた依頼を優先してしまった。申し訳ない。お詫びと言ってはんだが、高純度のマナの結晶体を用意する。許してもらえるだろうか?」
 「guooon!」
 「ちょっと待て……単純すぎないか」

 どうやらシルバーレギンは餌付けされてしまったようだ。ジョーカーさんもルルさんも呆れている。なんとしまりのない展開だ。
 しかし、言葉だけで戦闘を回避してしまうとは、なんかゾクって来たわ。これがカリスマってやつなのか?いや、いきなり戦う気満々だった俺の思考がやばいのか?

 「ジョーカー、ルル……それに……みりん……本名か?」
 「ハハッワロス(笑えることに)」
 「嫌味な奴だ―――だが、中々の体術だった。いくぞ、クィンエル」

 あんなへんてこな体術で褒められるとは。
 動きはぎこちないが、スペックのお蔭で動きが早いし、スキル発動中は自分の意思で動いている訳じゃないからか。……!いつの間にか『ハハッワロス』で会話している。相手によって受け取り方は変わるだろうが、何とか会話の間に挟み込め……厳しいな。

 「―――ジョーカー、一緒に……」
 「ローザ、犯罪者として捕まれと言いたいのか?あぁ、こいつを渡しておくぜ。お前たちに依頼を出した議員が使っていたものだ。こいつを持ちかえればどうとでもなるだろ」

 ジョーカーさんは懐から例の相手を惚れさせる指輪を取出し、親指でローザさんに対して弾いた。
 ローザさんってジョーカーさんにすごく執着してるな……ヤンデレ予備軍だろうか。 

 「これは……?」
 「俺様が盗んだラーヴァの指輪だ。効果は分かるだろ?」
 「―――催眠系のアイテムは使用禁止されているはずだが」

 あの時の指輪か。もう俺に使った効果は消えてるのか?昨日の夜ほどジョーカーさんに対して気持ちが傾いている訳ではない。消えてるよな。

 「ガンガン使ってたみたいだぜ?事実確認として今まで議員を囲んでいた女がどうなっているか見てみたらどうだ?」
 「ふむ……。有効に使わせてもらうとしよう。クィンエル。いくぞ」
 「ジョーカー!今度は違う形で!」
 「あーはいはい。機会があればな」

 お二人さんは回れ右をして帰ってゆく。無事戦闘を切り抜けたようだ。俺の行動ほんと無意味だったんだな。あぁすごい凹む。ルルさんやジョーカーさんに脳筋とか思われてるかもしれないな。

 「うっし、メンドクサイのは去った。帰るとしようぜ!」
 「言い回しはさすがですが、やっぱりボスは敵に回したくないです」
 「ルル、それは褒めてるのか?」
 「もちろんですよ!」
 「まぁいいか。さすがに疲れたぜ。ルル、最後の仕事だ。ゲートを開け」
 「了解です」

 ゲートを開く?ゲーム中では各町に設置してあるゲートをくぐることで、行ったことのある町に自由に行き来ができた。開くとは、良くある転移魔法的なものだろうか。

 「『ベースゲート オープン』」

 空中に青い魔方陣が浮き出る。その魔方陣の中心はさながら門のような形をしており、門の入口部分だけ半透明な膜で覆われている。なんか分からんが……かっこいい……。

 「みりん。最後に聞くぞ。ここから先は俺様たちのアジトだ。一緒に来るなら仲間になるしかない。ならないならここでお別れだ。さっきの行動からして仲間になる―――でいいんだな?」

 お尋ね者確定だろうし、仲間にはなるしかないと思う。ただ、盗みはなぁ……。うん。いや……まてよ。ジョーカーさんは単独の盗賊ではない。話を聞く限り組織を作っている。組織という事は何も盗みだけをやっている訳ではあるまい。これだな……!

