Zはいかなる時もひるまずナイフを振る。それがだんだんΩをかすめるようになった。Ωの着ている衣装は破れていく。Ωもナイフを振りかざす。その刃先がZをとらえ、Zの衣装も破けて、傷がつき、鮮血が飛ぶ。こうした惨状はまるで戦争そのもので、憎しみ合い、殺し合いだった。その果てにあるものは何か。それが分からず、両者は互いの意志を突き合わせ、闘い続ける。
Z:「今の私はあなたを倒すことしか頭にない」
Ω:「それは私も同じだ」
腕や脚から血が滴り落ちる中で、青森の弘前が白地から赤く染まっていく。ぬかるんだ大地はけたたましく雄叫びを上げ、悲鳴にも似た震動が日本列島を駆け抜ける。鎮魂歌が聞こえてきて、静かな大地の震動に思わず声がかすれる。
一方のVと∑も激戦の様相を呈し、衣装はもはや血で染まっていた。髪を振り乱し、奇声を上げて相手の急所を突こうともがく。なれの果てにあるものが何か分からず、武器を手にしゃにむに闘う。この地で生と死が交錯する中、呼吸をするのも神々しい。その呼吸音が空気を震わせ、大地の地下深くに染み渡る。
神の息が吹き付けられ、寒さで思わず身震いする。鳥肌が立ち、爪が割れるほどナイフを力強く握る。
V:「あなたをここで倒す」
∑:「その先にあるものは何かな」
∑はナイフを素早く振りかざし、Vの右腕をとらえた。ぐさりとナイフがVの右腕に突き刺さる。血が飛び散る。Vは悲鳴を上げる。もはやVの右腕は使い物にならない。確実にVの右腕は戦闘力を失っている。それを聞いたZがVのほうを見る。Vの形勢が不利だ。Vが渾身の力を込めてナイフを振る。それが∑の脇腹をとらえる。∑が奇声を上げて倒れる。それは∑の急所を突いた。∑が悶え苦しむ。またしても形勢が逆転した。∑の眼が閉じかける。徐々に戦闘力を失い、虫の息へと変わっていく。しかし、Vもその場に倒れる。お互いが死力を尽くし、力が残っていない。Vの体は血だらけだ。
そして、Vの状況をちらりと見たZは隙ができて、そこをΩがずる賢く突く。そのナイフはZの左脇腹をとらえる。ぐさりと急所に突き刺さり、Zは目の前が暗くなる。チカチカとした眩暈に襲われるが、必死の抵抗を見せる。Zが最後の力を振り絞り、Ωの左胸を鋭く突く。それがものの見事に突き刺さる。Ωも血が飛び散る。そして、両者同時にその場に倒れる。倒れ込んだその地点は血で真っ赤だ。赤と白のコントラストが鮮やかに地面を浮かび上がらせる。冬から春になろうとする弘前の景色。Zが仰向けに倒れて見た視線の先の景色は真っ青な大空だった。眼が涙で満たされ、景色がどんどんかすんでいく。天使の歌声がどこからともなく聞こえてくる。視界がぼやけた。その視界に入ってきたのは最後の力で立ち上がったΩだった。Ωが不敵に笑う。
Ω:「これで最期だ」
Ωが手に持っていたナイフを振りかざし、Zの心臓目掛けて振り下ろそうとする。万事休す。