今回、直木賞を受賞された今村翔吾さんの『塞王の楯』を読ませていただいたので、僭越ながら感想を述べたいと思います。もちろん、ページ総数が552で、まだ全部を読んだわけではないのですが、受賞のほとぼりが冷めないうちに、販売促進の意味も込めて、できるだけ早めにアップしておいたほうがいいという私個人の判断ですのでご了承ください。

 この物語は戦国小説で、城の石垣を造る職人の匡介と、どんな城をも落とす鉄砲隊のストーリーで、前半部分はその匡介と源斎の二人の人物が軽快に物語を組み立てていきますね。いつもの直木賞作品は文体や語彙が非常に卓越していて、すらすらと読みにくいのですが、今回の今村さんの作品はずっしりと重い分量であるにもかかわらず、非常に読みやすいという印象を持ちました。城を造るまでの工程が非常に複雑で、長くて短い期間を経ているという点や、戦(いくさ)に備えるであろう昔の戦国時代に生きた者たちの心情が、この物語を通して、ありありと実風景が描かれていて、長編小説の達観を見た気がしました。また、滋賀県の大津城や琵琶湖も登場してきており、日本の大学時代を思い起こして、非常に親近感と懐古の情をしのばせる内容となっていたように思います。そして、物語の始めに、城の外観を表した図がついている点もいいと思っています。

 一方で、ストーリーが後半に進むにつれて、その長編故の中だるみ的なものも感じる点が気になりました。無論、今村さんの渾身の作なので、大それたことも言えませんし、私がそこまでの人間ではないので大きなことが言えませんが、ストーリーを長編にする時に読者を飽きさせない工夫も欲しかったかなと感じています。私は今村さんほど長編小説や脚本を書いているわけではありませんが、曲がりなりにも過去にいつくか書いてきて、途中で飽きさせない努力も私自身いくつか敢行してきました。本当に難しいですよね。そこが気になりました。それと、これも気になった点ですが、戦国時代の割には匡介や玲次といった現代風の名前もいくつか登場しますね。穴太衆の源斎などは別として、その時代にそぐわないといったらおかしいですが、そういう名前を設定する意図は何だったのかなと感じました。あくまで私個人の意見ですので無視しても構いません。

 以上のように、私は今村翔吾さんの『塞王の楯』を読ませていただいて、その卓越した執筆体力と歴史総観力に魅了されました。私もこれから脚本などを執筆するにあたり、参考にする部分を汲み取り、良い面はどん欲に盗んでいこうと思いました。これからも今村さんには素敵な物語を書いていってほしいと思っています。本当におめでとうございます。