 「(仲間になる。が、盗みをするつもりはない。他の事をまかせてくれ)」

 資材調達とかな!『アイテム』機能や身体スペックを有効活用すればほとんどのことがごり押しで可能な気がせんでもない。実際は単に自分が盗みをしたくないだけだ。日本人として生きてきた感性が盗みを否定する。大きな心境の変化でもない限り変わらないだろう。

 「盗賊団に入るのに盗みはしない…….か。まぁいい、団員のすべてがすべて盗みをやっているわけじゃないしな。俺様は戦闘要員としてお前を買っているんだ。裏切らないのであればそれでいい。―――その言葉に二言はないな?」

 ジョーカーさんの目つきがやばい。冗談交じりの目ではない。ここは頷きではなくちゃんと文字で書こう。……喋れたらいいんだがな。なんて書くか……「俺を信じろ?」なんか安っぽいな。そのまま「ない」って書くのもな。

 「(口じゃ証明できないからな。行動で示す)」
 「なるほど―――行動か。……いいぜ。みりん。俺たちはお前を歓迎する!」
 「こんな強い人が仲間になってくれるとは!心強いです!………それにしてもボス、前々から勧誘してたんですね」
 「あーったりまえだろ。こんな面白い男なかなかいないぜ。―――出会ったの昨日だがな」
 「えええええええ!それでいいんですかボス!身辺情報とか。あっ、いえ、別にみりんさんが怪しい人だなんて思ってるわけじゃないんですよ!」

 明らかに怪しいと思ってるよね。分かりますぜ。ルルさんの言うとおり、出会った早々に盗賊団に勧誘するとかおかしいよな。俺が裏切る可能性だって向こうからしてみれば十二分にあるだろうに。なぜ俺を受け入れようとしたのか……ジョーカーさんの顔からは読み取ることができない。

 「ほらほら、帰るぞ!時間は有限。今は急ぐ時だぜ」
 「そうですね……。早くシンクを助けてあげないと―――みりんさん!これからよろしくお願いします!」

 二人と握手を交わし、ゲートとやらをくぐる。なんかこの感覚……どこかで……まるでSR世界にダイブした時のような感覚だ。一瞬視界が歪み、辿り着いた場所は大きな洞窟のような場所の中だった。

 「ルル、俺は治療薬の作成に取り掛かる。みりんを部屋に案内しておいてくれ。ひとまずは客人として持て成してくれ。みりん、今から作業に入るため、俺様が持成す暇はないが、ゆっくり疲れを癒してくれ」

 これから作業か……。休む間もなく。シンクという子のためとは言え、盗賊団って感じがしないよな。だからこそ入るときに抵抗が少なかったのかもしれないな。

 「みりんさん!行きますよ!……大丈夫ですよ。ボスは体力ゲールですから」
 「その胸引きちぎるぞ」

 キャッキャワイワイと騒ぐジョーカーさんとルルさん。はたから見るとコスプレした女子高生みたいな感じだな。今思えば俺がこの中で一番年上なんだろうな、たぶん。……ゲールって何だ。





 ―――2日目
 部屋に連れられて2日が経った。もちろんその間何もせず寝ていたわけではない。きっちりばっちり調べさせてもらいました。
 部屋に来る道中、及び部屋の中、中世チックな飾り具合だ。
 おいてあった3冊の本はすべて日本語……見なれない単語もあるが大体読める。残念ながら魔法に関する本はないが、やはり驚くべきは日本語で書かれているという点だろう。文法もほとんど日本語と言っていい、問題なくすらすら読める。ゲームと似通っているとはいえ異世界で日本語が使われているってどうなんだよ。いや、日本語が使われてなかったら積んでいるが……。
 そしてお風呂!いや、お風呂が実際にあるのかどうか多少不安もあったが、普通にあった。それもシャワー付きで。まさにゲームの中と同じだった。しかし残念なことに、食事の主食は米ではなくパンやスープ、肉がメインだった。懐かしきかなつやつやの白米。数日食べていないだけでここまで食べたくなるとは……!箸はないがスプーンとフォークが準備されたため、食事に苦戦することはなかった。
 ……もしかして俺達がゲームとしてプレイしていたのは別世界の現実だった?別世界に分身体アバターを創造し、それにログインして現実をゲームとして遊ぶ。………んなわけないか。なんだよ分身体って。
 考えれば考えるほど分からなくなるな。歴史が載っている本も読んでみたい。後で聞いてみるか。
 しかし……暇だ。考える時間が欲しかったが、判断材料が少なすぎる。思考ループに陥るだけで進展しない。進展がない以上ベッドの上でゴロゴロするしかない。次ルルさんが来たとき聞いてみるか。

 「(魔法や歴史が載ってる本が読みたいのだけど、あるでしょうか?)」
 「……はい?」
 「(実は記憶が曖昧でして……本を読んでるうちに思い出すかもしれないと!)」
 「な……なるほど!って頭でも打ったんですか!?」
 「(打ったのかもしれません……)」
 「……わっかりました!お任せください。ボスももう少し時間がかかるようですし……んーどうせなら書庫に行っちゃいましょうか?1万冊を超える本がありますし、ここにずっと居るのも退屈でしょう?」
 「(ぜひお願いします!)」

 そして今に至る。ルルさんは俺を案内してまたどこかにいってしまった。此方としては好都合。ゆっくり読ませてもらうとしよう。お……『精霊の森』ってタイトルがあるな。何々……精霊の森は出会いと別れの場所です。相手探しは慎重に。……何の相手だ。
 タイトルを斜め読みしてめぼしい本だけ読んでいったが、魔法関係の本置いてないな。歴史と地理情報が分かるだけ十分か。最近の歴史は……魔族の襲来とか書いてあるな。ルルさんからもらった紙にめぼしい歴史だけメモっておくか。
 500年ほど前に魔族との戦争があったが、9人の英雄の活躍により人間・ドワーフ・エルフ側の勝利で終わった……か。そしてニルマ語が公用語となったのが450年前か。それ以前の言語は国々によって違うな。
 そして今がAL(Ark Low)1901年。英雄なんてやつらがほんとに実在する世界なんだな。しかも9人で戦争終わらせたみたいに書いてあるが……さすがに誇張表現だよな。他には…………。

 ……。いつの間にか眠ってしまったようだ。頭の中に全部が全部入ったわけではないが、この世界についてなんとなく理解したといったところか。後はこの世界で行動するうちに本の内容を理解していくだろう。
 その後ルルさんが戻ってきて、雑談(筆談)をしながら食事をとり、眠りについた。

 ―――3日目
 ついにジョーカーさんの薬づくり?が終わったようだ。ルルさんに呼ばれ、ランナーに向かっている。ランナーと言うのは日本語で言う会議室の様なもののようだ。

 「来たか、みりん」
 「この人が……!」
 「ほぉ……」

 ジョーカーさん以外に二人いるな。茶髪で長髪の渋いおっさんと緑色の髪の少年?だ。もしかしてこの子供がシンクと言う子なのだろうか。

 「ささっ、みりんさん此方にお座りください」

 促されるようにジョーカーさんの真正面のイスに座る。ルルさんはそのままジョーカーさんの隣に行き、立っている。まるでメイドさんのようだ。

 「うっし、それじゃ……自己紹介といくか。まずファングのおっさん」
 「……まだ33なんだがな」
 「十分おっさんです」
 「……あぁ、俺はファング・ランダルトと言う、気軽にファングと呼んでくれ。君の事は聞いている。これからよろしく頼む」

 自分より年下の子におっさん、おっさん言われると傷つくよな……。近年は盆や正月に親戚の子供に会う度に言われてたからな。
 ルルさんからもらった紙にもう書くスペースがないので会釈であいさつをする。あまり良い意識はされないだろうが仕方ない。そして次に……。

 「あ……あの!俺……俺!シンクって言います!ボスとルルから聞きました。助けてくれてありがとうございました!」

 やはりこの子がシンクと言う子のようだ。……男だろうか、女だろうか。俺って言ってることからして男……いや、ジョーカーさんと言う例外が目の前にいるしな。声が高く、顔も美少年でも美少女でも通用する。髪の長さも中途半端で余計わからん。助かってよかったな。しかしながら……目がキラキラしている。ものすごく尊敬しているような目が俺に向けられている。……シンク君(仮)になんて説明したのだろうか。

 「改めまして、私はルカ・ルーカスです。ルルって呼んで下さいね!」

 再び会釈。今思えば何かのゲームで聞いたような声だ。何だっただろうか。立ち位置的にはジョーカーさんの補佐なのだろうか。

 「最後に俺様だな。クウネル・ジョーカーだ。ボスでもジョーカーでも好きに呼んでくれていいぜ。他の奴らの自己紹介もしたいところだが、居ないやつ紹介しても顔と名前が一致しないしな。居る時に紹介するぜ。内部構成員は9、いや、みりんを入れて10人だな」

 ジョーカーさんと出会った結果が今に至るんだよな。出会っていなかったら今頃どうなっていたのだろうか。今頃ルキス町でギルドに入っていたかもしれないな。

 「そして、こいつがみりんだ。天性の才能と言うべきか、動きがおかしい時もあるが、圧倒的な近接戦闘能力を誇る期待の星だぜ。ただし、障害持ちのため、ほとんど喋れない。会話をするとなると本人は筆談が主体になるが、よろしくしてやってくれ」

 各自よろしくとあいさつ。まぁ、『ハハッワロス』と喋ってしまう時があるから、単純に喋れない設定じゃいけないんだがな……。

 「顔合わせはこれで終わりだな。それじゃいったん解散とする。ルル、悪いがみりんに部屋の案内してやってくれ」
 「……んー、一通り……案内すればよろしいでしょうか?」
 「あぁ、一通り頼むぜ」

 斯くしてファングのおっさんとシンク君(仮)、ルルさんの3人でアジトの中を回ることになった。


 しかし――――広いな。
 寝泊りする小部屋に案内された時から思っていたが、広い。これで俺を含め10人しかいないのか。……どんな規模の組織なんだ。
 3人にあっちこっち案内されながら問いに答えていく。親睦を含めるのが目的って感じかな。

 「みりん君は近接戦闘のスペシャリストとのことだが――――どこかで師事していたのか?」
 「(あっちこっちから見よう見まねで技を取り入れているので、我流と言っていいでしょうか)」

 嘘は言ってないぜ!多くの漫画やアニメに登場する見た目かっこいい戦闘術を取り入れている。

 「我流でボスにあそこまで言わせるか……後で手合せしてみないか?互いの実力を知っておいた方が今後組みやすい」
 「(こちらこそお願いします)」

 可能性としては考えていたけど、まさか本当に手合せを頼まれるとは……。断るのも変なので了承する。腰に剣を刺してるってことは剣で勝負だろうか。さすがに真剣では戦わないよな……?

 「あのっ!みりんさん、俺ともお手合せお願いします!」
 「し〜ん〜く〜、まだ病み上がりなんだからダメです!あなたに何かあったら……ううっ」
 「うっ……分かりました。でもいつかお願いします!」
 「(体調が万全な時にやろうか)」
 「えっと……はい!」
 「ふふっ、みりんさん、その調子でどんどん漢字を使って行ってくださいね。シンクはまだ読み書きが不十分なんです」
 「が、頑張ります……」

 まだ子供だしな。しかし――――漢字か。この国……いや、この世界ではではニルマ語が公用語として使われている。ニルマ語は漢字、ひらがな、カタカナから成り立っており、俗にいうカタカナ語なんかも外来語として浸透している。なんかほんと……日本と大差がないな。違うのは識字率の低さ位か。
 さっきからふんだんに紙を使っているが、ぶっちゃけ高いらしい。もちろんペンも高い。両者の値段が高いことが、識字率を下げてる要因だろう。この盗賊団が識字率高くてよかったぜ……。
 高価な紙を使いまくってるからな……。ちゃんと働かなければ!どんな仕事をすることになるか……用心棒とかだろうか。この盗賊団が見た感じ相当裕福だとしても、会話するだけで金を消費していくと考えると心苦しいよな。今の状態ただのヒモだし。

 「以上で案内を終了します!たぶん――――そろそろボスからお呼びがかかると思いますのでランナーにいっときましょうか」
 「次のミッションの指示だろうな」
 「俺はまだ留守番かなぁ」
 「そうですね。でも、シンクはボスと魔法のお勉強だと思いますよ?」
 「ほんと!?」
 「たぶん……ですけどね」

 3人の会話を聞きながらランナーに向かう。つらいです。正直つらいです。会話に入り込む度に紙というお金がかかり、相手に見せなきゃならない。質問もしてくれるけど明らかな壁を感じています。早くまともに喋れるようになる方法見つけなきゃな……!

 「おっ、戻って来たか」
 「ばっちりです!」
 「おっほん!それじゃ今後についてだぜ。まずはシンク。俺と一緒にこの前の魔法の勉強の続きだな」
 「やった!」
 「はっはっは、シンクは魔法の勉強が好きだな」
 「楽しいです!」

 シンク君(仮)……無邪気だな。その無邪気な笑顔はお兄さんにはつらいです。勉強が好きだったのは何時頃までの話だっただろうか。魔法の勉強なら今の年でも楽しくできるかもしれんが、やってみないと分からないな。魔法に憧れはするが、ゲーム中の魔法と言うのは簡単に覚えられるものばかりだったからな。

 「次におっさん。アーカム港で近辺の情報収集と『ルーラン』について調べてくれ」
 「了解した」
 「(『ルーラン』って?)」
 「不死鳥が宿るって言われている奉剣の一つですよ!」
 「今まで何本か見てきたが全部贋作だったからな。いい加減本物様と巡り合いたいぜ」

 見つかったら盗むことになるんだろうな。しかし、シンク君(仮)は盗むことに抵抗はないのだろうか。この顔を見る限り、嫌々盗賊団にいるってわけじゃなさそうだしな。

 「最後に、みりん。ルルと一緒にルキス町のギルドに潜入してもらう。心配するな。声の方はどうにもならないが、外見はこれである程度変えることができる」
 「みりんさん!守ってくださいね!」

 ルルさんの笑顔に無意識のうちに頷きで答える。間違いない。この娘モテるっ……!そして、ほいっと渡されたのは銀色の腕輪。あのギルマスとローザさんに顔が割れてるが故のこの……外見を変えられる腕輪か。

 「この1~2か月の間に山狩り……別名龍殺しが行われると情報を掴んだ。目的は山頂、龍の巣にあると言う『アルージャの奉剣』だ。長〜いギルド生活の始まりだぜ。詳しい事はルルに聞いて臨機応変に行動してくれ」
 「了解です!」

 ……奉剣ばかり狙っているようだが何かあるのだろうか。いきなり聞いても話を逸らされそうだしな。それとなく聞いてみるか。しかし、龍殺しってドラゴンと戦うのか。ドラゴンと言ってもピンからキリまでいるからな……。ゲーム中では〜ドラゴンとしか呼び名がないやつは、そこそこのスペックがあればソロで倒せる存在だ。しかし、森の刻龍アルザルハルドスなど〜ドラゴンと呼ばれないやつらは相当スペックがあってもソロではきつい。ノーダメソロ動画もかなり上がってはいるが、何度も死んで何度も戦ってその龍に対応した自分だけの動きを覚えなければならない。まぁ、慣れない人は復活の羽使用しまくってソロしてたんだけどな。
 ……考えてるうちに他の話が終わってしまったようだ。なんとなく聞いていたが特に気になるとこはなさそうだ。

 「それじゃ解散ですね!みりんさん、7,8日後くらいで出発ですので準備しておいてくださいね!」
 「あぁ、みりんはちょっと残ってくれ、皆は部屋に戻っていいぜ」

 なんですと。明日出発かよ!そしてジョーカーさんから何か話があるようだ。……何だろう。

 「あらら、ではお先に失礼します!」
 「みりん君、どうやら模擬戦は先にお預けのようだ。楽しみにとっておこう」
 「その時は俺もお願いします!」
 「ほらほら、解散解散!」

 慌ただしくも3人は部屋を出て行き、その部屋には俺とジョーカーさんだけになった。……ちょっとだけドキドキするな。さぁ、話を聞こうか!

 「クヒヒ、みりん、俺様の仲間はどうだった?なかなか面白い奴らだろう?」
 「(ええ、あのシンクと言う子も盗賊団なんですよね?)」
 「そうだぜ。あぁ、子供だからと言いたいのか。……まずみりん、誤解を一つ解いておこうか。盗賊と言っても金銭や女、食糧を盗んでいる訳じゃないぜ?ある目的のために力ある人材、アイテムを集めている。その過程で盗むことがあるだけだ。だったらいっその事盗賊団を名乗ればいいって話になってな」

 ……まぁ金銭目的じゃないだろうとは思っていたが、ある目的……。力ある人材ならあの時のギルマスやローザさんも当てはまる気はするが、盗賊を名乗ってるから誘えないのか?

 「(目的とは?)」
 「……一言でいえば、そうだな。うーむ。未来を変えるってとこか。詳しくはおいおい話してやるよ」

  戯けた感じじゃない。本気……か。なんだかゲームのストーリーに乗っかってるような気分だ。

 「クヒヒヒッ、まぁこの話は置いておこうぜ。そうだな……『アルージャの奉剣』を手に入れたら教えてやるぜ。他に聞きたいことはあるか?」

 まぁ、入ったばかりで本当の仲間……とは認められてはいないだろうからな。それはしょうがないか。

 「(聖獣と敵対してはいけない理由とは?)」
 「ん……みりん知らなかったのか。どこかちぐはぐしてるな。まぁそこが面白いんだが。……聖獣とは世に具現した精霊の中でも知識を持つ者のことの総称だ。100年以上前は敵対を禁止する法なんてなかったんだがな。俺様クラスになれば分かるが、多くの人間が初見で聖獣かどうかの判断なんてできないぜ」

 確かに初見じゃ判断なんてできないよな。

 「聖獣は自ら人間を狙うことはない。いや、人間をくらう必要がないから敵対しないと言っていいか。魔獣は生きるために他者を食らうが、聖獣は生きるためにマナを食らう。もちろん戯れに人を殺すことはあった」

 聖獣はマナを食らい。魔獣は他者を食らうか。なんとなくイメージはつかめたな。

 「そして、聖獣の中でも共生聖獣とは、500年前、英雄の一人―――大賢者アギルドが契約を結んだ聖獣。契約により人と生きることを選んだ聖獣たちだ。例えば、先日の精霊の森、近くに町はあるが、町まで魔獣が出ることはない。それが何故か分かるか?」
 「(もしかして、聖獣が見張りをしている?)」
 「察しがいいな。故に人は精霊を恐れるし敬いもする。だが―――その契約を知ってか知らずか好き勝手にする者もいた。昔、ある冒険者たちがいた。そいつらは強かった。いくつものダンジョンを攻略し、金も装備も充実していた。しかし、冒険者たちは飢えていた。もはや冒険者たちにとって金も装備も目的じゃなくなったからだ。目的に辿り着くまでの過程こそが目的となっていた。そして、次の標的として選んだのが共生聖獣フィアリーデイズだった。戦いは至難を極めたが、最後に勝ったのは冒険者たちだった。仲間からは反対の声も出たが戦利品として、聖獣がドロップしたアイテムを持ち帰り、傷を癒す間も惜しみ、三日三晩騒いだ」
 「(その冒険者って)」
 「―――これが駄目だったんだ。ドロップしたアイテムとは聖獣の卵。そしてそれを持ち帰ってしまった。大賢者アギルドがした契約はこうだ。―――私たちはお前たちの住処を奪わない。だからお前たちも私たちから住処を奪うな。―――まぁ、お互いの陣地を維持するようお互い協力しましょうって感じだな。しかし、聖獣の卵を持ち帰ってしまったばかりに、共生聖獣フィアリーデイズの陣地が空いてしまった。卵をその場においておけば問題はなかったんだが…。それに対して他の共生聖獣の怒りを買ってしまい。―――近隣の町7つが1日で滅ぼされた……ってなことがあってな。尾ひれ羽ひれついて今じゃ法で禁止されるようになったんだぜ」
 「(間違って攻撃したり、そもそもシルバーレギンは大丈夫だったのか?)」
 「ああ、仮に倒したとしても、ドロップアイテム―――卵を持ち帰らない限り実害はないんだぜ。まぁ、戦うこと自体法で禁止されてはいるがな!」

 聖獣との敵対が法で禁止されている理由は理解した。色々理解したが、それだと何故ギルマスのおっさんやローザが引いたのかの説明には合わないような。真実と一般的に広まっているものが違うのか?

 「(一般的にはどのように広まっているんですか?)」
 「ほう。良く気付いたな。今話したのは真実だ。だが一般的に広まっているのは共生聖獣と敵対すると他の共生聖獣たちが怒って攻撃してくるぞって感じだ。まぁあのギルドのおっさんはあんまり信じてはいない様子だったが、立場上引かざるを得ないからな。クヒヒ」
 「(紐解けました。)」

 非常にジョーカーさんが眩しく感じるのは失敗を恐れていないように見えるからか。可愛いからって言うのもあるが、堂々とし過ぎている。いつも逃げ道を模索している俺とは違うからか。
 しかし、この世界に来てからの出来事全てが別世界の現実だなとしか言えない。ゲームとも色々違うし、全ての表現が真に迫っている。言葉を取り戻すことを第一に、この世界で生計を立てていくように考えていったが良いか。

 「まぁ理解してくれたようでなによりだ。……あぁ、話がそれたな、みりんを残した目的は……こっちだぜ」

 薄ら青く光る水の入った瓶が置かれる。……こいつぁいったい。

 「この間の『クリア』が少し余ったからな。その余りを使って調合した薬だ。さぁ、みりん。ぐいっと飲んでみな」

 何か光ってるが大丈夫なのか……?ジョカーさんは……飲むまで答えを教えてくれなさそうだな。ゴクンと一気に飲み干す。味は普通の水だな。

 「どうだ?…………何か喋ってみてくれ」
 「ハハッワロス(ビール飲みたい)」
 「……はぁ。これじゃだめか。今みりんが飲んだのはあらゆる呪術や魔法による障害を打ち消すと言われる『ディスペル薬』なんだが、これじゃダメとなると。それこそ伝説クラスの『エリクシル』でも飲まない限り治らないかもしれないぜ……」

 ファンタジー物なら多々登場する最高位の回復薬か。ゲームないでは見たことも聞いたこともなかったな。ならば言葉を取り戻すのはまだまだ先になりそうだな。

 「(エリクシルってどうやったら手に入るか分かりますか?)」
 「そもそもエリクシルの製法自体現代では失われているからな。王国図書館の禁書庫になら残っている可能性もあるが、まぁそこんとこは調べといてやるぜ。気長に待ってくれ。後は何か聞きたいことはあるか?」

 『ハハッワロス』に関しては気長に待つとしますか。世界の勝手がわからないからジョーカーさんに任せっきりになるだろうし。紙とペンがあれば特に問題もないしな。軽はずみに出た言葉がすべて『ハハッワロス』なため、相手を煽ってしまうのは問題だが…。
 聞きたいことか。色々有りはするんだが、聞きにくいこともあるからな。当分はこの世界で生きることだけを考えよう。初めに体の動かし方を―――そうだ。空きスペースを貸して貰えないだろうか。

 「(ありがとうございます!…そうですね。どこか体を動かす場所ってありますか?ギルドに潜入するまでの間ちょっと体を動かしておこうと思いまして)」
 「おっ、そうだな。それじゃあうちの訓練スペースを貸してやるよ。暫く誰も使わないだろうし好きに使っていいぞ」
 「(ありがとうございます。使わせていただきます!)」

 本当にお世話になってばかりだ。肩身狭いので何とか恩は返します。
 まずは自身のスペック把握に努めますか!

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第四話【その実の名は】
小説まとめ




posted by あまちゃ at 22:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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